日本のみならず、ロンドンやパリでも40度を超える気温が記録され、アメリカでもバイデン大統領が気候緊急事態の宣言を検討するなど、世界各地が熱波に襲われるなか、新たな肩書きの人物が誕生している。CHO=チーフ・ヒート・オフィサー、酷暑対策の責任者だ。
熱波対策のため戦略的な行動計画が求められる都市
ワシントンポスト紙によると、アメリカのマイアミ、フィニックス、ギリシャのアテネに続いて6月、ロサンゼルス市も初のCHOを任命した。任命されたのは、公衆衛生を専門とするマーサ・セグラ。UCLA大学の調査を引きながら、熱波のせいで病院に運ばれる人や、死亡のリスクが高まっているとして、対策の必要性を強調する。
CHOの守備範囲はインフラにも及ぶ。熱によって道路や鉄道が歪むことによって引き起こされる事故もある。それを防ぐためのインフラ投資を提言するのもCHOの仕事だという。バス停に日除けをつけたり、市内各所に補助金を出して給水所を設けるといった対策も進めている。こうした広範囲な領域をカバーしながら、セグラは、現在、戦略的な行動計画を作っているところだという。
地球温暖化の悪影響は貧しい地域ほど厳しい
米ノースイースタン大学のウェブマガジン「Experience」は、アフリカ・シエラレオネの首都フリータウンでCHOに就任したユージニア・カグボの苛烈な証言を載せている。
1991年から2002年まで続いた内戦が終わってから、首都の人口は膨らみ続け、2015年に100万人だったフリータウンの人口は127万人となった。地方から流入した人々は木を切り倒して斜面に密集してトタン屋根の小屋を作り、熱は逃げ場を失っている。
「『アフリカだし、熱帯だから』と人は言うかもしれない。それが問題の過酷さを見えにくくしているのです」とカグボは言う。そもそも暑いフリータウンで、さらに数度でも気温が上がるということは、人間にとって耐えられない暑さになるということなのだ。
加えて、貧しい地域では、食糧や住居、きれいな飲み水や下水設備の方が緊急課題として目を引くために、気候変動対策が後回しになりがちでもある。しかし、フリータウンでは、裸足の子供たちがアスファルトの上で遊ぶと足を火傷し、トタン屋根の家は夜も暑くて眠れなくても、電気がないせいで扇風機も回せず、通気のためにドアを開けて眠れば泥棒に入られるなど、安全を確保することができず、直接的に心身が危険に晒されている。
ノースイースタン大学で持続可能性のための科学と政策を研究するジェニー・ステーブンス教授は、「人間の体が正常に機能できる気温を保つことは、基本的人権と考えなければいけない」と語る。
暑さに「バディシステム」で立ち向かう
国連防災機関(UNDDR)のウェブサイトPreventionWebは、「ヨーロッパで最も暑い都市」のひとつ、アテネのCHOエレニ・ミリヴィリの言葉を紹介している。
「2050年までに、世界1,000の都市で、16億もの人々が、人間の体やインフラが耐えることのできない暑さと戦わなければならない未来がやってくるでしょう」。そうしないためにも、CHOとしてできることをやっていかなければならないと言う。
緑化や予報の精密化といった対策とともに、ミリヴィリが強調するのが、相互扶助に基づくコミュニティの強化だ。新型コロナウイルス感染の中でも必要性が言われたように、近隣の人が困っていないか、お互いにケアし合う「バディシステム」の有用性は温暖化が進む世の中でも力を発揮する。加えて、人々が行動を変化させるには「お互いを信頼し合うこと」が必要であるため、CHOとしてそこにも心を砕いているという。