難民シルエット(イメージ) 画像:shutterstock
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変わりゆく日本の難民受け入れ 世論が動かす難民政策【滝澤三郎】 

国連難民高等弁務官事務所UNHCRの元駐日代表・滝澤三郎氏(東洋英和女学院大学名誉教授)が、日本の難民支援の在り方について提言する。

滝澤三郎(たきざわ・さぶろう)東洋英和女学院大学名誉教授/UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)元駐日代表/ケアインターナショナル・ジャパン副理事長。長野県出身。法務省より、カリフォルニア大学バークレー校経営大学院への留学を経て、国際連合ジュネーブ事務局へ。2002年国際連合難民高等弁務官事務所(UNHCR)ジュネーブ本部財務局長。2007年UNHCR駐日代表を務めた。国連大学客員教授、東洋英和女学院大学教授を経て、現職。著書に『国連式:世界で戦う仕事術』(集英社新書)

難民受け入れの3つの型

国際的な難民保護の基本は「領土的庇護」で、逃げてきた難民を自国領土内に入れて「主権のカベ」で保護する。いったん入国すれば難民条約の「ノン・ルフ―ルマン原則」によって、難民不認定と判断されない限り、強制的に退去を命じられることはない。難民認定手続きはどの国の出身かに関わらず、「迫害の恐れがあるか否か」の認定を目的に無差別に行われる。

・待ち受け型

難民(申請者)は自力で目的国にたどり着かなくてはいけないから、「自力救済型」の保護と呼べる。受入国としては、領土に来るのを待って審査に入る「待ち受け型」の受入れだ。そこでの主役は、難民申請者が難民として認められる条件を満たしているかを判断する入管庁であり、その主たる任務は「難民認定行政」だ。

・他力救済型

しかし、ほとんどの難民は、ビザ取得とか旅費の工面ができず、日本まで自力ではたどり着けない。そのような難民については「他力救済型」の受け入れがある。難民が日本に来るのを待ち受けるのでなく、外国まで出かけて行って連れてくるのだ。その典型は「第三国定住」で、難民キャンプなどで何十年も暮らす難民の中で、特に保護を要する者を選考して日本など先進国が受け入れる。日本政府は、マレーシアなどアジア諸国に暮らす難民の一部を年間60人ほど受入れ、日本語訓練や就労支援などの定住支援をしている。第三国定住は難民条約上の義務ではなく、どの国にいる難民を何人ぐらい受け入れるかは、日本政府の「難民政策」に委ねられる。

・折衷型

第3は、「他力救済」と「自力救済」の中間の「折衷型」受け入れだ。日本大使館関係者などアフガニスタン退避民や、1,800人を超えるウクライナ避難民の受入れに観られるように、普通では厳しい条件が付くビザ要件を緩和したり、旅費を工面できない者については飛行機に席を確保するなどで来日を容易にする。来日後に難民申請をするか否かは各人に委ねる。このような優遇措置は条約上の義務ではなく、政府の人道的・外交的判断に基づいて行なわれる。

政府が難民受入れに積極的になるのはこんな場合

日本政府は、このほかにも、昨年の国軍クーデターで帰国が難しくなった35,000人の在日ミャンマー人に対して、希望者全員に在留期間を延長するなどの特別措置を取った。これも過去とは大きく異なる政策だ。となると、なぜこれら3か国出身者だけが特別扱いになるのか、なぜ同じ政策をシリア難民やバングラデシュのロヒンギャ難民には取らないのか、という疑問が出てくる。

政府の受入れ決定の際に考慮される要因はいくつかあると思われるが、それらは次の4つのカテゴリーにまとめられよう。

・人道的考慮

第1は人道的考慮だ。出身国での迫害状況、難民や避難民の命へのリスク、脆弱性、命を救うための緊急人道支援の必要などだ。世界的に見ると、ウクライナやアフガニスタン、ミャンマー以外にも、命を守るための緊急援助を必要とする状況は多い。コンゴ民主共和国、ブルキナファソ、カメルーン、南スーダン、チャドなど、多くの日本人がどこにあるかも知らない国々で、数百万人の難民・国内避難民が救援を待っている。先進国がウクライナ支援に資金を集中する中で、これらの国での人道支援資金は不足している。国際社会の解決に向けた政治的意思、メディア報道、援助資金のいずれもが減っているのだ。

・外交的考慮

第2は外交的考慮だ。UNHCRなど国際機関からの要請、日本にふさわしい国際的責任がある。8,000キロ離れたウクライナの場合は、G7諸国と連帯して国際秩序を守るといった安全保障政策の考慮から避難民の受け入れがなされた。難民受け入れと国際政治がリンクする例だ。 

・支援の容易さ

第3は受け入れ後の定住支援の容易さだろう。教育歴や英語ができることなどによって、日本で就労でき、経済的な自立能力があるかが重視される。都市型生活に慣れているかとか、文化的な近さや親和性もあるかもしれない。日本は大量難民の受入れに慣れておらず、定住支援インフラも不十分なので、「易しい」ケースが取り上げられ易い。

・世論の支持

第4は社会的受容度ないし世論の支持だろう。これが政策に及ぼす影響は大きい。ウクライナ避難民に対しては「支援ブーム」とも呼べるほど自治体や企業、大学の支持がある。これに比べてアフガン難民への支援は勢いを欠く。ロヒンギャ難民を数百人受け入れると政府が決めたら、どのくらいの自治体が受け入れに手を挙げるだろう。難民受け入れにかかる道義論はともかく、現実には人々の「心の中の国境」は全ての難民に平等には開かないし、世論の支持のない受入れは、難民も地域住民もハッピーにしない。

難民受け入れについての国民的議論を

「積極型の受入れ」ではいくつかの要素が総合的に考慮される。ウクライナでは安全保障が前面に出た。アフガニスタンでは日本との関係が重視されたようだ。このほかにも支援予算など、考慮される要因はあるだろう。全ての国の全ての難民を積極的にかつ無差別に受け入れて救済することはどの国にもできない。受入れ難民の「選別」は 避けられない。ワールドビジョンを設立したボブピアスが述べた「すべての人々に何もかもはできなくとも、誰かのために何かはできる」は、難民の受け入れにもあてはまる。

「待ち受け方」から「積極型」への転換は、日本の難民政策史上の転機だ。この際、どの国からどのくらいの難民・避難民を受け入れるのかという政策課題を国民的に議論して、日本としての受入れと支援の基準を作り上げることが必要だろう。法務省(入管庁)ほか外務省や厚労省などの関係省庁だけでなく、支援団体、自治体、大学、企業などが加わった言論プラットフォームで議論し、日本としての難民政策を決めることが望まれる。