勉強する子ども 画像:shutterstock
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新型コロナウイルス蔓延による世界的な学力低下のなか、ボツワナが健闘

感染拡大防止のために長引いた学校閉鎖によって、児童の学力が大きく減退したことが世界各地の調査で明らかになり始めた。

パンデミックが消し去った米国20年分の学力

ニューヨーク・タイムズ」が報じたところによると、9月1日に発表された全米教育進捗評価テスト(今年初めに実施)の集計を見ると、9歳児の算数と読解テストの点数が20年前のレベルまで落ち込んだ。このテストは1970年代初頭から約15,000人を対象に続けられており、過去30年で最も大きな落ち込みだという。

点数は人種や親の所得を問わず全体的に落ちているが、新型コロナウイルスが拡がる前の2020年初めの結果に比べて、成績上位1割の下落率は算数で3ポイントだったのに対し、下位1割の児童の点数の落ち方の方が大きく、12ポイントだった。また、白人児童の点数が5ポイント落ちたのに対し、黒人では13ポイントだった。背景には、黒人や中南米系、低所得層の多い都市部の学校が長く閉鎖していたこともあると専門家は見る。

9歳児で20年前のレベルまでの学力低下とは何を意味するかといえば、物語を読んでも部分的にしか理解できず、登場人物の心情を語ることはまずできない。算数では、単純な計算はできても、分数の計算がおぼつかないレベル。

ブラウン大学で教育の不平等を研究するスザンナ・ラーブ教授は、小学校低学年で勉強ができないと学校が嫌になって進学を諦めることに繋がりやすいため、最終的にどの程度の教育を受けるかの予測材料になると述べている。それほど、低学年の学力は大切だという。

また、ハーバード大学のアンドリュー・ホー教授は、遅れが大きくなればなるほど取り戻すのに時間がかかると言い、トップ1割が3ポイントの遅れを取り戻すのに9週間かかるとしたら、12ポイント遅れた子がそれを取り戻すのには36週間、つまり9ヶ月もかかると懸念する。

教育の危機は世界的傾向

パンデミックが教育にもたらした影響については、UNICEF(国連児童基金)も懸念を示している。今年初めの時点で学校閉鎖の影響を受けている子供は世界で6億1600万人。新型コロナウイルスが蔓延したこの2年間のインパクトは、「乗り越えられないかもしれない規模で児童の教育に喪失をもたらした」とロバート・ジェンキンス教育部長は語る。とりわけ、より小さな子供、貧困層で打撃が大きい。

低所得・中所得の国では、学校閉鎖で教育の機会が失われたことにより、10歳児の70%が読むことや単純な計算をすることができなくなっている。パンデミック前はこの数字は53%だった。

エチオピアではコロナ前に比べて、算数の進み方が3割から4割程度にとどまった。

ブラジルのいくつかの州では、2年生の4分の3が読むことに苦労しており、パンデミック前の半分より悪化している。また、ブラジル全土で、10歳から15歳の1割が学校が再開されても戻るつもりはないと答えている。

南アフリカでは、児童生徒の授業の進捗が75%から丸々1年分遅れており、2020年3月から2021年7月までの間に40万から50万人の児童生徒が学校を辞めてしまった。

学校閉鎖により学校給食を食べられなくなった子供は世界で3億7,000万人にのぼると見積もられており、栄養状態や精神衛生の悪化の恐れもある。

ボツワナのローテク教育支援

こうしたなか、IMF(国際通貨基金)が「パンデミックは教育者に何を教えたか クリエイティブなリモート教育で遅れを取り戻すことができる」というレポートを出している。

オックスフォード大学フェローのノーム・アングリストのレポートによると、感染のピーク時、世界180ヵ国で16億の子供たちが学校に行くことができなかった。学校閉鎖の影響の大きさを示す一つの例は2005年のパキスタンの大地震で、この時14週間学校に行くことができなかった子供たちは、4年後の学力評価で大きな遅れを見せたという。

今回の学校閉鎖では、ラジオやテレビ、リモート会議システムを使った授業を各国が試みたが、ブラジル、インド、オランダ、南アフリカ共和国での調査によると、こうした代替策では学校閉鎖による喪失を埋め合わせることはできなかった。ケニヤとシエラレオーネはリモート教育の効果は「限定的」だったと報告した。

だが、ボツワナでは電話作戦が功を奏したという。インターネット環境は整っていないが、携帯電話は少なくとも一家に一台ある。これを使って子供たちに毎週テキストメッセージを送り、児童の進捗状況に合わせて電話で個別の指導を行った。結果的に、子供のレベルにあった指導ができたために、一斉授業に劣らない指導ができたという。

この例が知られると、バングラデシュとネパール、インド、ケニヤ、フィリピン、ウガンダでも試行が始まったという。

学校閉鎖の遅れをどう取り戻すのか、世界各地の実情にあった創意工夫が試されている。