画像:shutterstock 子ども柔道大会
画像:shutterstock 子ども柔道大会

全柔連が「勝利至上主義に陥る」と小学生の全国大会を廃止 スポーツ界から賛同の声も

全日本柔道連盟(全柔連)は2022年3月18日、毎年夏に主催していた全国小学生学年別柔道大会を廃止することを決めた。一部の指導者らに行き過ぎた勝利至上主義が見られることが理由だといい、スポーツ関係者からは、他のスポーツも追随してほしいとの声もある。

日本の社会は「勝利志向が強すぎる」と山下会長

同連盟がホームページで公表した文書によると、「小学生の大会において行き過ぎた勝利至上主義が散見される」「心身の発達途上にあり、事理弁別の能力が十分でない小学生が勝利至上主義に陥ることは、好ましくない」などと理由を挙げたうえで、「2022年は、嘉納師範が『精力善用、自他共栄』を骨子とする講道館文化会の綱領を発表されてから丁度100年の節目の年に当たります。この際原点に立ち返るため、思い切って当該大会を廃止することにした」としている。

18日付朝日新聞によると、同大会は2004年度から始まり、全柔連が唯一単独主催する小学生の全国大会。5、6年生による個人戦で重量級と軽量級に分かれて試合が行われる。今回廃止されるのは個人戦のみで、団体戦の全国大会はチーム一丸で試合する意義を重視して継続する。

関係者の話では、指導者が子供に減量を強いたり、組み手争いに終始する試合があったりし、判定を巡って審判に罵声を浴びせる指導者や保護者もいたという。

朝日新聞の取材に答えた山下泰裕会長は「柔道の楽しみは練習した技で相手を投げること。この大会では、勝つために組み手争いばかりしている試合もある、と聞いていた。そうすると、柔道の試合で勝つことだけが好きになってしまう」と現状を嘆いた。そのうえで、「全体的には勝利志向が強すぎる。これは指導者の問題だけではない。試合に勝つことばかりを評価する日本社会の問題でもある。子供たちにはのびのびと柔道をやってもらい、魅力を実感してもらいたい。柔道を好きになってもらいたい」と訴えていた。

親や指導者が舞い上がると才能が潰される

全柔連の発表について、元陸上競技選手でスポーツコメンテーターの為末大さんが、「素晴らしい決断だと思う」と賛成の意見をTwitterに投稿した。

為末さんによると、子供と大人は体格が違い、子供同士の試合で勝つには大人とは違う戦略が求められる。このため、子供時代の勝ち方に最適化してしまうと、大人になってから、本来行き着くレベルまでいけなくなってしまい、器が小さくなってしまうという。

また、陸上で多くの「離脱していく選手」を見てきたが、その経験から「親と指導者が選手の才能に興奮して舞い上がっている場合、その選手の才能が潰れる可能性が高くなる」と指摘した。それは、選手が言われた通りやるだけの人間になってしまい、「勝ち抜く上で最も重要な主体性が損なわれるから」だという。為末さんは「ぜひ他競技でも追随してほしい」と投稿を締めくくった。

また、スポーツジャーナリストの谷口源太郎さんは、日刊ゲンダイのデジタル版(3月19日付)で「『勝つことが自分の存在意義を高める』などと勘違いしている指導者や、子供をスポーツエリートにさせようとしている一部の保護者にも理解させる必要がある。これは柔道界に限らず、野球やサッカーなど他のスポーツ競技や学校の部活動にも共通する構造的な問題」と指摘している。