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日本が受け入れた一万人の難民・避難民の法的地位を入管法改正で明確に【滝澤三郎】

今年は、インドシナ難民受け入れを上回る規模とスピードで日本への難民受け入れが進んでいる。しかし一方で法的な地位が極めて不安定な状況を生んでいる。難民受け入れ後の課題を明らかにして次に進むべきだろう。

日本が受け入れた難民

入管庁の難民統計では、日本に受け入れられた難民は、昨年までで15,717人だが、それは3つのグループに分かれる。

第1グループ「定住難民」

第1は「定住難民」だ。日本が本格的に難民を受け入れたのは、1978年から2005年までの28年間に来日した1万1319人のインドシナ難民だ。多いときで年に600人から700人が来日した。この「定住難民」には、2010年に始まるミャンマー難民の第三国定住事業で受け入れられた194人が含まれる。いずれも、日本で定住・永住することが想定される人たちだ。

第2グループ「条約難民」

第2のグループは、日本が1981年に難民条約に加入してから難民認定手続きを経て受け入れられた「条約難民」で、2021年までに915人が受け入れられた。日本における難民問題で取り上げられるのはこのグループに属する難民で、その数が少ないことから、長年に亘って日本は「難民鎖国ニッポン」などと揶揄されてきた。数が少ない理由には、日本の置かれた地政学的な状況や、日本語のカベ、難民認定の厳格さなどいくつかあるのだが、それについては本稿では触れない。

第3グループ「その他庇護」

第3のグループは「その他の庇護」とされるもので、難民条約上の難民とは認められないものの、戦争や武力紛争など本国事情を考慮して日本在留を認められたり(補完的保護)、または日本人との婚姻などを考慮して在留を認めた(人道的在留許可)者で、1991年から2021年までに3,289人が救済された。この人たちは「広義の難民」だ。

急増する「広義の難民」と「補完的保護」

昨年から日本に庇護される難民、特に「広義の難民」が急増している。政府は、昨年2月のミャンマー国軍のクーデターを受けて、約3万5,000人の在日ミャンマー人について希望者全員の在留延長を認めた上で、そのうち約8,000人について本国事情を考慮した特別の在留を認めた(補完的保護)。

また、昨年8月のアフガニスタンのタリバンによる制圧後には、日本大使館勤務やJICAのプロジェクト関係者やその家族など、タリバンによる迫害の可能性が高い約400人が日本政府の支援で日本に避難した。そのほかにも自力でアフガニスタンを脱出して来日した者も約400人いる。このうち、大使館関係者を中心に145人が難民申請を行い、8月末に一斉に認定を受けた98人を含め9月までに124人のアフガン人が難民と認定された。2021年の難民認定総数が74人であったことを考えると画期的だ。現時点で日本に避難してきているアフガン人は、いずれは条約難民としての認定か「補完的保護」を受けるだろう。

最後に、ロシアのウクライナ進攻を避けて来日したウクライナ人は2,000人を超えた。彼女たちはいわゆる「戦争難民」であって条約難民とは言えない。彼女たち自身、日本での難民認定を求めず、今まで難民申請したものはわずか5人に留まる。彼女たちも本国事情に鑑みて「補完的保護」の対象となっている。

要するに、日本で「広義の難民」として庇護される者の数は年末を待たずに1万人を超える。1万1,319人のインドシナ難民の受入れに28年間かかったこと、それを含めて過去40年の日本による総庇護数が1万5,717人に過ぎないことを考えると、大変な数だ。日本の「難民鎖国」は終わった。なお、UNHCR駐日事務所やNPOなど民間主導で「留学生」として受け入れられた難民は100数十人になるが、入管庁の難民統計には入っていない。

入管法改正で「補完的保護」の法制化を急げ

しかし、1万人の受入れで話が終わったわけではない。ここまで「補完的保護」という表現を使ってきたが、日本には「補完的保護」という法律上の在留資格はない。昨年に国会に上程された入管法改正案には「補完的保護」の新設が入っていたが、同法案は内容についての議論がほとんどないまま、名古屋入管事件のあおりで廃案となってしまった。本稿でミャンマー、アフガニスタン、ウクライナからの難民・避難民が「補完的保護」を受けているというのは、事実上それと同じ処遇を受けているという意味に過ぎない。

現在、彼ら・彼女らは「特定活動」という在留資格で滞在している。「特定活動」は、法務大臣が個々の外国人について裁量でその都度、活動を指定するためのもので、在留期間は多くの場合半年とか1年になっている。難民として認定されるか「補完的保護」の対象とされた場合には、在留期間は3年なり5年と長期になり、出身国への強制送還が禁止される「ノン・ルフ―ルマン原則」が適用されて、日本語教育など様々な定住支援も受けられる。しかし「特定活動」にはそれがなく、日本が受け入れた1万人の法的な地位は極めて不安定だ。極論すれば法務大臣が変われば処遇も変わる可能性がある。そのような不安定さを解消し、庇護された人々が安心して暮らせるように、政府は早急に「補完的保護」の内容を詰めた上で、入管法の早期改正に取り組むべきだ。

滝澤三郎
滝澤三郎(たきざわ・さぶろう)東洋英和女学院大学名誉教授/UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)元駐日代表/ケアインターナショナル・ジャパン副理事長。長野県出身。法務省より、カリフォルニア大学バークレー校経営大学院への留学を経て、国際連合ジュネーブ事務局へ。2002年国際連合難民高等弁務官事務所(UNHCR)ジュネーブ本部財務局長。2007年UNHCR駐日代表を務めた。国連大学客員教授、東洋英和女学院大学教授を経て、現職。著書に『国連式:世界で戦う仕事術』(集英社新書)