画像:人権外交を語る超党派議員トークイベントTOP
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「対中国」アジア民主主義盟主として日本は言うべきことを言え 〈超党派議員トーク〉

2022年1月28日、「人権外交」を推進する超党派議員である自民・斉藤健衆議院議員、立憲・桜井周衆議院議員、国民・玉木雄一郎衆議院議員、維新・音喜多駿参議院議員が集い、元国会議員でTheTokyoPost編集長の菅野志桜里がファシリテーターを務め、トークイベントを行った。2月1日の「対中批難決議」への言及もありスリリングな展開となった。

「人権外交を語る超党派議員トーク」第2回

アジアにおける人権問題、とりわけ中国政府による人権侵害に対して欧米諸国が反発を強め、価値を巡っては米中対立が激化。日本が果たすべき役割はどこにあるのか。自民党・斉藤健氏が、歴史的隣人としての日本独自の態度で中国に対するという意見を述べた。

〈パネリスト・順不同〉

齋藤健氏:自由民主党 衆議院議員

玉木雄一郎氏:国民民主党代表 衆議院議員

桜井周氏:立憲民主党 衆議院議員

音喜多駿氏:日本維新の会 参議院議員

菅野志桜里:国際人道プラットフォーム代表理事/The Tokyo Post編集長

中国に対して日本はどのような態度で接するべきか

菅野志桜里(以下、菅野):

桜井さん、いかがでしょうか。

菅野志桜里

桜井周氏(以下、桜井氏):     

今、齋藤先生からは、アメリカ、中国、日本というそれぞれの三つの国の立ち位置も含めてご説明いただきました。先ほど人類という言葉も出てきて、私は人権というか、政治が人間を幸せにしていくために奉仕していかなきゃいけないということは、これは本来人類普遍の考え方のはずだと思うんです。

そういった意味からすると、じゃ今中国がやっていることは本当に一人一人の人に、そして人類全体を幸せにするような、そういったものになっているのか。確かに中国の一部の人、もしかしたらもうちょっと多くの人たちを豊かにはしているかもしれないけれども、しかし一方で、ウイグルとか香港の方々はその自由を剝奪されたり、さらにはもう命さえ危うい状況になっている。そういう犠牲の上に成り立つ豊かさというのは、これは駄目でしょうという考え方、これはやはり人類共通のものだと私は思うので、中国の人たちも含めて幸せになるためには、一人一人が幸せになるためにはどうかと、こういうことで考えていかなければいけないと思っています。

桜井周氏

また、世界の国々は、アメリカ、中国、日本以外にもたくさん国があります。そうした世界の国々の中で、今、人権や民主主義という価値がどこまで広がっているのか。冷戦があって、冷戦が終わって2000年ぐらいまではどんどん世界に民主主義が広がっていったはずなんですが、2000年を境に少しそこから後退している、そういう調査報告も出ています。いったん民主化したものの、いろんな理由があって、そこがまた専制主義に変わってしまっている、戻ってしまっている。そういう例も少なからず出てきているということで、玉木先生がおっしゃいましたけど、今まさに転換期、ないしは転換期をちょっと過ぎちゃって、後退局面に入っているかもしれない。

だからその中で日本が、アメリカもそうですけれども、こうした人々を幸せにするための人権と民主主義、法の支配という価値、これは本当に大事なんですよということをアメリカの目線ではなくて、アジアの、日本の目線で世界の人たちに語りかけていくことが大事なんじゃないかなと思っています。といいますのもアメリカという国は、ある種理想主義を掲げる一方で、ある種ご都合主義のところもあったりして、二枚舌といいますかダブルスタンダード、これを平気でやってしまうようなところもある。そうするとアメリカが言っていても、何かまた自分たちのご都合主義でやっているんじゃないのと疑われてしまうところもある。

そうじゃなくて日本は、私は国際協力の仕事を日本の立場でやっていたということで、ちょっと自分を正当化するというわけではないんですけれども、日本は比較的、相手国の発展にとって、相手国の人たちが幸せになるためにということで結構真面目にやってきたものですから、地域の人たちに信頼されている部分が多分にあるわけです。ですからそういった目線で働き掛けていくということは、日本にできる大きな貢献ではなかろうかなと思っています。

菅野

ありがとうございます。

音喜多さん、今お二人から、価値を共通する国とはしっかり連携をしつつ、あわせて日本独自の役割があるんじゃないのというそれぞれの視点をお話しいただいたわけですけど、その点いかがですか。

音喜多駿氏(以下、音喜多氏): 

音喜多駿氏

総論としては、みなさん同じほうに向いていると思っています。ちょっと違った視点で言うと、今中国がデジタル・レーニン主義というような呼ばれ方もするんですが、デジタルという最新テクノロジーを使って、これが国家からの自由、国家による自由というのを広げていくはずが、むしろ抑制に使われているという現状があると。特に新型コロナが起きた中で、中国のある種テクノロジーを使って、そして権力を使って抑圧するやり方が、見方によっては成功してしまっているというような結果も出ているのが非常に脅威的なことで。中国みたいなやり方は、われわれが学んできた歴史観でいうといつかは崩れるというか、独裁には無理が来るのが私たちの学んできた歴史観だったはずなんですが、それどころか今中国は、10年たっても20年たっても倒れる気配がないと。しかもデジタルという新たなツールを手に入れて、国民の人権をかなり制限し、監視をし、それがある種の成功例になってしまっているという、この実情は極めて由々しき問題であり、そしてまさに時代の転換点を迎えているんだと思います。

ただ、私はやっぱりデジタルというツールも含めて、最新のテクノロジーというのは国家からの自由、そして国家による自由、人間の自由というのを拡大していくためにあるべきツールであって、その成功例をどこかの国がつくらなければいけないと思っています。その中で一番可能性がある国は、日本であると思いますし、この高いモラルの意識と、そしてリテラシーの高さ、こうしたところから、やはりそういった中国のようなやり方に頼らなくても、ある種の自由を最大限尊重しながらも、協調を持って、コロナであるとか経済成長もそうですし、これを成し遂げていけるんだということを見せていくことが私たち日本の役割としては非常に重要なんじゃないかなと考えています。

菅野 

なるほど。データ資本主義の中で、独裁による効率的な統治がものすごく短期的には良く見える。そういう中で日本が果たせる役割というのがどこにあるのか。ルールメイキングのところで、やっぱりもうちょっと日本が主導的な役割を担っていくということもあるのかなと思いましたし、それはデジタルのルールであると。もしかしたら今日、後で話に出てくる環境とか人権に関するルールもそうかもしれないけど、音喜多さん、日本にそれができるんですかね。

音喜多氏     

ねえ。だからこの国際協調というのはルールメイキングで、人権デューディリジェンスの議論もそうなんですけども、かなり欧米に追随していくというか、自らイニシアチブを取りに行く姿勢というのが極めて弱いですよね。

菅野 

ちょっと追随すらし切れていない、追い切れていない感じがあるじゃないですか。

音喜多氏     

後手、後手、後手ぐらいで、やっぱり中国が国連の重要なポジションを取りに行ったりとか、それこそ外交でも明確なロードマップを持ってお金をある意味ばらまいて支持を集めていくという、こういうやり方が必ずしもいいとは思わないんですけれども、でもあれぐらいのアグレッシブさというか、主体性を持って国家のルールづくりに関わっていかないと、デジタルもそうですし、経済もそうですし、環境もそうですし、全て後塵を拝して、結果20年後に焼け野原になっているということは十分考えられますから、これは本当に転換しなければいけないポイントだと思いますね。

菅野 

玉木さん、どうすれば転換できるんでしょうか。

玉木雄一郎氏(以下、玉木氏): 

玉木雄一郎氏

国家としての意思を明確に示し続けることなんです、これは。私は日本としてやるべきことは幾つかあって、一つは、今年日中平和友好条約から50周年なんですね。これはあまり日本の政治のシーンとか学者の方も言及しないんですが、日中平和友好条約の第2条というのを改めて私は思い出すべきだし、中国側にも言ったらいいと思う。第2条って何が書いてあるかというと、相互の覇権主義を禁止しているというか、両国間だけではなくて、「アジア・太平洋地域においても又は他のいずれの地域においても覇権を求めるべきではなく、また、このような覇権を確立しようとする他のいかなる国又は国の集団による試みにも反対することを表明する」と、つまり、反覇権主義というのが両国間合意になっているんですよね。そこから日中関係は実は始まっているんです。いやいや、ちょっと中国さん、今のあなたは覇権、これは条約違反じゃないのというところから、私はまず認識を持つべきだと思う。

それはなぜかというと、条約の当事国として、日本しか言えないんです、これは。覇権主義は駄目だなんていうことを条文に書いていて、それを正面から言えるのは日本だけなので、私は人権というか、そもそもやはり力による現状変更とか抑圧をしていくような、そのやり方自体が駄目なんだということで始まった両国関係なので、その経緯があるとすれば、それをしっかり言うのは、私は条約上の日本の義務だと思う。これを言わなくなっちゃ駄目なので、遠慮するとかへったくれじゃなくて、二国間の約束として、他の国がおかしいと思ったら、それは声を上げるのがわれわれの責務です。

加えて、1対1のときはAIIB(※)によって債務の罠に陥っているアジアの国はたくさんあって、本当はちょっとおかしいよねと言いたくても声を上げることができないアジアをはじめとした国々は今たくさんいるわけですよ。その中で、われわれはそういった債務の罠からは逃れて、物を言える立場にいるのであれば、やっぱりアジアの中でのデモクラシーの盟主として言うべきことを言わないと、これは誰も言えません、特にアジアの国々は。

そういう中での二国間での日本の役割、また世界の中での日本の役割ということからすると、ここできちんとわが国の考え方と、特に人権や覇権についての考え方を言い続けなければ、世界の実情は大きくねじ曲げられてしまう。もう1点加えて言うと、実はTPPは、私は中身においては反対だったんですが、ただここに至って中国がTPPに入りたいということを言ってきたことは、うまく利用すべきだと思っているんです。なぜかというと、TPPの条文の第19章は、実は強制労働のことが書いてあって、参加国は強制労働をしちゃいけないし、強制労働によってつくられた財・サービスについては、その輸入についてはできるだけディスカレッジするという規定があるんです。もし中国がここに入りたいんだったら、当然それを守りますよねと、国内においても。国際的な交渉の中でTPPは日本が重要な役割を果たしましたから、その中で、条約に入りたいのであればこのルールを守りなさいという、インターナショナルコミュニティーの水準まで中国のさまざまなルールを引き上げてくるという役割を日本は果たせると思うんです。

ですから、二国間やマルチの段階で、いろんな形でやはり今の中国はおかしいよということを歴史的にも、あるいはさまざまなこれまでの関係から含めても、日本は言えるし、言っていかなければならない。そういう認識の中で人権外交を進めていくべきだと思いますね。

菅野 

ありがとうございます。

齋藤さん。

齋藤健氏(以下、齋藤氏):     

齋藤健氏

これは合意形成の場なので、今玉木さんが言ったことは非常に重要で、日本独自の言うべきことはあるから、それをどんどん言っていくべきだと。私はこれは多分ここで合意形成できるんだろうと思うんだけど、ただ、中国は聞かないと。恐らく、覇権主義ではありません、強制労働していませんと、常になるわけですよね。そうなってきた状況をやはりどう打破していくかということを次のステップとして、言うべきことを言った上でどうするかを本気で考えないと、事態は変わらないと思いますね。

玉木氏       

まず、言うことさえ言っていないので、まず言うということが……

齋藤氏       

そこがだから合意形成。

玉木氏       

まず合意形成、そこはいいですね。その先なんですけど、いわゆるエンフォースメントのところなんですが、これはいろんな形があって、まずはいわゆるマグニツキー法のような、個人と法人に対して、国家に対してはないにしても、そういったことに加担した者に関しては外為法なり何なりの制裁を科していくことをツールとして持つことは、まず用意をしなければいけないなと思います。もちろん外交的にもいろんな形でプレッシャーをかけて、そこに導いていかなければいけないんですが、まずはその意味では人権制裁、人権侵害を犯した者に対しての制裁法をつくっていくことが次のステップかなと思いますね。

菅野 

各論にちょうど入ってきたので、各論を通じて今の議論を深めていきたいと思いますけど、ここまでで音喜多さんや桜井さん、何かコメントがあれば、大丈夫ですか。

音喜多氏     

じゃ、次のところでまた。

〈脚注〉

※Asian Infrastructure Investment Bank(アジアインフラ投資銀行)。2015年中国が提唱して主導する形で発足したアジア向け国際開発金融機関。2021年現在、加盟国は103カ国。

中国の「一帯一路構想」に基づき、アジア新興国のインフラ開発への融資を行う。日本・アメリカは不参加。

***

覇権主義ではない、強制労働はないとうそぶく中国に対し、「言うべきことは言う」。そこから始めることが合意形成された。その先のエンフォースメントについて次回語る。


第1回「人権外交」を超党派議員で語る~米中対立の間で日本が果たすべき役割とは~

第2回「対中国」アジア民主主義盟主として日本は言うべきことを言え←今ここ

第3回 日本における人権侵害制裁法の制定は進むのか 制裁ツールを持つリスクとは?

第4回 人権侵害をどう認定する?インテリジェンス強化か米国式「推定有罪法」か

第5回 人権DD法制化を急ぐ理由「人権配慮のない日本企業と日本は排除」が迫る

第6回「情報公開」が人権を守る分水流 企業にはインセンティブで人権DDを促進

第7回「新疆ウイグル等における深刻な人権状況に対する決議」直前、超党派議員の本音

第8回 人権外交のプレーヤーとは?国会・政党・議員・民間はどう連携できるのか

〈プロフィール〉

◆齋藤健(さいとう・けん)

自由民主党 衆議院議員。1959年生まれ。東京大学卒業後、通産省(現経済産業省)へ。埼玉県副知事を務め、2009年衆議院議員初当選。農林水産大臣。衆議院・厚生労働委員会筆頭理事、安全保障委員会委員。自民党においては、団体総局長、税制調査会幹事、選挙対策副委員長、総合農林政策調査会幹事長、スポーツ立国調査会幹事長を務める。人権外交を超党派で考える議員連盟を発足、共同代表。著書に『増補 転落の歴史に何を見るか』(ちくま文庫)

桜井周(さくらい・しゅう)

立憲民主党 衆議院議員。1970年生まれ。京都大学農学部卒。京都大学大学院農学研究科修士課程修了、米国ブラウン大学大学院環境学修士課程修了。国際協力銀行勤務を経て伊丹市議会議員を務める。2017年衆議院議員当選。党近畿ブロック常任幹事、党政務調査会副会長、党ジェンダー平等推進本部事務局長。財務金融委員会委員、憲法審査会委員。

玉木雄一郎(たまき・ゆういちろう)

国民民主党代表 衆議院議員。1969年生まれ。香川出身。元アスリート。ハンセン病問題の最終解決を進める国会議員懇談会 顧問、海事振興連盟 副会長、国際連合食糧農業機関(FAO)議員連盟 幹事長、陸上競技を応援する議員連盟 幹事長、自転車活用推進議員連盟 副会長、ジョギング・マラソン振興議員連盟 副会長、天皇陛下御在位奉祝国会議員連盟 顧問。

音喜多駿(おときた・しゅん)

日本維新の会 参議院議員。1983年年東京都北区生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業後、モエヘネシー・ルイヴィトングループで7年間のビジネス経験を経て、都議会議員に(二期)。ネットを中心に積極的な情報発信を行い、政治や都政に関するテレビ出演、著書多数。三児の父。2019年、参議院東京都選挙区で初当選。

菅野志桜里(かんの・しおり)

元国会議員。国際人道プラットフォーム代表理事/The Tokyo Post編集長。1974年宮城県仙台市生まれ。小6、中1に初代「アニー」を演じる。東京大学法学部卒。元検察官。2009年の総選挙に初当選し、3期10年衆議院議員を務める。待機児童問題や皇位継承問題、検察庁定年延長問題の解決などに取り組む。憲法審査会において憲法改正に向けた論点整理を示すなど積極的に発言(2018年「立憲的改憲」(ちくま新書)を出版)。2019年の香港抗議行動をきっかけに対中政策、人道(人権)外交に注力。初代共同会長として、対中政策に関する国会議員連盟(JPAC)、人権外交を超党派で考える議員連盟の創設に寄与。IPAC(Inter-Parliamentary Alliance on China)初代共同議長。2021年11月、一般社団法人国際人道プラットフォームを立ち上げ代表理事に就任