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「皇位の世襲」と「門地による差別禁止」の関係を整理する【高森明勅】

憲法改正の予兆高まるなか、「天皇・皇室」の在り方について議論の時がいよいよ近づいている。天皇制は、憲法解釈や人権問題などあらゆるイデオロギーを内包しつつ、繊細にバランスをとりながら継承されている。いま天皇制を議論することは、日本が選択する民主主義の形を確認する作業に近いのかもしれない。皇室の論壇最前列の高森明勅氏による天皇論。

憲法における「皇位の世襲」規定(第2条)と「門地による差別禁止」規定(第14条)の関係をどう整理するか。

「世襲」は特定の血統=門地(家柄、家格)だけに限定した継承を意味する。だから普通に考えると、まさに門地による差別そのものに当たる。

「皇位の世襲」は例外的な規定

これについては、まず第14条が近代憲法として普遍的・一般的な原則に関わる規定であるのに対し、第2条はわが国における(歴史的・文化的その他)固有の事情を背景とした特殊かつ例外的な規定と位置付けることができる。こうした理解は、第14条を含む3章(国民の権利及び義務)全体と第2条を含む第1章(天皇)全体の関係にも、ほぼそのまま当てはまるだろう。

しかるべきケースに対して例外的な取り扱いがなされても、憲法それ自体の例外規定に根拠を置くかぎり、当然に認められる。天皇の血統(皇統)による「皇位の世襲」は、第14条に対する例外規定(第2条)に基づく以上、憲法上、問題視されることはない。

しかしそれは、例外規定の適用範囲を越えた逸脱まで許容されるということでは、もちろんない。例外は文字通り“例外”であって、極力、その適用範囲は抑制的に見極められるべきだ。

旧宮家系国民男性に特権を与えるプランの是非

たとえば、政府が現在、国会に検討を委ねている皇族数の確保策をめぐる有識者会議報告書に盛り込まれている、いわゆる旧宮家系国民男性だけが婚姻を介さないで、“特権的”に皇族の身分を取得できるようにする「養子縁組プラン」をどう評価するか。

この点は検討するには、例外規定=第2条の適用範囲を過不足なく限定する必要がある。

皇統譜に登録された皇室の方々の場合

まず、憲法が「世襲」を要請している以上、天皇おひと方に絞り込む訳にはいかない。天皇・皇后とそのお子様などによって構成される“内廷”のみでも、狭すぎて「世襲」を十分には支えられない。やはり各宮家も含む皇室全体にまで広げなければならない。と言うより、憲法は「世襲」の「象徴天皇」という制度を維持するために、「皇室」という一般国民とは区別された特別な存在を認めていると考えられる(「皇室」という語は、憲法第8条・第88条に所見する他、「皇室典範」「皇室経済法」などの法律名にも見えている)。

したがって、皇統譜(大統譜・皇族譜)に登録された皇室の方々については、第14条への例外規定である第2条が優先的に適用され、その範囲までは憲法自体が採用している世襲制に照らして、「門地による差別禁止」からの除外が認められる。

一般国民として戸籍に登録されている旧宮家系男性の場合

一方、皇統譜ではなく一般国民として戸籍に登録されている旧宮家系男性の場合はどうか。

それらの人々は、あくまでも第14条を含む第3章全体=一般規定が全面的に適用される「国民」であり、憲法上の根拠規定(第1章)によって例外扱いを受ける「皇室」の“外”にいる存在なので、「門地による差別禁止」規定はそのまま適用される。

旧宮家養子縁組プランは憲法をねじ曲げる

そもそも、根拠となる第2条は男系・女系、男子・女子のすべてを含んだ皇統による「世襲」を要請している(内閣法制局執務資料『憲法関係答弁例集(2)』ほか)。だからその範囲を越えて、単に憲法の“下位法”である皇室典範の要請にすぎない「男系の男子」による継承を確保するために、憲法の「門地による差別禁止」を踏みにじることは許されない。

よって、旧宮家養子縁組プランは憲法第14条の「門地による差別禁止」に明確に抵触するから、とても採用できないという結論になる。

万が一、憲法をねじ曲げてそれが制度化されるようなことがあれば、どうなるか。

天皇をめぐる制度が憲法違反の疑いを抱えてしまえば、その権威は致命的に損なわれ、これまで皇室と国民との(合理的な)区別を受け入れてきた国民からも、天皇・皇室は“国民平等”の理念にひび割れを起こさせる、差別的存在と見られるだろう。

高森明勅氏 ©高森明勅
神道学者・皇室研究者。昭和32年、岡山県生まれ。國學院大學文学部卒、同大学院博士課程単位取得。皇位継承儀礼の研究からスタートして、日本史全体に関心を持ち、現代の問題にも発言する。小泉純一郎内閣での「皇室典範に関する有識者会議」のヒアリングに応じる。拓殖大学客員教授など歴任。現在、神道宗教学会理事、國學院大學講師ほか。著書に『「女性天皇」の成立』『天皇「生前退位」の真実』『日本の10大天皇』『私たちが知らなかった天皇と皇室』『上皇陛下からわたしたちへのおことば』など。ホームページ「明快!高森型録」。