画像:人権外交を語る超党派議員トークイベントTOP
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人権侵害をどう認定する?インテリジェンス強化か米国式「推定有罪法」か〈超党派議員トーク〉

2022年1月28日、「人権外交」を推進する超党派議員である自民・齋藤健衆議院議員、立憲・桜井周衆議院議員、国民・玉木雄一郎衆議院議員、維新・音喜多駿参議院議員が集い、元国会議員でTheTokyoPost編集長の菅野志桜里がファシリテーターを務め、トークイベントを行った。2月1日の「対中批難決議」への言及もありスリリングな展開となった。

「人権外交を語る超党派議員トーク」第4回

前回は、超党派議連によりつくられている人権侵害制裁法案について。その先の逆制裁という視点も指摘された。政府だけでなく、議会が主導していく場合、執行にいたる線引きの難しさや、特に対中国ビジネスにおける懸念へと議論は進む。

〈パネリスト・順不同〉

齋藤健氏:自由民主党 衆議院議員

桜井周氏:立憲民主党 衆議院議員

玉木雄一郎氏:国民民主党代表 衆議院議員

音喜多駿氏:日本維新の会 参議院議員

菅野志桜里:国際人道プラットフォーム代表理事/The Tokyo Post編集長

維新は「日本はインテリジェンス機関、情報機関を強化すべき」の姿勢

「人権外交」を語る超党派議員トーク

菅野志桜里(以下、菅野):    

音喜多さん、このご都合主義運用をどう乗り越えるかなんですけれども。事前に質問リクエストを自分のSNSで受け付けたんですが、例えば、「ウクライナ情勢に関連して、ロシアに対するアメリカの大規模経済制裁に日本が同調する可能性はあるんでしょうか」というような質問があったりとか、「対中国だけではなくて、対ロシアにも必要があればそういうことはできるんですか、やるんですか」というような話があったり、もちろん「ミャンマーでも国軍の関連産業に日本の企業の関与がないようにしてほしい」とか、そういうことがあるわけです。この難しいかじ取り、この制裁法を持つということを前提にした場合に、どんな工夫、どんな考え方で日本は運用していったらいいんでしょうか。

音喜多駿氏(以下、音喜多氏):

音喜多駿氏

幾つか論点はあると思うんですけれども、もちろんこれは対中国用法案ではないので、いろんな世界各国で起き得る人権侵害というのは対象になる可能性がある、これは大前提ですね。じゃ、その中でどう判断していくかというときに、わが党が以前から主張しているのは、やっぱり独自のインテリジェンス機関、情報機関というのをもっと国として強化して持つべきであろうということを申し上げてきました。分かりやすく言えばアメリカのいわゆるCIA的なもの、日本にももちろんそういった役割を持っている方はいらっしゃいますけれども、やはり諸外国に比べれば、人員の数としても予算としても非常に乏しい中で情報収集をやっていると。そうなると同盟国からの情報が頼りにならざるを得ないので、例えば、アメリカが、ウクライナに対してロシアが人権侵害をやっているんだという情報を持ってきても、それに対して反論ができない。独自の情報を持っていなくて反論ができなければ、追随せざるを得ないということになるわけですよね。

中国に対しても、ヨーロッパの国々がこう言っているからこうなんですというのでは、それこそ付和雷同、ご都合主義という批判は免れない。その中で、日本は独自の情報網を持っていて、独自のこういうエビデンスに基づいてこう判断したんですよと、外交防衛なので言えるところと言えないところは当然ありますけども、バックデータをちゃんと収集できるのかという点で見れば、まだ日本政府にはそこまで言い切れるものはないんじゃないかという危惧がございますので、同時にこういった法律を制定していくのはもちろん重要なことなんですが、やはり情報機関、情報収集能力を高めていくということを一方で必ずやらなければいけないというふうに思います。

菅野 

それはこの制裁法の話をするときに、日本の調査能力を高めるためにも本当に必要なんだという議論もあれば、いや、とはいえ調査能力が今足りないから持てないんだという話もあって、ニワトリと卵みたいな話になったことも議論の中であったのを思い出しました。

玉木さん、この運用の難しさ、普遍性を貫くことの困難、ここをどういうふうに考えますか。

人権侵害の事実確定を誰が担うのか?

玉木雄一郎氏(以下、玉木氏):

玉木雄一郎氏

これは対中国向けではないという、普遍的な人権侵害に対する制裁法だという大前提で申し上げますと、事実の認定と評価をどうするのかというところはやっぱり重要なところなんですね。いわゆる特定人権侵害だということの認定を、では誰がするのか。事実確定はどうするのか。認定をどうするのかという問題が非常に難しくて、例えばオーストラリアのASPI(※)報告に日本企業の名前がずらずら出たときに、それは実際どうなのというのをわれわれもよく分からない。日本の当局も分からないので、じゃパナソニックに、日立に、それぞれ聞いてみましょうみたいな話になっていくわけですよね。まだわが国の法人であればそういった調査ができますけど、遠くある国の内陸部で行われているようなことの実態をどう把握するのかということは、さっき音喜多さんが言ったように、実は簡単ではないんですね。

幾つかやり方があるなと思っているのは、一つは、やっぱりうまく機能すれば国連をかませることですね。国連の報告書か何とかで明確に駄目だといわれていることについては、ある程度コンセンサスが取れる。

齋藤健氏(以下、齋藤氏)    

中国も来ています。

玉木氏       

ただ、中国が常任理事国だということの制約が当然かかってくると。そしてあわせて、やっぱり同盟国、ファイブ・アイズだけではなくて、デモクラシーを順守する国々の情報共有と。時には特定秘密のようなこともあるかもしれないけれども、そういったものをしっかり共有しながら判断していくと。これは一部ファーウェイ社に、ファーウェイ社の商品でバックドアが開いてデータがどんどん飛んでいるので使わないようにしましょうという議論があるんだけれども、ただバックドアが開いている事実を確定したことはないんです、実は、どの国も。日本の場合、今どうしているかというと、基本的にアメリカから言われたらそうだよねとやっているんですね。だからわが国のご都合主義もそうだけど、アメリカのご都合主義に付き合うようなことにもなりかねないので、そこの事実の認定とある種の判断基準をどうしていくのかというところを併せてやっていかなきゃいけないと思うんですよ。ただ、これはなかなか100点満点の答えはないので、基本的には私は同盟国との情報共有ということが一番重要だと思いますし、うまく機能すれば国連の機関の報告とかそういったものも利用しながら、やっぱりある種の不利益処分を課していくので、納得感というか、一定の説明責任が課す側にも求められるので、そこは最大限そういった情報を共有しながらやっていくということしかないのかなという気はしますね。

菅野 

今国連の話になったときに、やはり今の国連の状況を見るとなかなか難しさがあるというふうに齋藤さんも思われたように伺いましたけれども、この運用の普遍性をどう担保していくか。アメリカも、やはりサウジアラビアにおける人権侵害についてはこの普遍性を貫くことがちょっとできなくて、何で制裁しないのと問われて、サキ報道官が珍しく極めて困った表情で答えを濁していた場面を思い出しましたけれども、ここはどういう工夫がありますか。

齋藤氏:       

齋藤健氏

いくつか問題があって、今の特定人権侵害の定義をどうするかと。そしてその事実認定をどう行うかは極めて難しい問題で、それをあまり狭く事前に決めるということは多分難しいし、じゃ緩くすれば恣意的な運用をインバイトするということになるので、ここのところは本当に肝で、ここでどれだけの知恵が出せるかということで、結論から言えば玉木さんがおっしゃるように、日本独自で調べ切れないものは海外の力を借りるしかないし、ただ、今、公開情報だけでも8割、9割の情報が集約できるということであるので、そういうものも含めて日本政府の調査能力を高めながらやっていくというしか答えはないんだろうと思います。

私はそれよりも心配しているのは、やはり必ず報復されるということですよ。法律をつくるときにはみんな威勢よく中国けしからんとやるんだけど、報復されたらへなへなとなるでは困るので、それだけの腹構えを本当にした上でやっていかないと、よりみじめなことになりかねないということだと思います。

米英はウイグル強制労働を「推定有罪」と決め打ち

菅野 

なるほど。確かに世界各国、ウイグルのことについてジェノサイドという指摘をするような国、あるいは政府、国会も出てきているわけですけれども、その前提となる事実を見ていくと、齋藤さんがおっしゃるようにオープンソースの割合が極めて高くて、先ほど話に出たASPI(※)の報告書をはじめ、世界各国のシンクタンクの詳細の報告書だとか、あるいは潜入取材を含めた世界各国の報道、あるいはそこから流出してきた文書、そういったものの分析を重ねて事実認定をして、それをシェアしていくのが今起きていることだと思います。あとは全てを解明することはできないという前提に立って、イギリスなんかは、ウイグルでの生産のビジネスリスクは極めて高いというようなことをアナウンスをしたりだとか、あるいはアメリカでは、もうウイグルの強制労働防止法というのを(成立)して……

齋藤氏       

もう決め打ちですよね。

菅野:  決め打ちですよね。詳細な事実認定はできないけれども、サプライチェーンにウイグルが関与している場合には、ここでは人権侵害が行われているとみなすというような法律までつくっていることでいうと、調査能力というのはシェアしながらも、一定の限界はありながら、それぞれの国がそれぞれの信念で対応しているのかなというふうに思いました。

今、齋藤さんも、やはりさらなる問題はこの逆制裁に対する腹の決め方ということでありましたけれども、国の制裁だけではなくて、人権デューディリジェンスという企業側の人権侵害防止についての情報開示責任ということに話を進めていきたいと思います。きっと論点は重なって……

齋藤氏       

菅野さん、その前に、今菅野さんがアメリカの法律について言及されたので、ちょっと紹介だけしておくとみなさんの参考になるなと思うんですけど、昨年(2021年)の12月にアメリカで、ウイグル強制労働防止法という決め打ちの法律が何と成立しているんですよ。それでその中身は、新疆ウイグル自治区で一部なりとも採掘や生産や製造された製品は、一部なりともですよ。全て強制労働によるものと推定をして、輸入を禁止するという法律なんですよ。そしてなおかつ、輸入禁止を企業が避けようと思えば、強制労働に依拠していないことなどを輸入する人が証明しなさいということになっていて、要するに立証責任を事実認定も含めて企業側に全部押し付けるという法律になっているんですね。

これでどこまで進むか分かりませんが、企業にしてみれば実態がある程度分かっているわけで、もしこれがばれたら大変なことになるという、そのプレッシャーになる効果は、実際にどう運用するかは非常に難しいですよ。これを運用するのは、裁判を想定したら難しいけど、企業はやっぱりそれに影響されてびびりますから、それが今回非常に(影響が)あるんだろうと。アメリカらしい大味な法律なんですけども、そういうことが世界で起こっていると。でも、日本はもっと真面目なので、さっき言ったように定義をどうするかとか、事実認定をどうするかとか、そういうことを日本は詰めるんですけど、こういう国もあるということですね。

各国の人権デューデリジェンス法への取り組み

菅野 

貴重な情報をありがとうございます。推定無罪から推定有罪の世界へということが少なくともアメリカで起きているということでした。

それでは、この今のお話、企業に対してもう人権侵害に加担するなよと、加担しないためにどういう取り組みをしていますかということの情報開示を責任づける法律、人権デューディリジェンス法といわれていますけれども、世界各国でこの情報開示責任の法整備がどこまで進んでいるのかということをスライドで少し確認をしてみたいと思います。

【スライド】諸外国の人権デューディリジェンス法の概要

【スライド】諸外国の人権デューディリジェンス法の概要

菅野 

基本的にビジネスと人権というこのテーマですけれども、右上にあるように、今から10年前、ビジネスと人権に関する国連指導原則というものができて、そこから10年間で大きな動きを遂げているということです。日本は置いておいて世界各国の動きを見ると、大体2013年頃から国連みんなでつくった原則を自国に落とし込んで、個別の行動計画とするという動きが始まりました。その上で、さらにいわゆる国別の行動計画、NAPというのはいわばソフト・ローでありますので、今度はそれをハード・ローという形で実際に法制化をしていくことが大きなこの10年の各国の流れということになります。

日本はどこにいるのかというと、このNAPの策定、真ん中のところです。おととしの10月に、だから2011年からおよそ9年たった2020年10月に日本でNAPの策定がありまして。さあ、じゃここから先、法制化に進むんですか、それともさらにそのNAPをガイドラインというものに落とし込んで、さらなる自律的な企業の動きに少し委ねてみるんでしょうかという岐路に立っているというのが日本の立ち位置かと思います。

少し参考までに見ていただくと、左のイギリスが一番最初にこの人権DDを法制化した国とこの表ではなっています。右に行くにしたがって、アメリカ、フランス、オーストラリア、オランダ、EU、ドイツ、カナダと法制化が進んでいるということです。

縦を見てもらうと、これからの議論でちょっと出てくるかもしれませんが、論点がよく見えてくるんですね。対象企業、要するに大企業と中小企業で責任の軽重を変えますかという論点です。あとは対象となる人権、大体児童労働と強制労働は入れていますけれども、そのほかにも特定鉱物、レアメタルとか鉱物についてのそういった労働の問題だとか、あるいは環境リスクも含めるのかとか、その幅です。あるいは、情報開示しなかったら罰則があるんですかのマル・バツとか、情報開示しなかったときには、罰則だけではなくて裁判所から開示しろと命令が出るのかとか、あるいは損害賠償責任を負えということになるのかとか、あるいは商品の差し止めまでできるのかとか、いろんなメニューの在り方を各国工夫しています。

菅野志桜里

その上で最後、情報開示する項目は、法律にあるものは絶対に開示しなければいけないという国もあれば、一応お勧めの開示項目にとどまっているところもあるということです。大体大ざっぱに左から右を見ていただくと、最初は罰則なしで始まった法律が、やはり実効性を担保するために、新しい年につくった国ほど罰則ありに動いていくような傾向が少し見て取れます。あとは開示項目なんかも、最初はイギリスはお勧め項目で始めていますけれども、やはり義務的にしていくというような法律制定の流れになっているというのが見て取れるかなと思っています。

〈脚注〉

Australian Strategic Policy Instituteオーストラリア戦略政策研究所)。2001年、オーストラリア政府によって設立された無党派のシンクタンク。

戦略、国家安全保障、サイバー、テクノロジー、および外国の干渉問題に関する国際的な議論において、オーストラリアおよび世界の政策立案者をはじめとするリーダーに情報を提供する。

***

人権侵害の事実認定をどうするのか?アメリカ式推定有罪で進めるのか。「腹決め」が求められている。国だけでなく企業の責任として人権デューディリジェンス(人権DD)を諸外国の取り組みも紹介した。次回、日本における人権デューディリジェンスについて、そしてそこに求められる政府の関与・役割について、議論を交わす。


第1回「人権外交」を超党派議員で語る~米中対立の間で日本が果たすべき役割とは~

第2回「対中国」アジア民主主義盟主として日本は言うべきことを言え

第3回 日本における人権侵害制裁法の制定は進むのか 制裁ツールを持つリスクとは?

第4回 人権侵害をどう認定する?インテリジェンス強化か米国式「推定有罪法」か ←今ここ

第5回 人権DD法制化を急ぐ理由「人権配慮のない日本企業と日本は排除」が迫る

第6回「情報公開」が人権を守る分水流 企業にはインセンティブで人権DDを促進

第7回「新疆ウイグル等における深刻な人権状況に対する決議」直前、超党派議員の本音

第8回 人権外交のプレーヤーとは?国会・政党・議員・民間はどう連携できるのか

〈プロフィール〉

◆齋藤健(さいとう・けん)

自由民主党 衆議院議員。1959年生まれ。東京大学卒業後、通産省(現経済産業省)へ。埼玉県副知事を務め、2009年衆議院議員初当選。農林水産大臣。衆議院・厚生労働委員会筆頭理事、安全保障委員会委員。自民党においては、団体総局長、税制調査会幹事、選挙対策副委員長、総合農林政策調査会幹事長、スポーツ立国調査会幹事長を務める。人権外交を超党派で考える議員連盟を発足、共同代表。著書に『増補 転落の歴史に何を見るか』(ちくま文庫)

桜井周(さくらい・しゅう)

立憲民主党 衆議院議員。1970年生まれ。京都大学農学部卒。京都大学大学院農学研究科修士課程修了、米国ブラウン大学大学院環境学修士課程修了。国際協力銀行勤務を経て伊丹市議会議員を務める。2017年衆議院議員当選。党近畿ブロック常任幹事、党政務調査会副会長、党ジェンダー平等推進本部事務局長。財務金融委員会委員、憲法審査会委員。

玉木雄一郎(たまき・ゆういちろう)

国民民主党代表 衆議院議員。1969年生まれ。香川出身。元アスリート。ハンセン病問題の最終解決を進める国会議員懇談会 顧問、海事振興連盟 副会長、国際連合食糧農業機関(FAO)議員連盟 幹事長、陸上競技を応援する議員連盟 幹事長、自転車活用推進議員連盟 副会長、ジョギング・マラソン振興議員連盟 副会長、天皇陛下御在位奉祝国会議員連盟 顧問。

音喜多駿(おときた・しゅん)

日本維新の会 参議院議員。1983年年東京都北区生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業後、モエヘネシー・ルイヴィトングループで7年間のビジネス経験を経て、都議会議員に(二期)。ネットを中心に積極的な情報発信を行い、政治や都政に関するテレビ出演、著書多数。三児の父。2019年、参議院東京都選挙区で初当選。

菅野志桜里(かんの・しおり)

元国会議員。国際人道プラットフォーム代表理事/The Tokyo Post編集長。1974年宮城県仙台市生まれ。小6、中1に初代「アニー」を演じる。東京大学法学部卒。元検察官。2009年の総選挙に初当選し、3期10年衆議院議員を務める。待機児童問題や皇位継承問題、検察庁定年延長問題の解決などに取り組む。憲法審査会において憲法改正に向けた論点整理を示すなど積極的に発言(2018年「立憲的改憲」(ちくま新書)を出版)。2019年の香港抗議行動をきっかけに対中政策、人道(人権)外交に注力。初代共同会長として、対中政策に関する国会議員連盟(JPAC)、人権外交を超党派で考える議員連盟の創設に寄与。IPAC(Inter-Parliamentary Alliance on China)初代共同議長。2021年11月、一般社団法人国際人道プラットフォームを立ち上げ代表理事に就任