6月のニューヨークはレインボー

『リベラルな街から』

『リベラルな街から』は、ニューヨーク在住のジャーナリスト笹野大輔氏のエッセイ連載です。ニューヨークのカルチャーシーンやニューヨークから見える日本の姿について書き下ろします。

6月のニューヨークはレインボー色に染まる。「プライド月間」により、街はLBGTQIA+たちの象徴であるレインボーの旗が掲げられ、建物もレインボー色に輝く。大手のオンラインサイトもレインボーはどこかに入っている、という具合だ。そして6月末、フィナーレを飾るようにNYCプライド・パレードが行われる。ちなみに、ここでのプライドとは、性的少数者たちの性的自認、性的指向に誇りを持つという意味。

2022NYCプライドパレード ©笹野大輔The Tokyo Post 
2022NYCプライドパレード ©笹野大輔The Tokyo Post 

50年前「ストーンウォールの反乱」から生まれたプライド・パレード

いまでは世界中でプライド・パレードが行われるが、いまから50年以上前、ニューヨークで起きた「LBGTQIA+たちと警察との争い」がプライド・パレードのきっかけ。それが「ストーンウォールの反乱」だ。ストーンウォールはグリニッジビレッジにあるバーの店名(ストーンウォール・イン)の略で、現在も営業を続けており、その歴史的経緯からバーとその周辺はアメリカの国定文化遺産保護地域に指定されている。

きっかけとなった1969年6月末の「ストーンウォールの反乱」は、LBGTQIA+たちが集まるバー、ストーンウォール・インで、警察による度重なる嫌がらせにLBGTQIA+たちの我慢の限界を超え、暴動が起こった。各地で数日続いたデモのあと、LBGTQIA+たちの組織がいくつも結成され、警察によるLBGTQIA+たちへの嫌がらせが次々と明らかにされた。その後、州議会や連邦議会へLBGTQIA+たちの保護を要求。時代が大きく動いた。そして翌年の1970年6月の最終日曜日から、「NYCプライド・パレード(現行名)」が行われ、今年も開催された。

NYCプライド・パレードでは誰もが好きな服を着て人生を謳歌する

2022NYCプライドパレード ©笹野大輔The Tokyo Post 
2022NYCプライドパレード ©笹野大輔The Tokyo Post 

日本のテレビニュースだと、「6月26日、ニューヨークや世界各地でLBGTQたちが権利向上を求めパレードを行い、今年は妊娠中絶の権利を訴える人がいました」で終わるが、元々はニューヨークで多数の負傷者を出した壮絶な戦いがあったのだ。ただし、LBGTQIA+たちの主張が世界中に波及した理由は、暴力ではなくシンプルに「誰でも普通に扱われること」への共感。つまり、人権の保障にある。最近の日本では同性婚を認めないのは「合憲」とされたが、ニューヨーク州では2011年6月に同性婚を認める法律が成立している。

NYCプライド・パレードに関して、誤解のないよう記しておくと、いまや参加者は、けして神妙になっていたり、みんなで抗議の声を上げているわけではない。基本的には、好きな服を着て、楽しく踊り、喜び合っている。筆者のようにストリートの脇から眺めている人にとっては、人生を謳歌している集団からエネルギーをもらうようなものだ。街に悲壮感はない。どの集団も楽しむ日だからこそ、良い連鎖を生んでいると言ってもいいだろう。歓びに満ちた熱狂は、どんな権力者にも止めることはできない。

2022NYCプライドパレード ©笹野大輔The Tokyo Post 
2022NYCプライドパレード ©笹野大輔The Tokyo Post 

とはいえ、LBGTQIA+たちへの差別がなくなったわけではない。前述のバー、ストーウォール・インは、公式にストーンウォール・イン・ギブバック・イニシアチブ(SIGBI)という慈善団体を持っており、HPにはこう書かれている。

“LGBTQになるということは、憲法の下で保証されているもっとも基本的な人権を拒否される、という意味であると想像してみてください。”

“次に、いまがその時だと想像してみてください。”

LGBTQIA+への支援で多様性社会をつくる

2022NYCプライドパレード ©笹野大輔The Tokyo Post 
2022NYCプライドパレード ©笹野大輔The Tokyo Post 

ストーンウォールの反乱から50年以上が経ち、自分たちの力によりニューヨークで人権の保障は勝ち取った。ただ、依然としてLBGTQIA+たちへの社会的不寛容が残っている。だから警告は続く。SIGBIは調達した資金をジェンダー平等の進展が遅い州や、多様性への理解のために使っている。

日本の読者にとって想像しやすい支援もある。それはメジャーリーグのニューヨーク・ヤンキースによる、LBGTQIA+たちへの大学の奨学金。ストーンウォールの反乱50周年を契機に3年前から始めている支援だ。ヤンキースはストーンウォール・インと組み、毎年5人のLBGTQIA+の高校生に対し、大学資金を1人1万ドル(約130万円)提供している。

昨年、ヤンキースのコミッショナーは、奨学金を出した高校生たちにコメントを出した。「これらの若いリーダーたちは、LGBTQコミュニティの未来を代表しており、奨学金はより包括的な世界を創造する、という彼らの夢を追求するに値する」。

なお、NYCプライド・パレードにおいても、自動車メーカー、銀行、百貨店、保険会社、ディズニーなど様々な企業がスポンサーになっている。多様性社会の推進や、ジャンダー平等の実現のために日本にはできることがまだまだある。