画像:shutterstock ユニクロ
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ユニクロのロシア撤退の迷走は、人権デューデリジェンス意識の低さ?

ロシアで「ユニクロ」50店舗を展開するファーストリテイリングは2022年3月10日、ロシアでの事業を一時停止すると発表した。柳井正会長兼社長の「衣服は生活必需品」という考えのもと、当初はロシア事業を継続する姿勢を見せていたが、国内外から批判を浴びていた。

「衣服は必需品」の信念で営業を継続

ロシアのウクライナ侵攻を受けて、ロシア国内で事業を行っている欧米企業が次々と撤退や事業見直しを表明するなか、ファーストリテイリングは50店舗の営業を続けていた。

このことについて、柳井会長は日本経済新聞の取材に答え、ウクライナ侵攻を非難しながらも「衣服は生活の必需品。ロシアの人々も同様に生活する権利がある」と述べた。

3月11日付日経新聞によると、柳井会長は、衣服は生活必需品との考えのもと、周囲の批判にも屈せず店を開け続けることを重視している。11年の東日本大震災では電力不足による節電要請があっても、売り場の照明を落とさずに営業を継続。20年春に新型コロナウイルスで緊急事態宣言が発出された後でも、多くの企業が営業自粛する中、自前店舗を開け続け、コロナ禍中に旗艦店も新規開業した。今回の対応も、こうした一貫した姿勢に基づくものだったという。

「残念だ」と在日ウクライナ大使がTwitterに

ユニクロは創業者の信念に基づき営業の継続を決めたつもりだったのだが、7日に柳井会長の発言が報じられると、国内外からの批判を招いた。

セルギー・コルスンスキー駐日ウクライナ特命全権大使はTwitterに「ユニクロは、ズボンやTシャツを持つというロシア人の基本的ニーズは、ウクライナ人の生きるための基本的ニーズより重要だと判断した。残念だ」と投稿。ほかにも国内外から、対応を批判する声や不買運動を呼びかける声が数多く上がっていた。

こうした批判を浴びて、ファーストリテイリングは10日になって「ロシア事業の一時停止を決定した」と発表した。

発表文によると、「あらゆる戦争に強く反対します。私たちは、人々の人権を侵害し、平穏な生活を脅かすいかなる攻撃をも非難します」としたうえで、「衣料の提供を通して、人々の生活に貢献することが、私たちの責務であると考えています。そのため、各国・地域で衣料品の販売だけでなく、過去20年間にわたって、紛争や自然災害の影響を受けた人々を含め、世界中で必要とする人々に服を届けてきました」「ロシアにおいても、私たちの使命の一環として、これまでユニクロの日常着を一般の人々に提供してきました」と説明。しかし、「現在の紛争を取り巻く状況の変化や営業を継続する上でのさまざまな困難から、事業を一時停止する判断にいたった」とした。

中国・新疆ウイグル自治区の人権問題の教訓は?

ファーストリテイリングは、2021年に中国・新疆ウイグル自治区での人権問題をめぐり、フランス当局よりサプライチェーンの捜索を受けている。今回の対応の遅れはその教訓を生かし切れていないようにも伺える。

ロシア撤退に関する一連のユニクロの対応について、国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの山口真一准教授は、11日付日経新聞のWeb版に「昨今、グローバル企業は人権問題などへの対応(人権デューデリジェンスへの取り組み)が、リスクコミュニケーションの観点から非常に重要になっています。柳井氏は優れた経営者だと思いますし、精神も尊重すべきです。しかし、侵略戦争という行為に対して、グローバルでの対応が遅れてしまったと見られても仕方ないでしょう」などとコメントを寄せた。