画像:『チェチェンへようこそ-ゲイの粛清-』
画像:『チェチェンへようこそ-ゲイの粛清-』

これ現代?ロシア支配下チェチェンでのゲイ迫害を描くドキュメンタリー映画公開中

ロシアの支配下に置かれているチェチェン共和国で横行する同性愛者への迫害を描いたドキュメンタリー映画『チェチェンへようこそーゲイの粛清ー』が2022年2月26日から全国各地の映画館で上映されている。チェチェンの部隊はウクライナ侵攻にも参加しているとされ、ウクライナでも同様な迫害が行われるのではないかとの懸念もある。

「LGBTQは悪だ」と拘留、拷問の対象に

『チェチェンへようこそーゲイの粛清ー』は映画制作者で報道ジャーナリストのデイヴィッド・フランスが制作した。

2019年に、ロシア連邦チェチェン共和国で、性的少数者を標的とした拷問や殺人が横行しているという報道を目にしたフランス監督は、モスクワにわたり事実を調査。すぐに「事態は急速に展開していて、迫害されている人々の救命活動が必死に行われているのを目の当たりにした。初日に撮影を始めて、そのまま続けるべきだと考えた」と言う。

『チェチェンへようこそ-ゲイ粛清-』メインビジュアル

チェチェンではゲイやトランスジェンダーであることは悪とされ、当局による「ゲイ狩り」が行われている。当局が関与する拘留、拷問、命の危険に瀕し、LGBTQであることが分かると、拘留され、拷問を受け、ときには命も奪われることもあり、LGBTQの人たちは息をひそめて、恐怖に怯えながら暮らしている。

フランス監督は、ロシアLGBTネットワークや、モスクワLGBT+イニシアティブコミュニティセンターなど、LGBTQ迫害の犠牲者を救出する活動家たちの中に入り、ゲリラ撮影の手法で、彼らの困難な活動の日々を撮影。LGBTQに対する残忍な虐待の手口を伝え、迫害される人たちの危機的状況を映像に収めた。

作品化にあたってフランス監督は、当事者の安全や今後の活動を保障するため、AI技術を使った映像処理を行っている。反LGBTQ問題と闘っている活動家に呼び掛けて、顔を貸してもらい、登場人物の顔を彼らの顔に差し替えたうえ、声も変えて、当事者を完全に特定不可能にしたのだ。

チェチェン独裁者「ウクライナ侵攻に参加」と

ロシア南部に位置するチェチェン共和国は現在、独裁者カディロフ首長によって治められている。彼はロシアのプーチン大統領に忠誠を誓い、ロシアの傀儡(かいらい)政権とみなされている。また、2万5000人あまりの私兵からなる部隊を率い、国内で誘拐や拷問、裁判なしの処刑に手を染めていると国際的に非難されている。

そうしたカディロフ首長は3月14日、通信アプリ「テレグラム」を通じ、自らロシア軍と共にウクライナ入りしたと明らかにした。

時事通信によると、カディロフ首長は「先日、我々はお前たちキエフのナチスまで約20キロメートルの地点にいたが、今はさらに近づいている」と書き込み、首都キエフに迫っているとしたうえで、「少し休んでいればいい。我々を探す必要はない。我々がお前たちを見つけるからだ。お前たちはもう長くはない。降伏して、我々の側についたほうがいい。さもなければ、お前たちは終わりだ」とウクライナ側に降伏を求めた。

欧米のメディアによると、カディロフ首長が実際にキエフ近くにいるのかどうかは定かでないという。しかし、獰猛な戦士として知られるチェチェンの部隊が戦闘に参加すると、映画で描かれたような残虐行為がウクライナでも行われるのではないかという懸念が広がっている。

この点について15日付英フィナンシャルタイムズ電子版は「単純な戦力の増強というよりは、ウクライナに対する心理的効果という点でロシア軍の助けとなるかもしれない」と指摘している。

『チェチェンへようこそーゲイの粛清ー』の上映期間は映画館により変わるため、公式サイトで確認を。