画像:人権外交を語る超党派議員トークイベントTOP
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人権を守る分水嶺は「情報公開」企業にはインセンティブを〈超党派議員トーク〉

2022年1月28日、「人権外交」を推進する超党派議員である自民・齋藤健衆議院議員、立憲・桜井周衆議院議員、国民・玉木雄一郎衆議院議員、維新・音喜多駿参議院議員が集い、元国会議員でTheTokyoPost編集長の菅野志桜里がファシリテーターを務め、トークイベントを実施。2月1日の「対中批難決議」への言及もありスリリングな展開となった。

「人権外交を語る超党派議員トーク」第6回

「人権に配慮しない日本企業と日本」を世界各国が排除しようとする動きがみられ、人権デューデリジェンス法制定を急ぐべきという論調に対して、企業の認識が追い付いていない、という意見が述べられた。本当に企業や世論はまだ追い付いていないのか?

〈パネリスト・順不同〉

齋藤健氏:自由民主党 衆議院議員

桜井周氏:立憲民主党 衆議院議員

玉木雄一郎氏:国民民主党代表 衆議院議員

音喜多駿氏:日本維新の会 参議院議員

菅野志桜里:国際人道プラットフォーム代表理事/The Tokyo Post編集長

人権外交を考える超党派議員トーク(c)The Tokyo Post
人権外交を考える超党派議員トーク

ESG投資によって企業の意識が変化

菅野志桜里(以下、菅野):

みなさんにお伺いしたいんですけど、投資家はESG投資というお題目があり、一方お題目ではなく、やっぱりエシカル投資、エシカル消費者が自分の買うものの選択の中にそういった価値基準を入れていく動きも若い人を含めて出てきている中で、本当に国民の認識、企業の認識が高まっていないことを理由に、政治がそれを先送りしていっていいんだろうか。あるいは本当に認識ってまだ低いんだろうかというような、私の中にはちょっと疑問があります。どうでしょうか。

玉木雄一郎氏(以下、玉木氏): 

認識が高まっていないのは国会の中だけの議論で、私がこれを国会で取り上げて、東証のコーポレートガバナンスコードにこれを入れてもらったんですよ。どこの分野に入れているかというと、人権ということよりもサステナビリティーのところに実は入れているので、今菅野さんが言ったESG投資という観点からすると、もう国際的に見れば環境と人権はほぼ同じように見られ始めています。だからマーケットのメカニズムを通じたプレッシャーということも逃げられなくなってくるので、投資と、つまり投資家の視点、それと消費者の視点、これが世の中を大きく動かしてきているので、そのプレッシャーは無視できなくなってきているし、そういうことに配慮しない企業にはお金が集まらなくなるし、購買もしてくれなくなるという、そういったプレッシャーも含めて変わっているし、変えていかなければならないなと、そう思いますね。

齋藤健氏(以下、齋藤氏):     

齋藤健氏 (C)The Tokyo Post
齋藤健氏

さきほどアメリカでウイグル強制労働防止法が通った話をしましたけど、あれは上院を通過したのが昨年の12月16日らしいんですよ。そのときに日本商工会議所の会頭の三村さんが出したコメントは、「世界全体にとって非常に大きな問題だ。もっと関心を持つべきだ」なんです。やっぱり意識がまだ低いということなんだと思うんですよね。

菅野 

この件、チャットにも質問が来ています。どなたかお答えいただければありがたいですけれども、「こういった日本の企業の認識がまだ低いということであれば、それを進めるために今一番必要なこと、できることは何なのでしょうか」というご質問が来ています。どなたか、こんなことができるんじゃないの、あるいは、「環境への取り組みはもう既に各企業行っているので、人権にも広げてもらえば」というようなご意見も来ています。どうしたらいいですかね。

制裁だけでなくインセンティブも

音喜多駿氏(以下、音喜多氏): 

音喜多駿氏 (c)The Tokyo Post
音喜多駿氏

これはさっきからニワトリ、卵の話と出ていますけれども、世論が高まっていないから制度や法律をつくらなくていいのかということは、やっぱりしっかり正面から考えなければいけない問題で、テクニックの問題ですけども、規制をするとか罰則をつけることは、当然それは世論が温まっていなかったら反発は大きくなるわけで。

一方で、ホワイトリスト的に表彰するとか減税のインセンティブを与えるとか、そういう制度設計からスモールスタートしていって、なるほどと、こういうことなんだねというところから、もうちょっと国際的な見合いを見ながら確固とした法律にしていくような、こういうやり方とかをもう少しわれわれ立法府の人間としても頭をひねらなきゃいけないですし、また政府与党にもしっかり真剣に検討していただく必要があるんだろうなと思いますね。

玉木氏: 

音喜多さんに補足すると、やっぱり法改正、法規制は、二つに分けて北風方式でやるのと太陽方式でやるのとあって、守っていない企業に対してディスインセンティブというか制裁を与えるようなやり方と、守ってちゃんとやっているところを何か優遇してあげると。よくあるのは総合評価方式で、公共調達の中で少し加点してあげるとか、よく女性活躍で取り組んだところにはちょっと何かするみたいな、そういうことでもできると思いますから、日本だと多分インセンティブ方式のほうがすんなり受け入れられるのかなと思うので、何らかのそういうことも一つ対応策としてはあるのかなと思いますね。

齋藤氏       

玉木さんの今の話をさらに補足しますと、これはやっぱり難しいのは、企業がこうやって自分たちは配慮していますと言っても、国のほうがそれが正しいかどうかのチェックが恐らくほとんど不可能なんだと思います。だから自分の企業はこういう形でチェックをしていますという、こういう措置を取っていますというところが限界で、そういう措置を取っていますということについて、そういう措置ならなるほどいいですねということをどこかがお墨付きをしてくれることになれば、消費者もそれを評価する人が出てくることになるので。そういう手法であればいちいち本当かどうかとチェックしなくていいので、前に進みやすいんじゃないかなと思いますし、規制じゃないから、むしろお墨付きを与えることなので、企業は飲みやすいんじゃないかなと思いますよね。

サプライチェーンのリスク評価にどう取り組むべきか

菅野 

なるほど。ちょっと前に別のシンポジウムで、やはりこのサプライチェーンにおけるリスク評価のやり方について議論されていたんですね。もちろん、それこそミャンマーの農村地域の先の先まで行って、そこで行われている小さな末端の工場に実際調査の人を派遣して、あるいはNGOの人に行ってもらってリスクを分析、評価してもらうやり方も一方であれば、逆にサプライチェーンのオープンソースをAIにかけて、その製品の作られていく工程の中でのリスク評価をAI分析していくこともやっている会社も実際出てきている。本当に調査、分析、リスク評価のやり方がまだ定まっていない中、企業のみなさんに、とにかくどういう手法でやるのか開示してくださいというのは、確かに結構厳しい話だとは思うんですよね。

やはり政府が各国の企業リスクについての評価をどうしているのというようなことをちゃんと調査をして、それをちゃんと企業に伝えるという、政府の責任をしっかり果たした上で企業に対する情報開示責任(を求める)という。そこもちゃんと後押ししていけば、日本の企業も意識を高めていくことができたり、それならむしろ努力して損するのではなくて、みんなで得していく方向に行こうと思えたりするような気もしました。

齋藤氏       

本当は、それぞれの国でということもあるんですけど、やっぱり世界共通の問題なので。日本のやっている措置が世界でも評価されないと意味がないので、そういう意味で言うと、本当はOECDとかああいうところでガイドラインをつくってやっていくことが王道なんだろうと思いますけどね。

桜井周氏(以下、桜井氏):     

桜井周氏 (C)The Tokyo Post
桜井周氏

あと、サプライチェーンの話とかになってくると、一つの会社だけでやろうと思ったら、これはえらい大変なわけですよね。自社で上流のさらに上流までたどっていけと言われるとそれは無理な話で、みんな一斉にやり始めれば、A社だけじゃなくてB社も上流から仕入れているとすると、どっちも必要だからバーッと広まりやすいといいますか。ある種のスケールメリットもあるものですから。今すぐ明日からやれと言われてもそれはみんな無理ですけれども、例えば2030年までとか、それだってちょっと遅すぎるかもしれないけど、もうちょっと手前ぐらいの、ある一定の目標を掲げて、それは政府主導でやるのか、経済界の自主的な目標としてやってもらうのかというようなことで、ある種みんなで渡ればみたいなところもやっぱり必要なんじゃなかろうかなと思います。

菅野 

ありがとうございます。DD手法の具体化について、やはり一企業でやれることの限界を政治がしっかりと補充して支えていくことを、ぜひまたみなさんでやってもらえたらいいのかなと思いました。このチャットでも、「企業ができる措置を何段階かでちゃんと明示をしてあげて、どのメニューをうちはできるんだ、あるいはやっているんだというようなことを、しっかりと企業に責任を果たしてもらえるような準備をしてほしい」というような政府に対してのコメントも来ています。本当にそのとおりなんだろうなと思いました。

国内の人権侵害問題をオープンに

桜井氏       

ちょっともう1点いいですか。そういったときに、これは人権外交なので、海外の事例のほうばかりわれわれは目が行きがちですが、果たして、じゃ日本国内で大丈夫なのかと。一部にブラック企業みたいなことをいわれたりしますし、あとそれから外国人の技能実習生の話をしたとき、結構ひどい事例なんかもぽろぽろ出てきたわけですよね。ですから人権外交ということで海外、中国のウイグルの問題についてわれわれ言っていて、少なくともここにいる4人は厳しいことを言うわけですけれども、いざその刃が自分たちに向けられたときは、本当にわれわれはきちっとやっていますよと言えるのかどうかということも、私たちの胸の中にちゃんと持っておかなきゃいけないなと思っております。

菅野 

桜井さん、大事な指摘をありがとうございます。チャットでも出ています。これはちょっと大事なことなので、お一人ずつコメントいただければなと思うんですけれども、それこそやはり今技能実習生問題とありましたように、日本における外国人の人権問題、あとはチャットで来ているのは北朝鮮による拉致問題など、自国民の海外での人権問題、こういったこともちゃんとやってもらいたいんだというようなコメントが来ています。場合によっては、まずは先に国内というような指摘がされることもある。まずはこっちというような、そういう反応、あるいはご意見についてどのように考えていったらいいのか、どなたからかありましたら。

玉木氏:       

玉木雄一郎氏 (c)The Tokyo Post
玉木雄一郎氏

それは大事な指摘で、よく中国が反論に使うのは、アメリカのほうが黒人、白人差別がひどいじゃないかといって、自分のところをちゃんとやれというようなことをよくいわれますよね。それはおっしゃるとおり、われわれも外に向かって言うのであれば、きちんと国内のことをやらなければいけないので、まさに国連などからも指摘をされている技能実習生の問題については早急にやはり解決をしていかなければいけない。

あと、この前、中国のテニス選手の問題もありましたけども、女性の人権に関して言えば、胸を張って言えるような状況じゃないし、例えば菅野さんもかつて提案されていたタイトル・ナインのような、アメリカにおいて女性の教育やスポーツにおける平等を確保するための法体系があって、今こういうのがないのでいろんな問題も生じていることからすれば、ああいうことは問題だ、人権上の問題なんだというのであれば、そういった国内的な法整備は、あらゆる面でまだまだ日本は足りないところもあるので、同時に進めていくことが大事だなと思いますね。

菅野 

音喜多さん、いかがですか。

音喜多氏     

もちろん国内の問題、これを同時に進めていくことは、多分みなさん方向性は一緒だと思います。同時に、オープンネスの強化というか確保、開かれている組織、情報公開がしっかりされていることをより踏み込んで徹底する必要があるなと。SDGsで人権とか環境とかばかりフォーカスされるんですが、情報公開も実は入っていて、多分わが国の弱点、今の政府与党に維新が物申していることでもあるんですけれども、情報公開が弱かったり、公文書の改ざんとかその辺の話もそうだと思うんですけど、中国のような独裁国家、北朝鮮の独裁国家に物を申す以上、われわれの政府はオープンである、公正中立であると。足りないこともあるかもしれないけれども、そこは今しっかり頑張ってやっているんですと。その姿勢までは全て、全世界に対してオープンに見せられるような姿勢がなければ、やはり他国に物申すことはできないと思っていますので、SDGsの中にあるオープンという項目、ここにもっと力を入れていくべきではないかなと思います。

菅野 

なるほど。確かに各国人権問題を抱えているわけですけれども、一つの分水嶺が、政府による情報公開がなされて、そして民による言論の自由が保障されているので、人権侵害があったときにそれをちゃんと国内で直せるルートがあるのか、それともそのルートすらつぶされているのか。後者の場合には、やはり国際社会が手を差し伸べる必要があるんじゃないか。そんなことは多分、内政干渉じゃないかというような批判に対する再反論で言っていけるのかなと思いました。

齋藤さん、いかがでしょうか。

齋藤氏       

どこかで線を引かなくちゃいけないと思うんですけど、個々の事件みたいなものが人権だという話と、国が関与してやっている話と、それはどこかで線を引いて考えていかなくちゃいけないなというのは非常に強く思いますね。

みなさんの話と以下同文なんですけど、ただやっぱり外に対して、われわれもこれからは言っていかなくちゃいけない。時代の曲がり角なので言っていかなくちゃいけない。そのことによって自分たちもより一層身ぎれいにしていかなくちゃいけないという、そのてこにもなるわけなので、どっちが先かじゃなくて、外に言うことによって国内もてこで進めていけばいいのではないかと思います。

菅野 

ありがとうございます。

桜井さん。

桜井氏       

人権というのは、別に日本人の人権が大事だとか、外国人の人権が大事とかいうことではなくて、人類普遍の価値ですから、国内外問わず取り組んでいかなきゃいけない。日本国内において、じゃ100点満点かというとそうでないところもある。しかし、少なくともわれわれも国会で取り上げてそういうこと、入管の問題とか、入管でスリランカの女性がお亡くなりになった件(※)とかを追及したり、こういうプロセスをオープンに追及をし、そしてそれに対して改善、私はまだ不十分だと思いますけど、ちょっとずつでも改善していこうという様子があることが大事だと思いますので、日本国内でもそうやって改善もしていくし、外国においても同じように改善に取り組んでいくことが大事だと思っています。

〈注釈〉

※2021年3月名古屋出入国在留管理局でスリランカ国籍のウィシュマ・サンダマリさん(当時33)が収容中に亡くなり、入管の人権侵害が疑われている問題。これに対し、2022年3月ウィシュマさんの遺族は、入管が違法な収容を継続し医療措置を怠ったとして、国に損害賠償を求める訴訟を起こした。

***

人権DDはインセンティブで推進するという共通の方向性も示され、その評価方法はどうあるべきか議論が進められた。一方、外国人の技能実習生問題などを事例に、自国の人権侵害問題という重要な指摘があり、人権は「情報公開」が肝であると、与党に強く求める場面もあった。次回は、2021年中先延べになっていた「対中国非難国会決議」について。


第1回「人権外交」を超党派議員で語る~米中対立の間で日本が果たすべき役割とは~

第2回「対中国」アジア民主主義盟主として日本は言うべきことを言え

第3回 日本における人権侵害制裁法の制定は進むのか 制裁ツールを持つリスクとは?

第4回 人権侵害をどう認定する?インテリジェンス強化か米国式「推定有罪法」か

第5回 人権DD法制化を急ぐ理由「人権配慮のない日本企業と日本は排除」が迫る

第6回「情報公開」が人権を守る分水嶺 企業にはインセンティブで人権DDを促進 ←今ここ

第7回「新疆ウイグル等における深刻な人権状況に対する決議」直前、超党派議員の本音

第8回 人権外交のプレーヤーとは?国会・政党・議員・民間はどう連携できるのか

〈プロフィール〉

◆齋藤健(さいとう・けん)

自由民主党 衆議院議員。1959年生まれ。東京大学卒業後、通産省(現経済産業省)へ。埼玉県副知事を務め、2009年衆議院議員初当選。農林水産大臣。衆議院・厚生労働委員会筆頭理事、安全保障委員会委員。自民党においては、団体総局長、税制調査会幹事、選挙対策副委員長、総合農林政策調査会幹事長、スポーツ立国調査会幹事長を務める。人権外交を超党派で考える議員連盟を発足、共同代表。著書に『増補 転落の歴史に何を見るか』(ちくま文庫)

桜井周(さくらい・しゅう)

立憲民主党 衆議院議員。1970年生まれ。京都大学農学部卒。京都大学大学院農学研究科修士課程修了、米国ブラウン大学大学院環境学修士課程修了。国際協力銀行勤務を経て伊丹市議会議員を務める。2017年衆議院議員当選。党近畿ブロック常任幹事、党政務調査会副会長、党ジェンダー平等推進本部事務局長。財務金融委員会委員、憲法審査会委員。

玉木雄一郎(たまき・ゆういちろう)

国民民主党代表 衆議院議員。1969年生まれ。香川出身。元アスリート。ハンセン病問題の最終解決を進める国会議員懇談会 顧問、海事振興連盟 副会長、国際連合食糧農業機関(FAO)議員連盟 幹事長、陸上競技を応援する議員連盟 幹事長、自転車活用推進議員連盟 副会長、ジョギング・マラソン振興議員連盟 副会長、天皇陛下御在位奉祝国会議員連盟 顧問。

音喜多駿(おときた・しゅん)

日本維新の会 参議院議員。1983年年東京都北区生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業後、モエヘネシー・ルイヴィトングループで7年間のビジネス経験を経て、都議会議員に(二期)。ネットを中心に積極的な情報発信を行い、政治や都政に関するテレビ出演、著書多数。三児の父。2019年、参議院東京都選挙区で初当選。

菅野志桜里(かんの・しおり)

元国会議員。国際人道プラットフォーム代表理事/The Tokyo Post編集長。1974年宮城県仙台市生まれ。小6、中1に初代「アニー」を演じる。東京大学法学部卒。元検察官。2009年の総選挙に初当選し、3期10年衆議院議員を務める。待機児童問題や皇位継承問題、検察庁定年延長問題の解決などに取り組む。憲法審査会において憲法改正に向けた論点整理を示すなど積極的に発言(2018年「立憲的改憲」(ちくま新書)を出版)。2019年の香港抗議行動をきっかけに対中政策、人道(人権)外交に注力。初代共同会長として、対中政策に関する国会議員連盟(JPAC)、人権外交を超党派で考える議員連盟の創設に寄与。IPAC(Inter-Parliamentary Alliance on China)初代共同議長。2021年11月、一般社団法人国際人道プラットフォームを立ち上げ代表理事に就任