2010年バルセロナ大会男子10000mで優勝を飾る❝モー❞ファラー 画像:shutterstock
2010年バルセロナ大会男子10000mで優勝を飾る❝モー❞ファラー 画像:shutterstock

人身売買されていた! 英国陸上界のスーパースター、モハメド・ファラーが過去を告白

英国の著名な男子陸上選手でオリンピック金メダリストのモハメド・ファラーさんが、幼少期にアフリカから人身売買で英国に連れてこられたと、英BBCが2022年7月12日に報じ、英国社会に衝撃を与えている。

五輪2大会2冠でナイトの称号も

モハメド・ファラーさんは現在、39歳。2012年ロンドン五輪、16年リオデジャネイロ五輪の2大会連続で陸上5,000メートルと1万メートルに出場し、2つの金メダルを獲得した。このため、英国では陸上界のスーパーヒーローとして知られ、2017年には陸上競技への貢献に対して、エリザベス女王からナイト(騎士)の称号を授与された。

これまで、ファラーさんはソマリア出身の難民で、幼い頃、両親とともに英国に渡ったとされていた。ところが、彼は人身売買で英国に連れて来られ、他人の家で使用人として働かされていたことをBBCに告白した。本名はフセイン・アブディ・カヒンで、モハメド・ファラーは連れてこられたときに与えられた偽名だという。母親と2人の兄弟は、今もソマリアから一方的に独立を宣言した北部地域のソマリランドに住んでいる。

9歳の頃、偽名で入国し使用人として働かされる

ファラーさんがBBCに語ったところによると、彼の父親はソマリアの内戦で死亡。彼は、8歳か9歳の頃、実家から連れていかれ、隣国のジブチで暮らした後、見知らぬ女性に連れられて飛行機で英国に渡った。

当初は「ヨーロッパで親類と暮らす」と聞かされていたが、彼はロンドンにある女性の家に連れていかれ、それから使用人として家事や育児をさせられていたという。

数年間は学校に通うことも許されず、家事や育児をしなければ、食事を与えられないような状態が続き、「家族にもう一度会いたければ、何も言うな」と言われていた。

しかし、ファラーさんは12歳のとき、ソマリア難民として学校に通えるようになり、そこで陸上競技と出会う。その後、学校の体育教師に自分の境遇を話し、その教師の手助けによって、使用人としての生活から脱出できたという。

ファラーさんは、過去を告白した理由について「人身売買や奴隷制度に対する世間の認識を変えたいからだ」と語った。彼と同じ経験をした人は決して少なくなく、「私がいかに幸運だったかがわかる」とも話した。

ファラーさんの告白に対して英政界も反応し、13日付時事通信によると、ロンドンのサディク・カーン市長は「彼が生き抜いてきたすべてが、彼が最高のオリンピアンの一人であるだけでなく、真に素晴らしい英国人であることを証明している」とコメントした。

ファラーさんが市民権を得たことに疑問の声も上がる中、英内務省の担当者は「何らかの措置を取る予定はなく、そうしたことを示唆するのは間違いだ」と話したという。