画像:shutterstock 北京パラリンピック2022旗
画像:shutterstock 北京パラリンピック2022旗

ウクライナ戦時下での北京パラリンピック浮き彫りになった課題…札幌は?

ロシアによるウクライナ侵略のさなかに開催された北京パラリンピックが2022年3月13日、10日間の日程を終え閉幕したが、依然として戦火は止まらない。ウクライナ選手団は反戦平和を訴えながら試合に臨み、同国史上最多の29個のメダルを獲得した。

選手は戦闘の終結を求める平和へのメッセージを発信

ウクライナの選手の一部は陸路を使って国境を越えるなど戦火をくぐり抜け、開幕の2日前に北京入り。中国入りした後は、積極的にメディアの取材を受けて平和を訴えた。中には、自宅が爆撃されたことや、父親がロシア軍に拘束されたことを明かす選手もおり、メダルを獲得した喜びよりも、戦争が続くことの悲しみや平和を望む気持ちを語る場面が多かった。

そうした過酷な状況の中で、選手団は金11個を含む29個のメダルを獲得。主催国の中国に次いで、2番目に多いメダル数となった。同国パラリンピック委員会のスシケビッチ会長はロイター通信の取材に答えて、ロシア軍による侵略が「今大会でわれわれがこれほどの素晴らしい結果が出せている理由の一つ」とし、「戦争がとても大きく、強力なモチベーションとなっている」と述べた。

10日には選手村でロシア侵略に抗議する集会も開かれ、共同通信によると、選手らは「子供や女性が生き延びるために、(国際社会の)団結が必要だ」と訴えたという。パラリンピックの大会期間中に選手団の選手や関係者がこのように政治的なメッセージを再三表明するのは異例のことだ。

こうした言動は政治的だと非難されるのが通例だが、国際パラリンピック委員会(IPC)からも他国の選手からもとがめる声は上がらなかった。IPCのパーソンズ会長も「政治とスポーツは無関係であるべきだ」としながらも、閉会式のスピーチで平和を訴え、選手らを「平和の擁護者」と呼んだ。直接、ロシアの軍事進攻に言及したわけではないが、戦闘の終結を求めるメッセージで、異例の内容となった。

ロシアに配慮した中国には厳しい批判

参加各国がウクライナへの共感を示す中、平和への訴えを黙殺して批判を浴びたのが、主催国の中国だ。共同通信によると、中国国営中央テレビは、パーソンズ会長が「重要なのは平和への希望」と語ったのを、同時通訳で「重要なのは大きな家族になる希望」と言い換えた。選手を「平和の擁護者」と述べた部分については中国語に訳さなかったという。

開会式の中継でも、パーソンズ会長がウクライナ侵攻を念頭に平和を訴える発言をした際、中央テレビの同時通訳は無言となり、翻訳を行わなかった。共同通信は「平和の訴えはウクライナ侵攻を続けるロシアへの批判と受け取られる恐れがある」とし、「ロシアとの友好関係を重視する中国にとって不都合な内容と判断した可能性がある」と指摘した。

こうした中国の対応について、産経新聞は15日付「主張」(社説)で「スポーツを体制の道具にして恥じることのない強権国家で五輪・パラが開かれたことは、ロシアの侵略とともに、繰り返してはならない『負の歴史』」と厳しく批判した。

2030年冬季五輪・パラ招致を目指す札幌

戦時下での開催は、国威発揚の場として利用されがちな五輪・パラの実態を浮き彫りにした。現在の五輪の在り方で、政治とスポーツを完全に切り離すことは難しいことが伺え、今後の開催に向けて大きな課題を残したといえる。2030年の冬季五輪・パラ招致を目指す札幌市への示唆ともなりそうだ。

3月15日の朝日新聞DIGITALによると、札幌市では開催の賛否について市民投票を行い、「賛成」「どちらかといえば賛成」と回答した人が「反対」「どちらかといえば反対」を上回り、過半数となったことがわかった。