〈第5回〉長野智子✕菅野志桜里「政治とジェンダー」対談 メディアの伝え方を変えていく 政治にドラマをつくる
ジャーナリスト長野智子さんと、菅野志桜里編集長が「政治とジェンダー」をテーマに対談を行った。長野さんは「クオータ制実現に向けての勉強会」事務局長を務め、政治のジェンダーギャップ解消を目指している。元衆議院議員として国政に携わってきた菅野と、どのような意見交換と合意形成ができるのか?
〈第1回〉女性議員の理想と現実、それでも女性議員を増やしたい理由
〈第2回〉参院選が女性候補大幅増でも喜べない?女性立候補者を消費する自民党
〈第3回〉企業も日本も多様性を取り入れなければ終わる 時限的クオータ制導入を
長野さんと菅野の「政治とジェンダー対談」最終回は、メディアの伝え方は変えられるのか? その可能性がある仕掛けについて最終提案。そして政治家のキャリア観からジェンダー課題に切り込む。
◆長野智子:ジャーナリスト、キャスター、国連UNHCR協会報道ディレクター
◆菅野志桜里:The Tokyo Post編集長、弁護士、国際人道プラットフォーム理事
有権者を誘導するメディアに罪はないか?
長野智子(以下、長野): 実はメディアも悪いところがあると思って。民主主義には「強い野党」が必要だけど、強い野党をつぶしてきたのはメディアなんじゃないかなと思っているところがあるわけですよ。というのが、国会中継とか、いわゆるテレビ報道でもそうですけど、野党のことを取り上げるときって、わあわあ叫んでいるところとか、すごくかみついているところとかという部分ばかり。国会って、やりとりの中で地味だけど、いい質問していて、政権が答えないみたいな場面って結構あるじゃないですか。でもメディアは何で政権がはぐらかしているのかとか、どうしてまともに答えないのかというのを深掘りして伝えない。むしろ「野党の追及不足」とだけ報じる。あれでは有権者の気持ちが離れますよね。だから結果的に国民民主みたいに、批判だけではなく提案型というか、ギアをチェンジしないと自分たちのやりたいことができないという。
菅野志桜里(以下、菅野): その見え方から脱却できないなら、それはもう言葉で言うしかないとなって、「対決より解決」だというキャッチフレーズが出てくる。「対決より解決」、そこまで言わないと、テレビの中で印象付けられている、口汚く批判を展開する野党という見え方から外に出られないという感じがあったんだとは思うんですよね。
長野: そのメディアの伝え方というのは、自分が中にいて言うのも何なんだけど、すごく問題だなと思っていて。
菅野: そう。大臣にかわされたみたいな。追及をかわしたことがすごく大人の振る舞いかのような言葉でつづられたり、コメントされたりするじゃないですか。
長野: でも、かわしているところほど真を突いているんじゃないのっていうところって結構ある。ちゃんとそこを掘り下げて報道することも必要だと思うんですよね。有権者の意識って多分そういうところでもつくられるんだと思います。日常的に見せられているものによって、どんどん野党といえばって。
菅野: 刷り込まれていく、野党の評価がね。
長野: そして、有権者の意識というのは、これまで話してきたことの大きな核になっていて。そこに切り込むにはどうしたらいいかというと、さっき菅野さんがおっしゃっていた予備選でもいいし。
菅野: 実のあるドラマ。
長野: どっちかというと、そういうことをやることによってメディアの伝え方自体を変えていくとか、そういう大きなことをやらないと変わらないよね。
菅野: そうだと思います、変わらないと思う。そうなんですよ。
長野: だからやっぱりそのために、議員立法とは言わずともなにか提言を勉強会から出すなら、日本ならではのクオータ制はどういう形がよいのかといった提案を出そうということになって。多分世間から批判されるとか、何言っちゃっているんだとか、いろんなリアクションあると思うんですよ。それも含めて報道側が報じやすくなるんじゃないかと、この問題を。何ならメディアもこのテーマに興味ないですから、全く。だからたとえ批判的であっても報じやすくすることで化学反応を起こしたい。何かこっち側から大きなことを仕掛けて、メディア側の報じ方を変えていくアクションが必要ですね、きっと。
予備選のドラマがメディアの伝え方を変える可能性
菅野: 予備選仕掛けてほしいな、予備選。結構いろんな問題を解決できる。
長野: どうしたら実施できますか。
菅野: 予備選って、多分、野党統一候補をつくる予備選の前に、どこかの政党が「うちは予備選やります」みたいな、現職も例外なしです、と始めないと。そういうことを考えると、結構やり得るのって維新ぐらいのところしか……もしかしてやっちゃうかもしれない感が維新の、そこはかとない、あれ。
長野: 今の維新人気の空気感ですね。
菅野: そう。それこそ立憲民主党だって、誰を公認するのかというプロセスがブラックだったりとか、納得がいかないものだったりして、それによって有為な人材を国民とか維新とかに流しちゃったんですよね、という面があると思うので。それは立憲民主党の議員自身が自覚をしているはずなんですね。ひどいことをしたなとか、ああ、それであの人、国民、維新へ行っちゃったなとか、党員、サポーターレベルでも、そういう場面に遭遇した支援者とかよく知っている人もいる。そういう意味でいうと、それこそ立憲民主党は野党第一党として、うちはそういういろんな課題があるし、現職含めて予備選をやりますと言ったらいい。今、党は崖っぷちというか……。
長野: ほぼ失うものはないかと。
菅野: 失うものはない状態だけど、一応全選挙区に立てられるぐらいの人とお金とノウハウの貯蓄がある政党なんですよね。維新だって国民民主だって全国全ての選挙区には候補を立てられないわけだから。だからそれこそ立憲民主党が予備選を。それぐらいしか変わらないんじゃないかなって。
長野: いや、本当。むしろ立憲民主はそれをやったら、少しはね。
菅野: それで、立憲民主がもしそれをやったらですよ、じゃ今度はやっぱり野党統一候補が必要だと。それはもう算数の問題として必要だってなったときに、今度こそは選対委員長の秘密会議で誰を下ろしてとかいうブラックな方法じゃ駄目ですよねという話になるから、せっかく予備選で得たこの公認の座席だけれども、さらなる統一候補予備選でやりましょうよと。そうすると世の中の視線は、選挙の期間じゃないのに、若干野党に行くじゃないですか。しかもちょうど3年あると言われている。3年あるか分からないですよ、こんなの。分からないけど、少なくとも多少まとまった期間があるから。
長野: 早めに解散するのではという話もあったけど、旧統一教会で延びたんですかね、これ。
菅野: そういう話もありましたよね。だから「黄金の3年間」なんてすごい空虚な言葉だと思っているんですけど、とはいえ、今ならできるじゃないですか、時間軸として。
長野: こういうのって、地方の県連とかは、やってくれるんですか。そこが一番大変って聞きます。党本部が何を言ったところで、県連が聞いてくれないみたいな。パワーバランスが、実は地方のほうが強くてって、よく皆さんおっしゃいますよね。どういうものなんですか。
菅野: 県連は地方議員さんとか事務局とかでつくられているわけだけど、要するに候補者は俺たちが担ぐんだから、俺たちが納得しなきゃ駄目なんだというあれですよね。そういう部分もあったと思うけれども、今やですよ。今や局面転換しないと、地方議員さんたちは自分たちの選挙すら危ういってなっている状況ですし。「自民党とは違って、ちゃんと予備選で新陳代謝していこうよ、つてのない若い人でも、もちろん女性でも、能力で座席を勝ち取っていくプロセスをつくろう、そしてオープンに見せようよ」と、この大義の前で、本当に党本部がやる気になれば、別に私はできると思いますけどね。
政治家にも多様なキャリアパスを
長野: 今、各党で意外に、次世代の政治家を育てるために養成塾みたいなのをやっているじゃないですか。その代わり予備選をやったらよっぽど実践的でいいなと思って聞いていたんですけど。
菅野: 政治塾みたいなのはやってもいいんですけどね。あ、長野さんは「村上財団パブリックリーダー塾」に参画するんですよね。女性政治家志望者を支援する。
長野: 応募者の審査員やります。
菅野: 私、この前、財団代表理事の村上玲さんとお会いをして、長野さんもこれを応援しているのを知ったんだけれども、ああいうふうに党ではなく民間がやる女性の政治塾というのも大事な取り組みだなと思って。そういうところで、今日お話ししているように、手を挙げる人を増やして、母数を増やさなきゃいけない。
長野: そうですね。あとは、手を挙げているのに壁を越えられない人、いるじゃないですか。やりたくてすごく一生懸命やっているのに、全然候補にさせてもらえないみたいな人が結構いるって聞いたの。そうなんですか。
菅野: 自民党はそうでしょうね。だってそりゃ、端からみたらすごくいいなって思える候補の人も比例名簿にちょこっと入るだけで、なかなか選挙区に出してもらうのは難しい。でも野党だったら割と、特に女性は今入りやすいとは思いますけどね。
長野: 女性議員が増えると環境が変わっていくのか。環境を変えるのが先なのか。でも、今現実的に見ていて、そこの環境を変えていけるとは思えないんですよね。
菅野: そうなんですけどね。でも、その中でも本当に空席を増やす、実力主義にするということとかで、随分挑戦しやすい女性が増えるんじゃないかなって。私が落下傘で選挙区行ったときにも聞かれましたが、「ここに骨を埋めるのか」と。そういう踏み絵も重すぎるハードルですよね。そういう政治家のあり方を変える、政治家の新しいキャリアパスがあっていい。まさに任期制限とかって、ずっとやりたい今の議員はすごい嫌だと思うけれども、挑戦したい人にとっては、むしろそっちのほうがありがたいと思うよ。
長野: そうだ。というかそこがポイント。
菅野: 辞められるんだから、政治家だって。
長野: 一般企業でも、選挙で落ちたら戻ってきていいというシステムになるといいですね。最近かなり増えてきたけど、そういうこと。
菅野: はい、増えてきましたけどね。
長野: 楽天とか資生堂がそうですよね。あの制度をデフォルトにすればだいぶ変わりますよね。
菅野: だいぶ変わると、本当にそう思います。結構できることってまだまだあるんじゃないかなっていう気がしてきました。超党派のクオータ勉強会での仕掛けにも、期待してます!
(了)
●4回に渡った「政治とジェンダー」対談。長野さんがライフワークとして取り組んでいる女性の議員を増やそうという問題提議は、男性優位の組織では関心が薄く、スルーされがちな問題だ。そのためには「目を奪う」アクションを起こすこと。それが、多様性ある政治、社会への扉を開くことになるのではないか。これが長野智子✕菅野志桜里対談の合意形成となった。
〈脚注〉
※パソナ、資生堂、楽天、富士通などが、就業規則等で社員が公職 に就いた場合に休職を認める企業もある。立候補休業(休暇)制度などといわれる。
長野智子
上智大卒後、フジTV入社。その後夫の米国赴任に伴い、NY大大学院で学ぶ。2000年よりキャスターとして「ザ・スクープ」「朝まで生テレビ!」「ザ・スクープスペシャル」「報道ステーション」「サンデーステーション」などを担当。現在は国内外の取材、国連UNHCR協会報道ディレクターなど幅広く活躍中。