2021年の校則議論を振り返る~学校内民主主義の法制化に向けて~〈第2回〉
「2021年の校則議論を振り返る~学校内民主主義の法制化に向けて~」ウェビナー全アーカイブ。前回は室橋氏から、校則問題の潮流と2022年の注目ポイントについて語られた。 アーカイブ第2回目は、内田良氏が准教授という立場からアカデミアの視点で校則問題の論点を述べる。
〈パネリスト〉
❖ 内田良(名古屋大学大学院教育発達科学研究科准教授):Zoom
❖ 斉藤ひでみ(岐阜県高等学校教諭):Zoom
❖ 渡邉すみれ(神奈川県内私立高校 生徒会長):スタジオ
❖ 室橋祐貴(日本若者協議会代表理事):スタジオ
❖ 菅野志桜里(国際人道プラットフォーム代表理事) :スタジオ
2021年12月20日、国際人道プラットフォームと日本若者協議会が共催するウェビナー「2021年の校則議論を振り返る~学校内民主主義の法制化に向けて~」が開催された。国際人道プラットフォーム代表理事/The Tokyo Post編集長の菅野志桜里、日本若者協議会代表理事の室橋祐貴氏、名古屋大学大学院准教授の内田良氏、現役高校教諭の斉藤ひでみ氏、現役高校生の渡邊すみれ氏が登壇し、「校則」をテーマに議論を行った。
菅野志桜里(以下、菅野):
ここからは内田先生にバトンを渡していきます。室橋さんの話でいうと、生徒の自由の基準は本来はもっと高いところにあるんだということを先生にもっと分かってもらおうとか、そのために働き方改革で先生自身の豊かな生活をみんなで保証してこうよとか色んな論点があるんですけど、内田先生の方から少し凝縮してお話をまずいただければと思っています。
内田良氏(以下、内田氏)
はい分かりました。それでは、2021年1年間における校則問題の大きな動きと、これから先この動きをどうやってさらに盛り上げていっていったらいいのかをその展望も含めてお話ししたいと思っております。室橋さんとかぶるところはささっと行きます。
もう本当にこの1年取ってみただけでも、今日登壇してくれている斉藤ひでみさんの署名提出から、文科省の通知文、さらにはクローズアップ現代でも9月に報道があり、そして室橋さんが中心になって校則見直しガイドラインを作っていただきました。是非これもサイトからご覧いただけるとありがたいです。
その中でも校則というのは、改めて憲法や子どもの権利条約の範囲を逸脱しないと、当たり前なんだけれどもここから確認していきましょうということでした。そしてカタリバ(※)さんもルールメイキング宣言というものを、ほぼ同じタイミングで校則見直しガイドラインと同じように作って下さいました。ガイドラインがどちらかというと法制度を含めた広い観点で、こちらのルールメイキングの方は現場でどうするかみたいな、より具体的な宣言文になっております。そして12月に本が出たということです。室橋さんにもご寄稿いただいております。
※編注:NPOカタリバは、2001年から活動を始めた教育NPO。その取り組みの1つであるルールメイキングプロジェクトは、学校の校則・ルールの対話的な見直しを通じて、みんなが主体的に関われる学校をつくっていく取り組みである。
校則問題は大人側の問題でもあると認識する
内田氏:
さて、それで特にこの本の中で強調したかったことは、校則問題の時に子供たちが主体的になって変えている、これはとても良いことです。ただ一方でそもそもこういった子どもに不自由を強いていること含めて、校則はまず大人側の問題だよねというのがこの校則改革の本の趣旨でございます。つまり先生や大人が変わらないことには何も変わらないんじゃないのかといった問題提起をいたしました。
というのも、僕が2021年の8月にいじめ関係で Web調査をした時にちょっと校則の事も聞いてみたんですね。そうすると「校則を守るべきですか?」みたいにザックリ聞いた時にはほとんどの人がポジティブな反応を、守るべきだと答えるということなんですね。その中でも中学生以上に教員や保護者がそのように強く反応するということがこのピンクと紫の色のところを見ていただければ分かるかと思います。
そしてこれは2021年の2月のことですけれども、今全国的にコロナで制服の洗いやすさを考えて私服にするだとか、暑さ寒さ対策、特に窓を開けたりしなきゃいけないということで、試行期間としてやってみるみたいな動きが全国各地で起きています。
岐阜北高校はその先駆け的な動きをやった学校なんですが、実際に試行期間を経た後にアンケートを生徒からとったそうです。そうすると、子どもは「もう自由でいいんじゃないっすかね」というのが大多数だけれども、教職員そして保護者になるとやっぱりそこの割合がかなり小さくなっていくということを含めて、もう一歩進めないのは、やっぱり大人なんだなあと思います。
ただここに教員への調査で、これも岐阜北生徒会がやったんだと思うんですけどね、生徒会の調査で「授業規律が低下したか?」を聞いてて、先生達はほとんど低下していないと答えてるわけですね。それでもやっぱり制服がいいと答えてしまうこの大人の進みにくさっていうところに僕は問題意識を感じています。もちろん生徒が変わることはとても大事なんだけど、大人か変わらんことには…というところがあります。
賞賛される生徒主体に違和感…
内田氏:
特にそういった思いを僕が強く抱くようになった事案の一つが、2,3年前のことだったと思いますけれども、ある生徒総会で女子のストッキングに黒色を追加してほしいと言ったところ、生徒会長がいやいやそれをOKすると何でもありになっちゃうでしょと、まさか中学生が中学生に向けて中学生らしい身だしなみが大事だと答えて終わっていくという。
まさに室橋さんも言ったように生徒による校則見直しが却下されたと、生徒総会で生徒の結論としてこうなった話なんですね。これ一応生徒がやったって話である意味いい話なんだけど、なんか違うんじゃないのと思うわけですよ。改めて先に変わるべきは生徒の前に先生じゃないのかなといった意味でも、まず校則見直しのステップゼロとして先生自身による見直しが必要だろうと問題提起を2021年通してきました。
もう1つこれはホントに全国各地でいくらでも報道でございますけれども成功した事例です。例えばここでは黒タイツを認めてもらったという事案ですけれども、2月から聞き取り調査をしてそこで先生にノーと言われ、アンケートをしてまたノーと言われ、保護者・卒業生を交えた会議でようやく容認、これに半年かかってるわけですね、半年かけてタイツの色が一色増えたってのはこれはなんか悪夢のようにも聞こえる。
生徒が動いたからいいよねっていう美談になるんだけど、それにしてもあまりにも大人がかたくなに現状を守っていて、子供が大人の手のひらの上で小さくジャンプしたものを生徒輝いてるねって言ってる。本当にこれでいいんだろうかっていう疑問がふつふつとわいてきて、それがさっきの校則改革の本に1つ結実したというところでございます。校則見直しのコストパフォーマンスとあえて皮肉を込めて申し上げますけれども非常に悪い。これで世の中を変えていくのはとても効率が良くないなと思うわけでございます。
本来の「生徒主体」とは?
内田氏:
さて先ほどの話の通り、室橋さんにとっては学校に人権主義と民主主義を根付かせるという事なんですが、また後で室橋さんにもご意見頂けたらなと思うことがあって一つ質問も兼ねてお話をしたいと思います。
今報道されている校則改革はグラデーションがあってまだほとんどの校則改革はここの図で言う左側の方です。つまりガチガチの不自由な校則があってそこに生徒主体だと言って見直して、そのうちの多くは却下されていき、一部が靴下の色が変わる、髪型でツーブロック禁止が変わるなどちょっとした1㎝くらいジャンプするっていう、そういったものの報道が現時点でほとんどです。
一方で、やっぱりこの校則改革を考えた時には大人側の問題としても考えなきゃいけないので、もう少し言い方を変えると、ちょっと極端な言葉を使いますけれども、校則問題の加害者が教員で被害者の子供だとしますね。その時に被害者である子供が変えなきゃいけないっていうことそのものがなんかおかしくもあるわけですね理屈上は。大人がまずは更地で整備しなきゃいけないんじゃないの?という。そういった、誰がどのような改革すべきかということも少し整理するといいんじゃないのかなって。
僕が思う室橋さんがおっしゃっていること、僕自身もすごく大事だと思って強く賛同するところは、図の右側の生徒主体に近いんだろうなって。
今ごく一部ですけれども全く校則のない学校でちょっと携帯の使い方が悪いからみんなで相談してルールを決めようという動きもあるわけですね。スクールバスの中での携帯の使い方とか。そういう風に子供たちが自分で問題意識を抱いて、そして大人とまさに対等に話し合ってルールのあり方をゼロから作っていく。これ僕、なるほど生徒主体だし、大人と対等に議論してすごくいいなって。同じ生徒主体でも、地獄のような左側の生徒主体と右側の僕から見た時の理想的な生徒主体。なので、どこに焦点を絞るかで生徒主体の響きがずいぶん異なってくるのかなって。
ここをもっと識別しながら議論していかないと、ともすると室橋さんの主張もなんか左側の生徒主体に引き寄せられるみたいな。生徒が変えましたキラキラキラみたいな感じだけど、それは違うやろみたいな。そんなところがこれから少し私たちも意識していかないといけないのかなと思うところでございます。
校則問題を社会問題として捉える
内田氏:
そして、室橋さんにも引き合いに出していただきましたもう1つ、ぜひこれは今日聞いてくださっている皆さんに申し上げたいのが教員の働き方と一緒に考えなきゃいけないということ。
例えば、特に小学校の外でのことが象徴的なんですけれども、通常学校の門を出たら子どもは保護者に返したことになります。ところが早く帰った時にフードコートで子どもがたくさんおしゃべりしてる。それを見た住民が学校に電話してくるわけですね。そして先生が駆けつけ叱りつけて厳しいルールが誕生していくことは多々あるわけです。
私たちが学校の外のことまで先生にお願いしちゃってる。このことにもうちょっと自覚的になっていかないと。よく校則は学校がおかしくって市民の側がなんだかすごく健全な意識を持っているみたいな問われ方をするんだけど、多分それを作っているのは市民の側だったという。こういう考え方で、みんなで子どもの人権のことを考えていきましょうという風に、あまり敵対関係ではなくてみんなで考えていくことがこれから必要だろうという思っております。
以上です、ありがとうございました。
菅野:
ありがとうございました。今いただいた市民参画のリスクというのもあるような気がするんですね。あともう1つ、今、100の規制が当たり前になっているのを1つずつ下げる努力を子どもがやらなきゃいけないのか、それとも一旦規制0、ゼログラウンドに戻してから、そこまでは大人の責任で、そこからもし何らかのルールが必要なら一緒に考えていきましょうと。まず最初0に戻す責任は本来は大人にあるんじゃないの、こんな投げかけがありましたけども室橋さんいかがですか?
室橋祐貴氏:
重要なのはどういう順番で考えるかだと思っていて、校則見直しガイドラインの解説の方にはステップをちゃんとつけていて、どういう順番で考えていくかというのでステップ1から5ぐらいまであるんですけど。まず現状が子どもの人権や自由を奪っている校則がそもそも多いので、そこを1から1個1個潰していくかは、まず1回スタンダードを上げちゃって、そこでまず今すでに子どもの人権を侵害しているような校則を撤廃していくのは重要な観点で。
自分たち(日本若者協議会)は去年、学校内民主主義を始めたんですけども、始めた理由は大きく2つあって。1つは先ほどから言っている若者の政治参加の文脈において。自分たちの声をちゃんと学校運営や社会づくりに反映していく経験をしていかないと、自分が声を上げた時に社会が変わると思えないと。専門用語でいうと政治的有効性感覚が日本は異常に低いんですね、他の国と比べると。
政治参加していない最大の理由はこれだと自分達は認識していて、それを変える取り組みが校則であり学校への参加という意味でそれを位置づけたかったんです。これまでの子どもの人権を守るための校則議論だけじゃなくて、生徒の主体性を伸ばすための議論として校則議論を位置づけたかった。去年まであまり議論されていなかったのでその議論をしたというところ。
あとこのあとの法案で出てくる話でもあると思うんですけど、自分たち(日本若者協議会)は学校内民主主義と言っていて、カタリバさんが言っているルールメイキングとはちょっと違うんです。要は、自分たちは校則の議論だけじゃなくて、学校運営自体に参加していくことが重要だと思っていて。校則はもう早くどかしてほしいんですね。
校則をまず終えて、授業内容だったりとか学校行事だったりとか、そもそも学校運営をどうやっていくのかという部分に議論をいかせたい。「学校の授業くそつまんないよね」みたいなそういう声が学生の中にたくさんあると思うけど、それがなかなか授業改善に反映されていない。そういうところをどんどん変えていきたいなと思っているんで、その意味合いもちょっとあります。自分達からするとちょっと議論のフェーズとしては相当手前っていう認識なんですよね。
〈プロフィール〉
内田良(うちだ・りょう)
名古屋大学大学院教育発達科学研究科・准教授。博士(教育学)。専門は教育社会学。学校の中で子どもや教師が出遭う様々なリスクについて調査研究並びに啓発活動をおこなっている。著書に『#教師のバトンとはなんだったのか』(岩波書店、共編著)、『校則改革』(東洋館出版社、共編著)、『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社新書)、『教師のブラック残業』(学陽書房、共編著)など。ヤフーオーサーアワード2015受賞
斉藤ひでみ(さいとう・ひでみ)
岐阜県高等学校教諭。2016年より「斉藤ひでみ」名で教育現場の問題を訴え続け、国会や文部科学省への署名提出、国会での参考人陳述等を行う。共著に『教師のブラック残業』(学陽書房)、『迷走する教員の働き方改革』『#教師のバトンとは何だったのか』(岩波ブックレット)、『校則改革』(東洋館出版社)。ドキュメンタリー「聖職のゆくえ」出演
渡邊すみれ(わたなべ・すみれ)
神奈川県内私立高校の生徒会長。紅一点で長年サッカーをプレーする傍ら、閉鎖的な学校の在り方に疑問を感じ生徒会長に就任。学校内民主主義の実践を試みるも、内部での同調圧力に限界を感じたため、校則がないことで有名な桜が丘中学校を視察したり、NPO法人カタリバで出会った同世代とともに「対話」による全国的な校則見直しの活動など外部での活動に力を入れている
室橋祐貴(むろはし・ゆうき)
若者の声を政治に反映させる「日本若者協議会」代表理事。慶應義塾大学経済学部卒。大学在学中からITスタートアップ立ち上げ、BUSINESS INSIDER JAPANで記者を経て、大学院で研究等に従事。Yahoo!ニュース個人オーサー、日本経済新聞Think!エキスパート
菅野志桜里(かんの・しおり)
宮城県仙台市生まれ、武蔵野市で育つ。小6、中1に初代「アニー」を演じる。東京大学法学部卒。元検察官。2009年の総選挙に初当選し、3期10年衆議院議員を務める。待機児童問題や皇位継承問題、検察庁定年延長問題の解決などに取り組む。憲法審査会において憲法改正に向けた論点整理を示すなど積極的に発言(2018年「立憲的改憲」(ちくま新書)を出版)。2019年の香港抗議行動をきっかけに対中政策、人道(人権)外交に注力。初代共同会長として、対中政策に関する国会議員連盟(JPAC)、人権外交を超党派で考える議員連盟の創設に寄与。IPAC(Inter-Parliamentary Alliance on China)初代共同議長。2021年11月、一般社団法人国際人道プラットフォームを立ち上げ代表理事に就任