国際人権問題担当総理大臣補佐官 中谷元議員に 訊く〈3〉 人権外交 最前線 ©The Tokyo Post
国際人権問題担当総理大臣補佐官 中谷元議員に 訊く〈3〉 人権外交 最前線 ©The Tokyo Post

ウクライナ、アフガニスタン、ミャンマー…難民受け入れの門戸広げる日本

〈第3回〉人権外交最前線/国際人権問題担当総理大臣補佐官・中谷元議員に訊く

2021年12月、内閣で初の「国際人権問題担当補佐官」というポストに任命された中谷元議員に菅野志桜里編集長がインタビュー。「ウイグル弾圧」「ウクライナ侵略」「避難民受け入れ」など重要なアジェンダとなった人権外交について国家の方針を質す。

中谷元(国際人権問題担当総理大臣補佐官)

菅野志桜里(The Tokyo Post編集長/国際人道プラットフォーム代表理事)

国際人権問題担当補佐官というポストが誕生した背景として、2021年は、アフガニスタンをタリバンが制圧、中国による新疆ウイグル弾圧、ミャンマーの軍事クーデターと人権侵害の恐れがある事態が立て続けに発生したことがあげられる。そして、2024年2月24日、ロシアによるウクライナ侵略が始まる。いよいよ、国際人権問題が脚光を浴びることとなった。

ウクライナ避難民の受け入れはかつてない迅速さだった

中谷元議員 ©The Tokyo Post
中谷元議員 ©The Tokyo Post

菅野志桜里(以下、菅野):4月にはウクライナ危機を受けて、隣国ポーランドに行かれましたよね。このポーランド訪問、ロシアへの制裁、そしてウクライナへの支援について、まずおきかせください。

中谷元補佐官(以下、中谷):2月24日、ロシア軍がウクライナを侵略しました。無辜(むこ)の市民が多数犠牲になっていることは本当に耐えられないことですし、ロシアの行為は重大な国際人道法違反で戦争犯罪でありますので、断じて許されません。事態を早期に終結するために日本としては、ロシアに対して犯したことに対する重大な認識を持ってもらうと同時に、早期停戦で戦闘を終わらせるという意味においては制裁が有効なので、経済制裁を実施してきております。

それからウクライナに対しては、人道的な支援を行うので、経済支援、物資輸送、そしてやはり避難民の救援がテーマになりました。官房長官をヘッドとする関係閣僚会議が設けられまして、私もその中に入って検討したところ、やはり早期に政府専用機を派遣をして避難民を受け入れるべきではないかと。古川(禎久)法務大臣が積極的に決断をされて、政府専用機の派遣が決まりました。当初は法務大臣が政府特使として行く予定でしたが、残念ながらコロナの感染が確認されたので、急きょ、林(芳正)外務大臣、津島(淳)法務副大臣、そして私が派遣を命ぜられまして、ポーランドに行ってまいりました。

そこで見たことは、ポーランドは国として過去2度の世界大戦で大変悲惨な思いをしているので、だからこそ今苦しい状況にあるウクライナからの人を助けましょう、もう無条件に受け入れましょうと、各家庭へのホームステイも含めて対応がされていました。

町の至る所にどこへ行けばいいか案内所があって、避難民のセンターではポーランドの市民と同じ処遇を受けられるような保険や生活費などの救援制度と、それから救援施設では食事や宿泊、本当に素晴らしい対応をされておりまして、路上には路頭に迷う人とか金銭を求めるような人は見当たりませんでした。多くの方が安心してそこで滞在をしている現場を見まして、国家というものがこれだけ人道的な気持ちを持って迎えられるのは、大変素晴らしいことだなと感動しました。

私たちが到着した時点で既に、日本政府の各官庁が受け入れのための先遣隊を派遣しておりまして、日本に来られる希望を持っている人たちのマッチング、どこへ行きたいのか、どうしたいのかということで作業を進めておりました。私たちは3日間滞在しましたけど、帰る日には20名の日本へ避難する希望の方とともに、一緒の政府専用機で帰ってきました。今回、日本政府は避難民の受け入れには非常に積極的で、本当にスピーディーに思い切った決断をしています。

菅野:この写真を見ると、ここは避難民の方々の滞在施設でしょうか。小学生ぐらいの男の子が中谷補佐官に抱きついている様子が分かります。

中谷:これは、滞在スペースに子どもたちが遊べる場所もあるので、子どもたちに会いに行ってご挨拶したら、突然5歳ぐらいの子どもさんが私のほうへ抱きついてきて、1分ぐらい離れないんですよ、じっと感触を確かめるように。やっぱりお父さんとかお兄さんが国内に残って心配しているんだなと。そして、寂しいんだなと。子ども心にそういう不安を感じているのは直接感じました。そういう子どもたちがたくさんいまして、日本から折り紙を持っていって一緒に折りましたけど、非常に心和んで、行ってよかったなと思いました。避難民の方々のほとんどが子どもか女性なんですね。年配の方も多いし、戦争状態が長引いたら生活のこととか、収入のこととか、また残してきた家のこととか、数多くの不安を抱えつつ過ごしておられますので、早く戦闘が終わって元へ戻れるようにしなきゃいけないなと思いましたね。

アフガニスタンやミャンマーの避難民対策、アジアの一員として

菅野志桜里編集長 ©The Tokyo Post
菅野志桜里編集長 ©The Tokyo Post

菅野:ウクライナの難民、避難民の方々に対しては、高いレベルの支援がなされているし、国際社会からも評価されています。しかしここから先、ウクライナだけでなく、とりわけアジアの国々からの外国人処遇問題に関しても、高いレベルへと引き上げていかなければいけませんよね。国際社会の中で人権担当補佐官として活動されると、日本国内の外国人人権問題を指摘されることがおありだと思うんですけれども、その点についてはどんなことを今考えていらっしゃいますか。

中谷:ウクライナの避難民の方については、非常に日本の国内の皆さんも快く受け入れるということで、数多く支援を聞かされております。

一方で、アフガニスタンとかミャンマー、避難民の方々がいるわけでありますが、こちらのほうは非常に情勢が流動的で、やはり国際社会と連携しつつニーズに対応していくことが必要だと認識をしております。

アフガニスタンについては、報復とか強制連れ去りの報告、また女子中等教育が再開されなかったことなどを深く懸念をしております。アフガニスタンを安定に導くためには、やっぱりタリバンへの関与を通じて、女性、少数派の権利の確保とか、包括的な政治体制の構築とか、テロとの決別等で、前向きな行動を引き出す必要があるので、国際社会とも連携をしていきたいということであります。

このアフガニスタンの避難民につきましては、わが国の支援を受けて、現在(インタビュー時)までに728名の日本にゆかりのある方々が本邦に到着をしております。国内に受け入れる際には本人の意向をよく確認をして、きめ細かく対応していくので、できるだけそういった方々が日本で安心して定住、お過ごしになるように、また努力していきたいと思っています。

菅野:日本政府と仕事をしたり、日本の大学で学んだ方々が、安心して日本での避難生活が送れるような対応をお願いします。アフガニスタンの状況が改善される前に事実上国へ帰すようなことがあってはならないと思うので。

また、中谷さんは外国人技能実習の問題にも取り組んでいらっしゃるということですね。直接現場を視察されて、どう課題をとらえてますか。

中谷:少なくとも視察した現場におきましては、日本に来られた方々が非常に前向きに、経営者に対しても感謝の念を持ちながら、みんな協力をしながら仕事をしている状況を見させていただきました。また日本の法令もしっかり順守をして、休日とか処遇とか報酬とかはちゃんと規定どおりやってきているということでした。こういった法令は順守をしたうえでですが、聞きますとこの制度は非常にいいからぜひ続けてくれという声もありました。

ところが一方で、特定技能への転換もできるようになってきておりますが、そちらのほうは人手不足の解消の目的と関連して、まだ限られた分野しか開かれていないということです。この状況をどうしていくのか。これは古川(禎久)法務大臣が非常に積極的に、検討会を中につくって制度の見直しを現実にやっていただいております。しっかりと議論をして、制度にのっとって受け入れられた外国人の皆さんが、日本に来てよかったなと思えるようにしていきたいと思います。

菅野:視察の現場の外側に問題があるかもしれません。外国人処遇問題についてもオープンで積極的な議論ができるようにぜひお願いします。

最後に5月の訪米について。マルコ・ルビオ米国上院議員ともお会いになられたんですね。

中谷:ルビオ議員は、われわれと一緒にIPAC(対中政策に関する列国議員連盟)で活動してきたこともあり、快く面会をしていただきました。彼は、人権侵害が発生するような特定国や地域の問題が非常に重大になってくると。特にこうした国に重要物資の依存度が高くなるという問題は極めて深刻なので、日本や米国のような先進国が協力して、供給元がそうした特定国に偏らないようにすることが必要だと強調していました。

また、人権問題は各国の政府の本質が現れるものであり、またその国周辺にも人道の危機をつくり出すものなので、しっかり対処しなければならないという話もありました。ロシアのウクライナの侵略や、中国などについても話しました。

菅野:初対面で、しかも限られた時間だったと思うのですが、かなり多岐にわたって議論されたんですね。

中谷:そうですね。直接お会いしたのは初めてですが、非常に整理された発言で、われわれの考えていた以上にサプライチェーンの問題やデジタルテクノロジーの問題など、将来をしっかり予期しながら対応していく姿勢でした。非常に現実的な意見交換ができました。

菅野:今回の訪米では、ルビオ議員以外にも、カート・キャンベルNSCインド太平洋調整官やウズラ・ゼヤ人権担当国務次官など様々意見交換されたようですが、そうした米国政府関係者に対して中谷補佐官の方から強調して伝えたメッセージはなんですか。

ASEANの民主主義に貢献する

中谷:民主主義のためのサミット第1回目が行われましたけれど、各国それぞれの考えや事情を考慮しつつ、特にASEANについては、日本は古くからの関係もあるので、2回目以降も日本も協力をしたいというような話をさせていただきました。

菅野:それは素晴らしいですね。人権や民主主義が欧米の専売特許みたいになっては、世界はむしろ不安定化します。アメリカが選んだ国こそが民主主義国、こんな印象を持たれると反発も大きくなります。まさに日本に架け橋の役割を果たしてもらいたいと思いますが。

中谷:それこそ今までやってきた対話と協調……。

菅野:そこは対話と協調の出番ですね。

中谷:はい。やっぱりミャンマーにしてもロヒンギャにしても、日本のやり方で腰を据えてやっていくのが近道じゃないかなという気がしますけどね。

菅野:アジアの中の日本として、そうした切り札となるような関係性があるのであれば、きちんと成果を出してもらいたいところです。

中谷:何とかミャンマーにおいても民主主義とか自由が復活してもらいたいので、日本政府としても①暴力の即時停止、②アウン・サン・スー・チー国家最高顧問を含む被拘束者の解放、③民主的な政体の早期回復の三つの視点でもって、ASEANと協力しましょうということで、ASEANとの関係を強化しながら、ミャンマーの問題にも対応しています。

菅野:ただ民兵同士の争いにも発展して、ミャンマーは状況が悪化の一途をたどっていますよね。

中谷:長年日本は、ミャンマーの民主化に努力をしてきましたので、こういった状態がまた戻ってくるようにしていきたいと思います。

菅野:それはそのとおりですね。日本の人権担当補佐官として、力強い活動を期待しています。


3回にわたり、中谷補佐官の話をお届けした。人権デュー・ディリジェンスのガイドラインが発表間近であり、法制化に向けて検討に入っていること、難民鎖国といわれた日本の避難民受け入れが大きく進んだことがわかった。今後は、アジアの民主主義の盟主としてASEAN諸国のハブとなれるかが問われるだろう。


人権外交最前線/国際人権問題担当総理大臣補佐官・中谷元議員に訊く

〈第1回〉2022年上半期の国際人権問題のトピックスとは? 

〈第2回〉「人権デュー・ディリジェンス」法制化と「ジェノサイド条約」批准は果たされるか? 

〈第3回〉ウクライナ、アフガニスタン、ミャンマー避難民受け入れの門戸広げる日本 ←今ここ


プロフィール

中谷元(なかたに・げん)

国際人権問題担当総理大臣補佐官。昭和32年10月14日(1957年)高知市に生まれる。土佐中・土佐高を経て、防衛大学校に進学。昭和55年、陸上自衛隊に入隊。レンジャー教官等歴任。昭和59年12月、二等陸尉で退官し、政治家を志す。平成2年2月、第39回総選挙において初当選。以来、連続当選を果たし、10期目