2022年1月28日、「人権外交」を推進する超党派議員である自民・齋藤健衆議院議員、立憲・桜井周衆議院議員、国民・玉木雄一郎衆議院議員、維新・音喜多駿参議院議員が集い、元国会議員でTheTokyo Post編集長の菅野志桜里がファシリテーターを務め、トークイベントを行った。2月1日の「対中批難決議」への言及もありスリリングな展開となった。
「人権外交を語る超党派議員トーク」第8回(最終回)
外交プレイヤーは、政府や外務省まかせでよいのか?諸外国のように議員単位で外交するべきでは?というテーマに対し、音喜多氏が都市外交や政党外交などを積極的に展開するという意見を述べた。最終回の今回、最終的な合意形成を各議員に確認する。
〈パネリスト・順不同〉
◆齋藤健氏:自由民主党 衆議院議員
◆桜井周氏:立憲民主党 衆議院議員
◆玉木雄一郎氏:国民民主党代表 衆議院議員
◆音喜多駿氏:日本維新の会 参議院議員
◆菅野志桜里:国際人道プラットフォーム代表理事/The Tokyo Post編集長
多元的な外交のすすめ
菅野志桜里(以下、菅野):
玉木さん、この外交のプレーヤーの問題ですね、どうでしょう。
玉木雄一郎氏(以下、玉木氏):
多元的な外交をやったらいいと思います。私も外交官を一時やっていましたけど、政府に任せてどうなるというときに、政府って日本の場合、非常に分かれているんですね。多分今回も経産省はイケイケだけど、外務省がブレーキ踏みまくりみたいなことも多分あると思うし、二元外交になったり違った姿が外から見えたりしたらいけないんだけれども、政府もなかなかまとまりにくい。であればもう議員同士でやるとか、あるいは民間と協力してやるのはすごく大事だと思います。
中国との関係でいうと、私がまだ二期生ぐらいのときから日中次世代交流委員会をつくって、若手の超党派で中国にはよく訪問しておりました。そのときの原則が、中国でやるときは誰々と、全人代の誰に会えるからとか、誰と話せるから行こうとか行かないという話が多いんですけど、もう行って誰に会うか会わないか関係なく行く。あとは北京以外の地方都市をしっかり見る。あと、日中関係がいいときも悪いときもとにかく会う。おかしかったら文句を言う。そういう原則でやってきたので。やはり議員同士の、あるいは向こうの主要幹部も含めて、外交部も含めて、しっかり直接の対話のパイプを持っておくことが特に困難なときほど重要だと思います。会った上で正面からああだこうだ言うことは大事で、鉄砲の玉の届かないところでお互い叫び合っているのが一番いかんなと思うので、そこはやっぱり外交の出番だと思う。政府がなかなか言えないところはわれわれ議員がむしろ行って、いろいろな形で意思表明をしたり、あるいは向こうの本音を探ってくることは非常に大事だなと思いますね。
菅野:
今世界を見ていると、台湾に議員団が行って、まさに政府ができない外交をやったりということが行われているようにも思うんですけれども、日本ではそういう動きってあまりないんですか。あまりないのかな。
玉木氏:
今日、私、台湾の公使と会いました。
菅野:
そうなんですね、なるほど。
桜井さん、外交のプレーヤーの問題、いかがでしょうか。
桜井周氏(以下、桜井氏):
私自身、国際協力の関係で海外で仕事をしたりしていましたので。外務省は自分たちで全部完結させたいから、ほかのやつはやるなといって抑え込みたいんだろうけれども、しかしそんなことをやっていたら、そこが倒れたら日本が全部倒れちゃうことになって、日本外交が倒れてしまうことになってしまうので、これはやっぱりリスクヘッジの観点からも、いろいろな種類のパイプを持っておくべきだと思います。ですから、もちろん外務省、政府もしっかりやってもらいたいんですが、それに加えて議員もやる、政党もやる、それから民間もやる、ビジネスでもある、文化的な交流もある。いろんなパイプがあってしかるべきだと思います。
私は、国際協力の分野で仕事もして、そういうところでお友達もいろいろできましたし、またそういうときの友達は、今議員になっているからといって何かかしこまった関係になるわけではなくて、昔のお友達としてどうなのよというお話もできるわけですし、また議員同士としての交流もさまざまさせていただいていますので、特にいわゆる日本でいうと民主党みたいな政党が世界各国ありますから、そういう国々とグループがあって、コロナによって逆にオンライン会議が増えましたから、もうオンライン会議が時々ぽんぽんと入ってきて、それでみんなわいわいやっていますので、そういうところに議論にも参加させてもらったりして、意見交換もさせてもらっています。
あと、例えばアメリカの場合、政党が世界の民主化を進めるためのお金※が共和党にも民主党にもあるんですよね。あとドイツも結構大きなお金がぼんとついて、政党が外交するお金と、お金があればスタッフも雇えるしということでやっていますし、さらにドイツは一歩進んで、世界各国の人たちを集めて研修会みたいなことまでやっていますから、そこまでできると本当に素晴らしいなと。
まさに先ほど私が冒頭、玉木さんもおっしゃいましたけれども、世界の民主主義はむしろ今転換点にある。後退しているかもしれないというところで、そういった形で世界の民主主義を支え、盛り返していくこともできるんじゃないかなと思っています。
菅野:
ありがとうございます。
齋藤さん、この点いかがでしょうか。
齋藤健氏(以下、齋藤氏):
二、三あるんですけど、中国という意味で考えますと、私は、どのような外交的働き掛けをしようと、習近平国家主席が中華民族の見果てぬ夢に向かってばく進している姿勢を変えることはできないと、残念ながらそう思っていると。でも、やるべきことをベストを尽くすということになるんだろうと思うんですね。その際、政府と政治の関係でいうと、やっぱり政府はいろいろ発言するにも限界があるんですよね。それを代わりに国会議員がばんばん言って、政府を後押しする。そういう役割分担みたいなものってこれからますます大事になってくるんじゃないかと思うんですね。
今回の決議もそうですけど、そういう意味では政治がすごく政府を助けてあげるような、政府が5しか言えないんだけど、政治が10言うと。そうすると政府のほうは、いや、議会が大変でというふうに、より強い立場で外交交渉できるようになるので、倍ぐらい言ってあげる。ところが、政府が5しかできないと。さっきのあれじゃないけど、ほら、ぬるくなったじゃないかと言われる。そうじゃなくて役割分担でやっているんだというところですよね。僕は通産省だったのでアメリカと交渉を実際にする交渉者だったんだけど、アメリカの交渉官って政府の人は、「いや、議会がね……」って必ずそれを理屈にしてプレッシャーをかけてくる。日本もそのくらいの役割分担で、政府と同じことを議員が言うんじゃなくて、倍ぐらいのことを、強いことを言ってあげることが一つ大事なこと。
それからもう一つは、さっき言ったように習近平さんがそれで考えを変えることは、身もふたもない言い方だけど、なかなか難しい。だけど、中国の民衆、民衆の人に訴えることはすごく重要じゃないかと思っているんですね。だから日本企業のビジネスパートナーもそうですし、それがもっと草の根レベルで、世界はこうだよという話を民衆ベースで進めていくことは効果があるんじゃないかなとに思うので、そういう意味で言うと民間外交とか、それからマスコミ同士の交流とか、そういうものは実はすごく重要かもしれないと思います。
菅野:
ありがとうございます。
玉木さん。
玉木氏:
1点補足すると、いかに外交的にも攻めていくのかという話、と同時にすごく今大事だなと思うのは、攻められないようにすることです。この前、事実関係を明らかにする必要があると思いますが、イギリスでイギリスの議員に対しての中国当局のさまざまな工作や働き掛けが、英情報局保安部(MI5)から発表されましたけど、そういう意味でわれわれは、まさに議員として、立法府として、何かを言う立場にあるわれわれがそういった海外の外国勢力の影響を受けないような、そういう防御も非常に大事だなと。これから実は、情報戦も始まりますから、そういう観点もこれからは自覚してやっていかないといけないなと思いますね。
菅野:
たしか、議員に対するさまざまな工作については、オーストラリアでも随分問題になりました。その問題が浮かび上がり、そしてそれをちゃんと解決せざるを得なくなったことで、オーストラリアの対中政策の方向性が少し変わってきたという状況もあると思いますので、ぜひみなさん、本当に大切なところも具体的に議論して、きちっと防御の方法を整えてほしいなと思います。
【人権外交を語る超党派議員トークまとめ】本日の合意形成は?
菅野:
それでは、あっという間にもうすぐ2時間がたちます。今日どこまで合意形成できたのかということを書いていただきたくて、みなさんのお手元に、紙がもしなかったらお渡しできるはずです。ぜひここに今日の2時間を経て共通の前提、ここまで進むことができたんじゃないか、そんなに難しく考えなくて大丈夫です。
音喜多駿氏(以下、音喜多氏):
「余計なことは言わない」とか(笑)
菅野:
そんなにきっちり考えなくていいんですけれども、せっかくなのでよく書いていただければと思います。何でそういうことをやってみたいなと思ったかというと、こうやって話し合ってそれぞれの違いが浮かび上がることも大事なんですけど、じゃあ、この対話を経て何が合意できたのかということを認識し合うのも大事なのかなと思いまして、ちょっと頭を悩ませてしまうかもしれませんが、お考えをいただいて書いていただければ。
その間に、チャットのコメントも紹介していきたいと思います。すごくいろいろとお話をいただいて、やはり人権DDについては、政府のお墨付きの具体化が必要になりますねというコメントですよね。「インセンティブ方式からスタートすることにしても、じゃその基準をどうするのかでしょうね。あるいはそういうお墨付きがあった企業には公共調達で優遇するとか、そういうことに備えても基準が必要ですよね」という話があります。
あとは人権については、国内外共に同時に進めていくべきだという話です。「同時に進めてほしい。まず国内、まず海外、そういうことじゃないんじゃないか」というお話をいただいています。
でも、入管法については、懸念の声もチャットでも出ていますよね。
あまりあとここは、もう決議については深追いをしませんが、「誰が妨害するの?」という、ちょっと素朴な大事な質問も来ておりました。決議が出てから教えていただきたいなと思います。
あとは「国際的影響力は経済力も大事ですので、経済力上げて下さい!」という意見も来ていますし、「玉木さん、後で怒られない、大丈夫?」という心配のお声もいただいています。
最後の外交についてですけど、「ドイツは各政党がアメリカに事務所を構えています。日本も各政党、特に野党もアメリカに事務所を持つとか、そういうインフラがあったほうがいいですよね」なんて、たしかドイツ、アメリカだけじゃなくて、それこそメルケルさんの政党なんかは、本当に日本も含めて世界各国100カ所を超えるんじゃないかな。事務所を構えているようなこともあったかと思いますけど、そういうことも本当にできたらいいのではないかなと思いました。みなさん視聴してくださって、こういった建設的なコメントを頂戴して、本当にありがとうございました。
菅野:
それでは、大体みなさんそろったのかと思いますので、ジャンとやっていただいて、玉木さんからお話しいただきましょうか。
玉木氏:
【自筆】玉木雄一郎氏「・国会決議・人権侵害制裁法・人権DD法・情報収集力向上」
国会決議、これをちゃんとやる。人権侵害制裁法、人権デューディリジェンス法、この二つの法案もやっぱりやったらいいと、私はある程度この4人ではコンセンサスができたのかなと。あとその前提として、最後に話題になった情報収集力を向上させていくのは、いずれにしても適切な対応をするためにもやっぱり不可欠だろうと。この3プラス1、これである程度の方向性は合意できたのかなと思っています。
菅野:
ありがとうございます。ちょっと齋藤さんが笑っていますけど、私もそう思いました。
それでは、音喜多さん。
音喜多氏:
【自筆】音喜多駿氏「言うべきは言う!」
私、全然くだけたもので申し訳ないです。ジャン。「言うべきは言う!」、これは玉木さんの言葉だったと思うんですけども、僕は、でもこれを裏返せば余計なことは言わないという意味かもしれないですけども、やり方はいろいろあったとしても、やっぱり国際社会に対して、あるいは覇権国家に対して言うべきはしっかり主張して、そのために必要なもの、情報収集能力であるとか法整備であるとかのテクニカルな部分については、しっかり前向きに協議をしていくと。ここはみんな合意できたんじゃないかなと思いました。今日はありがとうございました。
菅野:
ありがとうございます。
では、桜井さん、お願いします。ジャン。
桜井氏:
【自筆】桜井周氏「人権推進は攻めの気持ちで」
ジャン。「人権(推進)は攻めの気持ちで」。攻めるとか攻められるという種類のものではないんですが、やっぱり人権というと欧米に押し付けられてと、それについていかなきゃいけない、遅れないようにということで、後追いで後手後手に回りながら、そんな感覚がもしかしたら日本の社会の中にあったかもしれませんが、そうではなくて、やっぱり前向きに進めていかなきゃいけない。それがビジネスを進めていく上でもいいし、何より人々の幸せにつながることは、みなさんの共通の理解として今日は確認できたかなと思います。
菅野:
ありがとうございます。
それでは、齋藤さん、お願いします。ジャン。
齋藤氏:
【自筆】齋藤健氏「今や人権外交は国益のキモ」
「今や人権外交は国益のキモ」、ここが共通認識を持てれば、あとは小異は捨てることができるのではないかと強く思ったと、少なくともこの4人の間ではということで(笑)、一緒に頑張りましょう。
菅野:
ということで齋藤さんに締めていただきましたが、一定の合意はできたんじゃないでしょうか、どうでしょうか。聞いているみなさんの評価をまたお待ちしたいと思います。それでは本当に2時間、長い時間お付き合いをいただいてありがとうございました。またこんな形でいい意見交換をしたいと思いますが、来ていただけますでしょうか。
全員:
いいとも(笑)
菅野:
ぜひよろしくお願いします。これでお開きにしたいと思います。視聴者のみなさん、ありがとうございました。お四方、ありがとうございました。
全員: ありがとうございました。(拍手)
〈脚注〉
※全米民主主義基金(National Endowment for Democracy, NED)
***
外交は政府・外務省だけでなく様々なプレイヤーによる外交ルートを持つべきという認識は共通だ。人権侵害を行う国家にも、言うべきことは言い、しかし完全に決裂する事態を避けるためには、多元的な外交が必要だろう。また、そのために調査や情報収集の強化と人権侵害制裁法の法制化を促進するという合意形成が今回なされた。
本イベントの4日後、予告通り『新疆ウイグル等における深刻な人権状況に対する決議』が決議された。「対中国非難決議」が改悪され弱腰、との批判はあったが、日本として一応の態度表明をした形となった。ネクストステップとして、本日合意形成に至った施策が実施されるのか、引き続き注視していきたい。
関連記事:「対中決議」名指し回避で批判浴びる 「出さないよりまし」と菅野編集長
第1回「人権外交」を超党派議員で語る~米中対立の間で日本が果たすべき役割とは~
第2回「対中国」アジア民主主義盟主として日本は言うべきことを言え
第3回 日本における人権侵害制裁法の制定は進むのか 制裁ツールを持つリスクとは?
第4回 人権侵害をどう認定する?インテリジェンス強化か米国式「推定有罪法」か
第5回 人権DD法制化を急ぐ理由「人権配慮のない日本企業と日本は排除」が迫る
第6回「情報公開」が人権を守る分水嶺 企業にはインセンティブで人権DDを促進
第7回「新疆ウイグル等における深刻な人権状況に対する決議」直前、超党派議員の本音
第8回 人権外交のプレーヤーとは?国会・政党・議員・民間はどう連携できるのか ←今ここ
〈プロフィール〉
◆齋藤健(さいとう・けん)
自由民主党 衆議院議員。1959年生まれ。東京大学卒業後、通産省(現経済産業省)へ。埼玉県副知事を務め、2009年衆議院議員初当選。農林水産大臣。衆議院・厚生労働委員会筆頭理事、安全保障委員会委員。自民党においては、団体総局長、税制調査会幹事、選挙対策副委員長、総合農林政策調査会幹事長、スポーツ立国調査会幹事長を務める。人権外交を超党派で考える議員連盟を発足、共同代表。著書に『増補 転落の歴史に何を見るか』(ちくま文庫)
◆桜井周(さくらい・しゅう)
立憲民主党 衆議院議員。1970年生まれ。京都大学農学部卒。京都大学大学院農学研究科修士課程修了、米国ブラウン大学大学院環境学修士課程修了。国際協力銀行勤務を経て伊丹市議会議員を務める。2017年衆議院議員当選。党近畿ブロック常任幹事、党政務調査会副会長、党ジェンダー平等推進本部事務局長。財務金融委員会委員、憲法審査会委員。
◆玉木雄一郎(たまき・ゆういちろう)
国民民主党代表 衆議院議員。1969年生まれ。香川出身。元アスリート。ハンセン病問題の最終解決を進める国会議員懇談会 顧問、海事振興連盟 副会長、国際連合食糧農業機関(FAO)議員連盟 幹事長、陸上競技を応援する議員連盟 幹事長、自転車活用推進議員連盟 副会長、ジョギング・マラソン振興議員連盟 副会長、天皇陛下御在位奉祝国会議員連盟 顧問。
◆音喜多駿(おときた・しゅん)
日本維新の会 参議院議員。1983年年東京都北区生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業後、モエヘネシー・ルイヴィトングループで7年間のビジネス経験を経て、都議会議員に(二期)。ネットを中心に積極的な情報発信を行い、政治や都政に関するテレビ出演、著書多数。三児の父。2019年、参議院東京都選挙区で初当選。
◆菅野志桜里(かんの・しおり)
元国会議員。国際人道プラットフォーム代表理事/The Tokyo Post編集長。1974年宮城県仙台市生まれ。小6、中1に初代「アニー」を演じる。東京大学法学部卒。元検察官。2009年の総選挙に初当選し、3期10年衆議院議員を務める。待機児童問題や皇位継承問題、検察庁定年延長問題の解決などに取り組む。憲法審査会において憲法改正に向けた論点整理を示すなど積極的に発言(2018年「立憲的改憲」(ちくま新書)を出版)。2019年の香港抗議行動をきっかけに対中政策、人道(人権)外交に注力。初代共同会長として、対中政策に関する国会議員連盟(JPAC)、人権外交を超党派で考える議員連盟の創設に寄与。IPAC(Inter-Parliamentary Alliance on China)初代共同議長。2021年11月、一般社団法人国際人道プラットフォームを立ち上げ代表理事に就任