画像:shutterstock 吉野家
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マーケティング戦略は「生娘をシャブ漬け」 役員のトンデモ発言で問われる企業倫理

牛丼チェーン「吉野家」の現役常務が2022年4月16日に開かれた早稲田大学主催の社会人向け講座で、若者を対象としたマーケティング戦略について「生娘がシャブ漬けになるような企画」と発言していたことが分かり、本人のみならず吉野家や早稲田大学まで批判を浴びる事態となっている。

「田舎から出てきた若い娘を牛丼中毒に」と社会人講座で

発言したのは、吉野家の常務取締役企画本部長(当時・18日付で解任)の伊東正明氏で、騒動の発端は、講義を聞いていたという女性のFacebookでの発信だった。

それによると、伊東氏は、若い女性を狙ったマーケティング施策を「生娘をシャブ漬け戦略」と笑いながら何度も発言。「田舎から出てきた右も左も分からない若い女の子を無垢、生娘なうちに牛丼中毒にする。男に高い飯をおごってもらえるようになれば、絶対に食べない」と言った。女性は運営担当者に抗議し、講座の最後に大学側から謝罪があったという。

この発信に多くの人が反応し、内容は瞬く間に拡散。事態を受けて吉野家は4月18日に謝罪文を公表し、具体的な発言内容には言及しなかったものの、不適切な発言があったことを認めて謝罪した。

お詫び文では「役員が講座内で用いた言葉・表現の選択は極めて不適切であり、人権・ジェンダー問題の観点からも到底許容できるものではありません。当人も、発言内容および皆様にご迷惑とご不快な思いをさせたことに深く反省し、主催者側へは講座開催翌日に書面にて反省の意と謝罪をお伝えし、改めて対面にて謝罪予定です」としている。さらに、翌19日には、伊東氏を18日の臨時取締役会で解任したことを発表した。

また、吉野家では19日に「10年かけて開発に取り組んだ」という親子丼の新商品を発表する予定だったが、伊東氏の発言を受けて中止された、と各メディアは報じている。

一方、講座を主催した早稲田大社会人教育事業室も18日に謝罪文を発表。講義の終了後、責任者が受講者全員に謝罪したとしたうえで、「コンプライアンス遵守に鑑み登壇する講師への事前の注意喚起を改めて徹底し、再発防止に努めていく」とした。また、早稲田大学も同日、「吉野家常務の発言は、教育機関として到底容認できるものではありません。大学として受講生の皆様に心よりお詫びするとともに、当該講師に厳重に注意勧告します」などとするコメントを発表。伊東氏を講座から外すことを明らかにした。

女性蔑視、顧客軽視、自社商品への愛着の欠如

問題となった講座は、社会人を対象とした「デジタル時代のマーケティング総合講座」で、企業の一線で活躍するマーケターや大学研究者が講師として登壇。4月から7月まで80時間の講義が行われる予定で、費用は38万5000円だった。

今回の発言については、女性蔑視というだけでなく、顧客を「薬物中毒にする」という発想、自社商品を薬物にたとえる愛着の欠如が批判の対象となり、擁護する声はほとんど聞こえない。

Twitterでも「吉野家常務の女性蔑視発言、そうした発言を常日頃からしてるような人間の方が日本では高い地位に登りつめるんだという絶望感がすごい」などと日本企業に残る女性差別の意識を指摘する声が多い。また、「自分の会社の食べ物に誇りを持っていたなら、こんなこと絶対言えない。命の源の食べ物をシャブに例えるだなんて。吉野家の牛丼は所詮たいしたものじゃないと見下しているんだな。ほんとひどい」と食事を提供する企業としての姿勢を問う意見も多かった。 「すごいな。これほど会社の信用を一瞬にして木っ端微塵に壊す役員って、なかなかいない」というツイートも見られたが、解任された伊東氏本人はもちろん、企業の信用やイメージを大きく損なった吉野家にとっても、失言の代償はかなり大きなものになりそうだ。