世界の注目が集まるロシアーウクライナ国境だが、「演習を終えた」とするロシア部隊の一部が撤収を始めたとの報が流れるなど、2月半ばになってわずかに緊張緩和の動きが見えてきた。その背景には何があるのか?
ロシア世論はウクライナ侵攻に反対
米カーネギー・モスクワセンター・ディレクターのディミトリ・トレニンは昨年末の『フォーリン・アフェアーズ』誌で「プーチンがウクライナで真に望むことは何か?ーーロシアの狙いはNATO(北大西洋条約機構)拡大の阻止であり、領土拡大ではない」と題して、こう書いていた。「ロシアの要求は“NATOの東方拡大の停止、旧ソ連域内での軍事インフラ増強の凍結、ウクライナへの軍事支援終結、ヨーロッパへの中距離ミサイル配備禁止”であって、ウクライナを占領したいわけではない」と。
2月11日の『ワシントンポスト』紙は、ロシア国内の世論調査をもとに、もしもウクライナに侵攻すれば、プーチンは世論を敵に回すリスクが高いと書いた。
「12月にモスクワで3245人を対象に調査したところ、ウクライナにロシア軍を派兵すべきと考える人は8%に過ぎず、ウクライナへの武力介入を支持する人は2016年に比較して半減した。2014年にロシアが占領したクリミアを多くのロシア人が“自国の一部”と考えて侵攻を支持していたのと違い、ロシア世論はウクライナ東部のドンバス地域やウクライナ全土をロシアの支配下においてソ連を再生しようという考えには反対している。そして、39%が西側を“同盟国として”、11%が“友人として”扱うべきだと考えており、西側との敵対は望んでいない。一方で、NATOのこれ以上の拡大を許さないという姿勢への国内支持は高い。4人のうち3人は、NATOはロシアの弱体化を企んでいると考えている」
シンクタンク『アメリカン・エンタープライズ』の研究者レオン・アロンは、2月14日、ギリシャメディア『Kathimerini』の取材に対し、「強いロシアを掲げて国民をまとめるためにプーチンは危機を必要とする」と答えた。「しかし、多大な犠牲を払った挙句に敗北したアフガニスタン戦争を記憶するロシアの人々は、“第二のアフガニスタン”になりかねないウクライナとの全面戦争には賛同しないだろう」と語っている。
当面現実味の薄いウクライナのNATO加盟
ところで、ロシアが阻止しようとするウクライナのNATO加盟だが、そもそも現実味は薄いというのが実態のようだ。
IRI(国際共和国研究所)が昨年11月に2400人のウクライナ人を対象にした世論調査によると、ロシアとの関税同盟への参加を希望した人は21%だったのに対し、58%がEU加盟を希望。そして、54%がウクライナのNATO加盟を支持している。
だが問題は、ウクライナが望もうと、NATO側にその意思がないことだ。冒頭の『フォーリン・アフェアーズ』への寄稿で、トレニンはこう書いている。「2021年12月はじめ、米国務省高官がウクライナに対し、NATO加盟はこの先10年はないと伝えた」
となると、ロシアによる武力侵攻という大きなリスクを冒してまで、NATO加盟を希望し続けることはウクライナにとってメリットがない。現に、イギリスBBCは、駐英ウクライナ大使が「ウクライナはNATO加盟を諦めるかも知れない」と語ったと報じた。ただし、ドイツのショルツ首相とキエフで共同会見したウクライナのゼレンスキー大統領はこれを否定。NATO加盟を引き続き目指すと表明している。この問題についてのウクライナ側の姿勢が今後の鍵を握ることになる。