夏の電力需給のひっ迫が予想される中、日本政府は2022年6月7日、家庭や企業に7月から9月にかけての節電を要請するとともに、電力会社には休止中の火力発電所の再稼働や燃料の追加調達を求めた。これに対し、原発の再稼働を求める声や、国のエネルギー政策の誤りを指摘する声が相次いでいる。
今夏の電力供給余力はぎりぎり
政府は7日午前、官邸で関係閣僚らによる「電力需給に関する検討会合」を開催した。検討会合を開くのは17年以来5年ぶりで、全国規模の節電要請は7年ぶりとなる。
松野博一官房長官は7日の記者会見で、休止火力発電の再稼働や非化石電源の最大限の活用など供給面であらゆる対策を講じていくとしながら、電力の供給力を短期的に拡大することは難しいと説明。夏に向けて一律の数値目標は設けないものの、全国でできる限りの節電、省エネに取り組むことなどを決めたと述べた。冬はさらに厳しい需給状況を見込んでおり、夏以上の対策の準備を進めていくという。
22年3月に起きた福島県沖の地震によって一部の火力発電所が損傷したため、中部・東京・東北電力管内では電力の供給力が低下している。安定供給には最低でも3%の供給余力が必要だとされるが、検討会合の資料によると、7月の供給余力を示す予備率は3.1%と、ぎりぎりの水準が見込まれている。さらに冬は深刻で、23年1月の東京の予備率はマイナス0.6%、中部、関西などでいずれも1.3%となる見通しだという。
「起こるべきして起きた」との指摘も
萩生田光一経済産業相は7日の記者会見で、「室内温度を28度にし、不要な照明は消すなど、できるかぎりの節電、省エネに協力してほしい」などと国民に呼びかけたが、Twitterなどでは反発の声が広がっている。
「家計の苦しい庶民は、政府に言われなくても節電している」「冷房を使わないなど無理に節電した結果、熱中症になる危険もある」などと、これ以上の節電は難しい、真夏に室内温度28度は耐えられないといった声が多く、なかには「早く原発を再稼働してほしい」「再生可能エネルギーに力をいれてきた政策が誤りだった」との指摘もある。
国際環境経済研究所の竹内純子主席研究員は、7日付日本経済新聞オンライン版の記事に「夏の需給ひっ迫のタイミングは、暑い日の昼間ではなく、(太陽光発電の発電量が下がる)夕方の時間帯が最も厳しくなる」と指摘。「電力の供給力不足は、自由化した市場で再生可能エネルギーを大量に導入すると、調整役に回る火力が休廃止し供給力が足りなくなることを甘く見た制度設計と、原子力政策を10年にわたり停滞させてきた政治の複合要因によって、起こるべくして起きた」と政府のエネルギー政策を批判した。
2022年3月時点では再稼働反対派が優勢だったが…
原発再稼働は、日本国民にとってナイーブな問題だ。2011年の東日本大震災の直後に世論は大きく「反原発」に振れ、原発再稼働への拒絶反応も強かった。与党政府は国民の意見を反映する形で「クリーンな」再生可能エネルギーを促進してきたともいえる。
朝日新聞社が2013年から原発再稼働に賛成か反対かという調査を続けている。調査結果をまとめたwithnewsによると、再稼働に反対と答えた人が最も多かったのは2018年の61%だった(再稼働賛成は27%)。全体の傾向としては再稼働働反対派は減り、賛成派が増えており、2022年3月の調査では再稼働反対が47%、賛成は38%と差は縮んだ。また世代別にみると、若い世代19歳~29歳と30代では、再稼働賛成派が反対派を上回っていることがわかったという。
3月以降はロシアのウクライナ侵攻の影響で電力がひっ迫、さらに燃料価格の上昇で家計への圧迫が見えてきた。さらに再稼働反対派の声が小さくなり、少数へと転じた可能性がある。