ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受け、北欧のフィンランドとスウェーデンは2022年5月15、16日と相次いで北大西洋条約機構(NATO)への加盟申請を正式に表明した。これには、フィンランドと国境を接するロシアが反発。NATO加盟国のトルコも両国の加盟に難色を示している。
長年の安全保障の方針を転換
フィンランドでは15日、ニーニスト大統領とマリン首相が首都ヘルシンキで記者会見に臨み、NATO加盟を申請することを表明した。会見でマリン首相は「ロシアがウクライナを攻撃したことで、すべてが変わった」とし、「これはフィンランドで戦争を起こさないための行動だ。私たちと子供たちのために過去に起こったような戦争があってはならない」と加盟の意義を説明した。
スウェーデンでも、アンデション首相が16日に記者会見し、NATOへの加盟申請を正式に表明した。アンデション首相は「NATOに加盟すれば、スウェーデンの安全保障が強化されるだけでなく、バルト海周辺やNATO全体の安全保障にスウェーデンが寄与できる」などと説明した。
フィンランドは第二次世界大戦後の東西冷戦時代、NATOにもロシア主導のワルシャワ条約機構のどちらにも属せず、中立を保ってきた。スウェーデンも19世紀以降、長く軍事的中立を維持。両国は独自の軍事力で国を守る方針を貫いてきた。
ロシア、フィンランドへの電力供給をストップするも態度軟化か
フィンランドやスウェーデンがNATO加盟への動きを加速させることについて、ロシアは再三警告を発してきた。
BBC日本語オンライン版(15日付)によると、ロシアのプーチン大統領はフィンランドのニーニスト大統領と14日に電話会談した際、「フィンランドへの安全保障上の脅威はない。伝統的な軍事的中立政策を終えるのは過ちだ」などと指摘。「フィンランドの政治的指向の変化は、善隣友好と協力の精神に基づき長年にわたって発展させてきたロシアとフィンランドの関係に悪影響を及ぼす可能性がある」と警告した。
一方、ニーニスト大統領は、ウクライナ侵攻などの最近のロシアの動きが「フィンランドの安全保障環境を変化させた」と伝えた。
14日には、ロシアからフィンランドに行われていた電力供給が停止した。政府系電力会社は「電力料金が支払われていないため」と説明しているが、ロシアによる報復措置と受け止められている。
しかし、17日ロイター通信は、ロシアのプーチン大統領は、ロシア主導の軍事同盟「集団安全保障条約機構(CSTO)」首脳会議において、「何の問題もない」とし、NATO拡大は直接的な脅威とはならないとの見解を述べたと報じ、ロシアの態度に変容がみられるとしている。
対露制裁やクルド労働者党PKK問題で距離を置くトルコが加盟に反対
一方、NATO加盟には加盟国全会一致での承認が必要となるが、トルコのエルドアン大統領はフィンランドとスウェーデンの加盟を支持しないことを表明している。
トルコは独立を求める少数民族クルド人の非合法武装組織「クルド労働者党(PKK)」との紛争を抱えており、以前からフィンランドやスウェーデンら北欧諸国がPKKを支援していると非難。支援の停止を求めている。
BBCによると、スウェーデンとフィンランドの両国にはクルド人コミュニティーがあり、スウェーデンにはクルド系の国会議員もいる。しかし、BBCは「トルコ政府は両国内のこうしたコミュニティーがPKKとかかわりがあるという証拠を示していない」と指摘している。
これ以外にも、トルコは欧米主導の対ロシア制裁に同調せず、ロシアとウクライナの調停に乗り出すなど、他のNATO加盟国とは異なる立場を取っている。このため、スウェーデン、フィンランドのNATO加盟にはトルコの説得が欠かせない状況となっている。