画像:shutterstock 沖縄ハイビスカス
画像:shutterstock 沖縄のハイビスカス

沖縄本土復帰50年の式典で辺野古移設には触れられず 国と沖縄県の溝

沖縄の本土復帰から50年を迎えた2022年5月15日、「沖縄復帰50周年記念式典」が、沖縄と東京を中継でつないで開催された。岸田文雄首相と玉城デニー県知事が式辞を述べたが、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の返還や名護市辺野古移転には触れられず、沖縄県の地元紙などは批判的に報じた。

基地負担軽減には言及したものの

式典は宜野湾市の沖縄コンベンションセンターと東京会場のグランドプリンスホテル新高輪を中継でつないで開かれ、天皇皇后両陛下もオンラインで出席された。岸田首相は式辞の中で基地問題に触れ、「沖縄の基地負担軽減の目に見える成果を着実に積み上げていく」と表明。一方の玉城知事は「県民は過重な基地負担を強いられ続けている」としたうえで、「すべての県民が真に幸福を実感できる平和で豊かな沖縄の実現に向けて取り組んでほしい」と政府に求めた。しかし、岸田首相も玉城知事も直接、普天間飛行場の移転問題には言及しなかった。

式典終了後、記者団の取材に応じた岸田首相は、日米同盟の抑止力の維持と普天間飛行場の危険除去には、辺野古移設は唯一の解決策だとの考えを改めて示した。また、地元の琉球新報オンライン版(16日付)によると、玉城知事は式典終了後に取材に応じ、「首相に手渡した建議書には、辺野古、普天間が含まれている。式辞の中で『建議書の趣旨の理解と実現』という形で込めた」などと説明し、式辞については「未来志向にしたいという思いが非常に強かった」と述べた。

沖縄地元紙は失望感をあらわに

式辞で普天間飛行場について触れられなかったことについて、琉球新報と沖縄タイムスの2紙は批判的に報じ、失望感をあらわにした。

沖縄タイムスオンライン版(16日付)では、沖縄ハンセン病回復者の会共同代表の平良仁雄さんの「知事は言うべきことを言ってほしかった。県民に対して本音で話してほしい。それができない場所だったんだろう」との話を載せた。

また、琉球新報は、辺野古移転の断念などを訴えて会場近くでハンガーストライキを行った男性を取り上げ、「(首相の式辞には)辺野古のへの字もなかった。玉城知事を始め、多くの県民の要求を聞き入れることはなかった」との言葉を紹介した。

しかし、沖縄の世論が「辺野古移設反対」で一致しているかといえば、そうとは言い切れない。読売新聞オンライン版(13日付)によると、22年度の国の沖縄振興予算が大きく減額され、市町村からは玉城知事に対し責任を問う声が上がっている。石垣市の中山義隆市長は、政府が推進する普天間飛行場の名護市辺野古移設に玉城氏が反対している点に触れ、「政府と県に協力態勢がないからだ」と話したという。

また、産経新聞オンライン版(16日付)によると、玉城知事が式辞に思いをこめたという「建議書」の内容についても政府は否定的だ。建議書は5月10日に、玉城知事から岸田首相に手渡されたが、その中で玉城知事は、敵基地攻撃能力の保有についても触れ、「県民の平和を希求する思いとは全く相いれるものではありません」と記していた。

国の安全保障政策まで意を唱える内容に、政府内では建議書の受け取りの拒否も検討されたという。

国と沖縄県との間では、安全保障に対する考えに大きな隔たりがあり、普天間飛行場移転問題で協力し合う姿勢は見られない。式典で辺野古移設に触れられなかったのは、両者の溝の大きさの表れとも言えそうだ。