防衛大学校卒業式2022年(c)首相官邸
防衛大学校卒業式2022年(c)首相官邸

防衛大学校卒業式訓示で岸田首相が意欲「戦略3文書」改訂とは

岸田文雄首相は2022年3月27日、防衛大学校の卒業式に出席し、自衛隊の最高指揮官として卒業生約480人に訓示した。岸田首相は「国際社会が、長きにわたる懸命な努力と多くの犠牲の上に築き上げてきた国際秩序の根幹が、脅かされている」などとし、ウクライナ情勢をはじめとする厳しい国際環境に言及した。

防衛力強化に「あらゆる選択肢排除せず検討」と

訓示の中で岸田首相は、ロシアによるウクライナ侵攻について「事態の展開次第では、世界も、わが国も、戦後最大の危機を迎えることになる」と憂慮したうえで、「国際社会が一致して、力による一方的な現状変更に毅然と対抗していかなければならない。今回のような力による一方的な現状変更を、インド太平洋、とりわけ東アジアにおいて、決して許してはならない」と訴えた。

さらに東アジアの情勢についても「北朝鮮は、高い頻度で弾道ミサイル発射を繰り返し、最近では新型ICBMまで発射している。中国は、東シナ海、南シナ海で一方的な現状変更の試みを止めることなく、むしろ深刻化させている」と指摘した。

こうした認識を踏まえて、岸田首相は、年内の改定を目指す国家安全保障戦略などの「戦略3文書」の検討を加速していく考えを改めて示し、「領土、領海、領空、国民の生命と財産を断固として守り抜くために、あらゆる選択肢を排除せずに検討し、防衛力を抜本的に強化していく」と述べた。

戦略3文書とは

岸田首相が訓示の中で触れた「戦略3文書」とは、日本の外交・安全保障政策の根幹となる「国家安全保障戦略」「防衛計画の大綱」「中期防衛力整備計画」の3つの文書を指す。

岸田首相は2021年10月の就任後、敵基地攻撃能力の保有を念頭に、「あらゆる選択肢を廃除せず」と国家安全保障戦略など安保関連3文書を改定する考えを示した。

また、ウクライナ侵攻後の3月13日には、自民党大会の総裁演説でウクライナ侵攻を「ロシアの暴挙」と呼び、戦略3文書の改定や日米同盟強化などで防衛力を強化する考えを改めて示した。

こうした岸田首相の姿勢を受け、政府が検討を進めるなか、与党の自民党や公明党でも党内での議論が行われている。自民党は5月末までに提言をまとめる方針。

今後、ウクライナ情勢がこうした議論に影響を及ぼす可能性があるが、議論の先鋭化を懸念する声もある。北海道新聞は3月9日付Web版に「防衛3文書、改定議論先鋭化 対ロ戦略、敵基地攻撃能力…専守防衛 揺るがす懸念」と題する記事を掲載し、「政府や自民党内では、対ロシア戦略や友好国扱いの見直しに加え、敵基地攻撃能力の保有や新技術の導入など『自衛力』増強論が拡大。戦後日本が堅持してきた専守防衛の原則を揺るがす懸念がある」と慎重な議論を求めた。

写真出典:首相官邸ホームページhttps://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202203/27boueidai.html