ロシアのウクライナ侵攻はどのような結末を迎えるであろうか。今、問われるのはアフター・ウクライナ、すなわち「ウクライナ後の世界」である。
「アフター・ウクライナ」の行方
ユーラシア・グループ*は、今後3カ月でロシアがウクライナを制圧できず紛争が「泥沼化するシナリオ」の確率を55%、「収束に向かう」確率は30%と分析する。このシナリオのいずれかになるかはここ数日で方向性が見えてくるであろう。
3月15日時点で、ロシア軍はウクライナ首都キエフへのミサイル攻撃を行い、市街戦を開始し早期制圧を目指しているが、西側陣営からの武器等の支援を受けたウクライナ軍の予想外の抵抗にあい、苦戦を強いられ「泥沼化」の様相が強まっている。
ロシアのウクライナ侵攻はウクライナ人を奮い立たせた。国際世論はウクライナ側にあり、武器支援や義勇軍への参加者が続々とウクライナ入りをしている。仮にロシアがウクライナを支配したとしても反ロゲリラ勢力は残るであろう。ロシアはそのため、多数の兵力をウクライナに展開し続けねばならないことになり、ただでさえ厳しいロシア経済は逼迫し、兵隊の犠牲者も増加するであろう。事実、第2次世界大戦後に旧ソ連がウクライナ西部に残った独立派を完全に制圧するのに3年もかかっている。
この状況に対して苦戦するプーチン大統領は、早期解決を目指している。ウクライナ紛争が長引けば長引くほど、経済・金融制裁がロシア国民を苦しめプーチンの支持率は低下する。しかも2024年には大統領選挙を迎える。ロシア国内では通貨ルーブルの価値が暴落し、米欧の制裁による経済的混乱が生じている。プーチン大統領にとって、ウクライナ侵攻は「時間との闘い」となっている。
そのため、徹底抗戦の構えをみせるウクライナ政府に対して、戦況を一新しようとクラスター爆弾を使用したのに加え、化学兵器の使用、さらには戦術核を使用、チェルノブイリやザポリージャの原発などへのさらなる攻撃の可能性も高まっている。ウクライナでは、ロシア侵攻の時点で15基の原発が稼働している。
ウクライナ国内で化学兵器や戦術核が使用されれば国際法上の違反どころか人道上到底許容されることではない。もし、プーチン大統領がそのような行為に出て、ゼレンスキー大統領が拘束され傀儡政権が樹立されたとしても、国際社会はそれを認めることは決してないであろう。しかも、国際的支援を受けたウクライナ国内の反ロシア勢力からの抵抗は長く続くであろう。
※編注:政治リスクを専門とするコンサルティング会社
紛争解決は中国が「カギ」
ロシアにとりウクライナ制圧が長引けば戦費がかさみ、武器弾薬の補給すらままならない状況になる。ただでさえアメリカを中心とする民主主義陣営からの制裁を被っているロシア経済が持たない。ルーブルは紙切れとなり、西側企業はロシアから撤退し、プーチン大統領やオリガルヒの海外資産は凍結され、ロシア国民の生活は逼迫している。このため、戦争に反対するロシア国民の検挙がうなぎ上りに増えている。
現在、窮地に立たされているプーチン大統領の「頼みの綱」が中国である。逆に言えば、中国の出方次第で世界の情勢は一変する。もし、中国がロシアを援助しロシアとともに民主主義同盟に挑戦してきた場合、世界は冷戦時代に後戻りしよう。
中国は、ロシアのウクライナ侵攻前の2月4日、北京オリンピックの開会式に参加したプーチン大統領と共同声明を出し、ロシアの立場(①ウクライナ危機におけるNATOのさらなる拡大に反対、②NATOの東方不拡大の法的保証)を支持した。さらに、ロシアからの天然ガス輸入を確約し、ロシア産小麦の輸入拡大も決め、ロシアを経済面から支援することを約束した。このように、中国はロシアとともに米国の弱体化という共通目標の下で「共闘態勢」を構築してきた。かつての冷戦時代の中国・ソ連陣営とは異なり、ロシアは欧州の重要なガス供給国となり、中国はアメリカを凌ぐばかりの大国へと変貌を遂げた。今回ばかりは、民主主義陣営は分が悪い。もし中露が同盟関係にまでなれば、「今日のウクライナは明日の台湾」となりかねない。
一方、中国はウクライナ侵攻に対して軍事的報復にでなかったアメリカの様子や、ロシアのウクライナ侵攻に対する経済・金融制裁でのロシアの経済的損失や軍事的損失を静かに観察している。
ウクライナ戦争が泥沼化し、一段と厳しさを増す欧米の経済・金融等の制裁でロシア経済が今後急速に悪化したり、国内でのプーチン大統領の立場が危うくなったりする場合も十分に考えられる。習近平国家主席は、プーチン大統領のウクライナ侵攻により、ロシアに巻き込まれる形で世界を敵に回しかねないリスクを抱え込んだのである。
秋に行われる5年に一度の共産党大会で国家主席の3期目の続投を目指す習近平は経済の安定を最優先する。ここでロシアと協同歩調をとれば、欧米諸国の経済制裁はさらに厳しく課せられることとなろう。中国が「ロシア寄り」と見られることで国際社会での習近平のイメージを悪化させ、ひいては国内的立場が弱くなると感じた場合、ロシア切り捨ても考えられる。
そのような状況で、中国の動向が状況を左右するとみたアメリカは3月14日にサリバン大統領補佐官が中国の楊潔政治局員14日会談をもち、ロシアから中国への軍事物資支援の要請への懸念を示すなど中国への懐柔政策を始めた。もし、中国がロシア支援を決めた場合、欧米を中心として発動されたロシアへのSWIFTが同じように中国に対して発動される可能性もある。中国は思案のしどころである。
この機を逃さず、岸田政権は中国に対してウクライナ戦争への解決に向けての仲介の働きかけを積極的に行うべきである。