タイのカフェ「Cabbages & Condoms(キャベツとコンドーム)」 中央は「コンドームツリー」 画像:shutterstock
タイのカフェ「Cabbages & Condoms(キャベツとコンドーム)」 中央は「コンドームツリー」 画像:shutterstock

タイで「キャプテン・コンドーム」と呼ばれたメチャイ氏はいま

インドの『タイムズ・オブ・インディア』紙が、タイのバンコクにある奇妙なレストランを紹介している。その名は「Cabbages & Condoms(キャベツとコンドーム)」。テーブルのカラフルな飾りや、店内のマネキンの衣装がすべてコンドームで作られたテーマレストランだ。実に奇妙なインテリアだが、その目的は「安全なセックスと家族計画」を広めるという大真面目なもの。

「キャプテン・コンドーム」の足跡

レストランを作ったのは、大臣や上院議員を歴任したメチャイ・ビラバイダヤ。アメリカの『タイム』誌が「アジアのヒーローたち」の1人として取り上げたこともある「タイの家族計画の父」だ。店の名前の由来は「コンドームはキャベツのように、どこでも簡単に手に入るものでなければならない」というメチャイの考えから。「キャプテン・コンドーム」の異名を持つメチャイの足跡を『ニューヨークタイムズ』紙が追っている。

1941年、イギリスの医大で知り合ったスコットランド出身の母とタイ人の父の間にバンコクで生まれたメチャイは、オーストラリアで教育を受け、メルボルン大学商学部を卒業。ハーバード大学でMBAも取得した。1966年に帰国してからは、国家経済社会開発理事会でエコノミストとして働く傍ら、新聞にコラムを書いたり、ラジオに出演したり、大学で英語を教えたりもした。テレビドラマに俳優として出演したこともあるという。妻は前国王のいとこであり、その私設秘書も務めた。

70年代コンドームを普及させ人口抑制に成功

早くからタイの社会問題を解決したいと考えていたメチャイだが、政府にできることは限られていると考え、1974年に自ら「人口コミュニティ開発協会」を立ち上げ、地方の開発や環境保護活動などを手掛けるようになった。

タイの貧困と貧富の差を解決するには、まず人口抑制が必要だと考えたメチャイは、明るく楽しい家族計画キャンペーンを展開。タイ全土の学校教師やコミュニティリーダーを巻き込んで、「コンドーム膨らまし競争」や「水を入れて破裂させる競争」で話題を呼び、家族計画と安全なセックスの話をすることが恥ずかしいことではないという社会の空気を醸成した。タクシーやスーパーで無料コンドームを配布するというキャンペーンも行った。

これらが功を奏し、タイの人口増加率は1974年の3%から2005年には0.6%に落ち着き、世帯あたりの子供の数の平均は5人から2人以下に下がった。世界銀行はメチャイのキャンペーンを「世界で最も効果的に成功した家族計画プログラムだ」と評した。

80年代には軍を巻き込んだAIDS抑制キャンペーンを実施

メチャイのキャンペーンは1980年代にAIDSが広がった時にも功を奏した。持ち前のショーマンシップを発揮して、人々の注目を集め、説得力のある話術で、コンドームの使用を呼びかけた。タイにとって貴重な収入源であるセックスツーリズムの妨げになると渋る経済界の声を受けた政府の消極的な姿勢をよそに、メチャイはタイ軍を巻き込んでキャンペーンを繰り広げた。軍が影響を持つ300のラジオ局と5つのテレビ局を宣伝の拠点にしたのだ。

この甲斐あって、1990年代、タイはAIDSの新規感染が減り始めた世界で最初の国となった。「セックス産業と麻薬が蔓延するタイで、AIDSは爆発的に拡がるだろう」と誰もが考える中で、メチャイの果敢なキャンペーンが国を救ったと、『タイム』誌の記事の中でアメリカ疾病予防管理センター(CDC)の元ディレクターが振り返っている。

81歳のメチャイがいま取り組んでいるのはジェンダー問題!

「ニューヨークタイムズ」の記事に戻ると、81歳のメチャイは今、タイ北東部の町で「メチャイ・バンブースクール」という生涯学習センターの運営に力を注いでいる。無国籍児や障害のある子を必ず含む180人の生徒を寄宿させ、農業指導や妊婦の栄養指導を含む大人の生涯学習と並行して、「正直で、人と分かち合うことができ、真のジェンダー平等を受け入れ実践することのできる良き市民」を育てることが目的だという。

その発想と実行力に衰えは見られないようだ。