ミャンマーで数年前から「安全のため」として都市に導入されていた監視システムを、昨年2月のクーデター以降、反体制派取り締まりのため、ミャンマーの軍事政権が急拡大させている。中国ではどんな監視システムが発達しているのだろうか。
ミャンマー軍政が監視システムを拡大
ロイターによると、軍政はマンダレーやバガンといった都市に加えて、少数民族の抵抗が続くカチン州の州都ミッチーナでも監視システムの拡大を急いでいる。
導入されているのは、Fisca、Naung Yae Technologies、Zhejiang Dahua Technology、Huawei Technology、Hikvision といった中国企業のカメラと関連システム。ただし、内部事情をよく知る人によると、顔認識ソフトに関しては中国製のものが高額であるため、軍政が自前で調達しているという。
町中に張り巡らされた監視カメラと顔認識ソフトが結びつけば、監視対象の動向や友人関係、拠点や車やバイクの動きなどが把握できる。民主化運動を抑えたい軍事政権にとっては大きな武器となり、民主化を求める人々にとっては大きな脅威となるため、人権団体ヒューマンライツウォッチも昨年から懸念を示してきた。「クーデターに反対する人々にとっては、非常に大きなリスクとなる」と語るのは、アジアリサーチャーのマニー・マウンだ。
昨年2月13日、軍事政権は2017年に施行された市民のプライバシーと安全保護法の第5条、7条、8条を停止しており、ミャンマー国内ではプライバシーが保護されない状態となっている。このため、恣意的な家宅捜索が許される状態となっており、言論や集会の自由は奪われたままとなっている。そんな状況下で監視カメラと顔認識ソフトによる誤認逮捕や拘束が増える恐れもあるとヒューマンライツウォッチは指摘する。
中国は顔認識システム先進国
監視カメラと顔認識ソフトが蔓延することの恐ろしさは、それだけに留まらないと指摘するのは、先行する中国で取材を続けてきた南ドイツ新聞の中国特派員カイ・ストリットマターだ。中国監視社会の恐ろしさを描いた『We Have Been Harmonized: Life in China’s Surveillance State(我々は同調した:中国監視社会の暮らし)』を著した彼は語る。
2018年、人民日報は英語版のツイッターで「中国の顔認識システムは、中国14億の人民の顔を1秒でスキャンできる」と自慢した。だが、この数字が本当かどうかでさえ問題ではないと彼は言う。つまり、「監視されている」と人々が意識することによって、それぞれの心の中に「警官」が生まれるから、と。当局に知られて困るような言動はしないよう、自主規制で自分を取り締まるようになるのだ。
深圳では、監視カメラと顔認識の情報がリアルタイムで街角テレビに映し出されるシステムがある。例えば信号無視をすると、道路を渡り切らないうちに、顔と名前、ID番号が映し出されて晒し者にされる場所があるという。
中国の生活に結び付いたチャットやポイントで行動を監視
中国で広く使われる「WeChat」というアプリは、メッセージのやり取りから、車やデリバリーの手配、決済にも使われ、IDにもなるものだ。このアプリで離婚届けを地元の役所に出すこともでき、「中国の人にとって、すべてを可能にする便利なアプリ」になっている。そして、そのやりとりはすべて政府にモニターされている。香港の民主化運動に絡む詩の朗読会に行こうとした知人が、WeChatにそのことを書くと、会場に行く途中で捕まったこともあったという。
こうした監視が心の中に踏み込んでいるのが、栄成市などで導入された「社会信用システム」というポイント制だ。市民は最初に等しく1000ポイントを与えられる。献血したり、骨髄を提供するといった「良いこと」をするとポイントが付与され、海賊ソフトをダウンロードするなど「悪いこと」をすれば点数が引かれる。「良いこと」には、革命の歌を合唱する人たちに地下室を貸したことに対して5ポイントを得た女性の例などもある。
社会信用ポイントは「ブラックリスト」にも結びついており、点数が減ると、飛行機のチケットが買えなくなったり、高級ホテルに泊まれない、子供を良い学校に入れられないといったデメリットがある。2018年の時点で、この制度により1,700万人が飛行機の搭乗を許されなかった。
ストリットマターは、こうした監視システムが完全に行き渡れば、人々は行動のみならず心まで支配されてしまうと危険を指摘する。