2022年4月スリランカ・ラジャパクサ大統領の辞任を求めるデモ 画像:shutterstock
2022年4月スリランカ・ラジャパクサ大統領の辞任を求めるデモ 画像:shutterstock

抗議デモ荒れるスリランカでテント図書館が灯す希望の明かり

経済危機下のスリランカ。3か月近く、政府への抗議デモが激化し、非常事態宣言と外出禁止令が相次ぐ。そんな中、人々の希望となっている小さな図書館がある。

長期化する経済危機、荒れるスリランカにできた図書館

1948年にイギリスから独立して以降、最悪の経済危機に瀕するスリランカでは、3ヵ月近く、政府への抗議デモが続き、警察がデモ隊に催涙ガスを使うなど混乱は深刻化。5月はじめに大統領の弟のラジャパクサ首相が辞任に追い込まれたが、事態の沈静化の兆しはない。

そんななか、最大都市コロンボにある「村」と呼ばれる広場にできた小さな図書館が、人々の希望の場となっている。広場の名前はGotagogama。シンハラ語で「ゴタ・ゴー村」を意味する。物価高騰で食糧や衣料品、燃料などの必需品が買えない状況に陥ったスリランカの人々は、春、ラジャパクサ大統領の名前ゴタバヤから、「Gota go home(ゴタ家に帰れ)」をスローガンに抗議デモをはじめた。

スリランカの『サンデー・タイムズ』紙によると、大統領府近くのこの広場「ゴタゴガマ」には、医療、キッチン、ギャラリー、法律相談、ITセンターなど様々なテントが建てられ、図書館が作られたのは4月のことだった。

最初は3メートル四方の小さなテントから始まった。本棚が2つか3つ。人々が座って本を読めるように、たたんで重ねた段ボールやマットが木材の上に置かれただけのスペースだった。ところが、図書館の存在が知られるようになると、人々は本を持参したり、遠くから本の寄付が届くようになり、あっというまにテントの大きさは4倍になり、いまも成長を続けているという。

本の整理や管理はボランティアの手で行われており、人々は自由に本を借りることができる。課題は雨対策で、雨が降ると、そこにいる人みんなで本にカバーをかけたり、テントに溜まった水を流したりして、大切な本が濡れないようにする。

図書館が出来てから2ヵ月の間に、5,000冊以上の本が様々な人の手にわたったのではないかと、あるボランティアは語る。寄付された本には、デモの参加者を励ますメッセージが書かれていることもある。本のジャンルは小説や評伝など多岐にわたり、タミル語、シンハラ語、英語の3つの言葉で書かれた図書館のスタンプが押される。

寄贈された本の一部は、地方の寺の図書館や、1981年の民族対立の時に放火され97,000冊の蔵書を失ったジャフナ公共図書館にも寄贈されている。

同紙は、テント図書館は、読み終えた人が置いていった新聞を他の人が読みに立ち寄ったり、少女たちがボードゲームで遊んだり、地域の交流の場としても機能していると伝える。2019年から2020年のインド・シャヒーンバウでの座り込み運動、2013年トルコのゲジ公園での反政府運動、香港の雨傘運動、カイロ・タハリール広場での抗議活動でも、こうした「みんなの図書館」が大きな役割を果たした、と書いている。

「人々の革命において書物は最大の武器である」

同じ図書館について報じたサウジアラビアの『アラブニュース』は、テントの中に掲げられた「人々の革命において書物は最大の武器である」という看板の写真を載せている。

図書館を立ち上げたボランティアの1人、アシャン・ビムクティは、動機をこう語る。「主要メディアも政治家も人々の心に立ち入ってコントロールしようとしていると感じた。だから、ぼくらは、人々をこうした影響から解き放ちたいと思った。人々が自分の頭で考えることができるようになれば、それこそがぼくらの勝利だと思う」。

ビムクティは集まった本はすでに3万冊を超えたと言い、本の寄付の他にも様々な支援が寄せられていると語る。雨で本が濡れて困っているとSNSに書き込むと、自腹で木材を買ってやってきて、本棚を作って行った人もいたという。

本を借りるために登録はいらない。借りた本を返さなくても良いが、その場合は別の本を持ってくることが奨励されている。別のボランティアは言う。「ここには厳しいルールなんてない。ただ、ここの本が『平和的な革命』の象徴になればいい」。