日本国旗 画像:shutterstock
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日本の「難民鎖国」がついに終焉

入管庁が5月に発表した2021年度の難民認定者についての統計は、日本の難民認定制度に顕著な変化が起きていることを示している。(滝澤三郎/東洋英和女学院大学名誉教授/UNHCR元駐日代表)

難民認定申請者の動向

難民申請者数は2,413人とほぼ10年ぶりに2,000人台に戻った。2010年に始まった難民申請者に対する一律の就労許可の付与は難民申請者の急増を招き、2017年には2万人近くまでなった。2018年から入管庁が抑制策を導入したこと、2020年からはコロナ禍で外国人の入国が厳しく制限されたことが申請数減少の背景にある。

難民申請者の出身国はミャンマー、トルコ、カンボジア、スリランカ、パキスタン、バングラデシュなどアジア諸国が多いのは例年通りだ。ただし、近隣諸国では例年2万人以上の難民申請者が出る中国からは28人で、前年の47人から減った。中国人難民申請者は毎年1万人ぐらいがアメリカで申請し、その半分は難民と認定される。同じく毎年1万人以上が逃げるロシアから日本に保護を求める者はほとんどいないが、昨年は北海道まで泳いできた男性が1名申請した。国交がなく、反日意識の高い北朝鮮からゼロなのは意外ではないが、ジェット機で4~5時間の距離にあって経済交流もあり、2020年の国家安全法の適用など民主化勢力への政治的弾圧の続く香港からの申請者がほとんどいないのは、「難民鎖国」イメージも影響しているのだろう。

難民認定と人道配慮の動向

難民認定数(条約難民)は74人と2008年の57人を超えて過去最高となった。いちばん多かったのがミャンマーの32人だが、これは2月の国軍クーデターを考えれば納得がいく。中国も18人と一昨年の11人から増えた、ウイグル族関係が多くを占めているようだ。

「人道配慮による在留許可」は一昨年の19人から580人と急増し、そのうち内戦や戦争など「本国情勢」などを理由に在留を許可された者が525人(うちミャンマーが498人)いる。昨年はこのカテゴリーには16人しかいなかった。この形での在留許可は、いわゆる「補完的保護」に当たる。「補完的保護」は現行の入管法にはない仕組みだが、入管庁はその仕組みの導入を目指す法改正を待たずに「前倒し適用」をしていると考えられる。

在留ミャンマーについては、昨年2月の軍事クーデター後、「緊急避難措置」として希望者には在留資格「特定活動」が与えられた。昨年末のミャンマー人難民申請者2,889人のうち、6割の1,730人がこの在留資格を持っている。難民認定作業が進むにつれ、これら申請者から条約難民として認定される者が出てくるだろう。

混乱の続くアフガンからの申請者は12人だけだったが、9人が難民認定されている。タリバンの政権掌握後、大使館やJICAで勤務していた600人ほどのアフガン人が日本に退避を認められ外務省やJICAに雇用されているが、彼らが難民認定申請を行うならアフガニスタンの現状に鑑み、その多くが条約難民と認定されるだろう。

難民鎖国の終焉に向けて

2月のロシアによるウクライナ侵略を受けて、日本政府はウクライナ避難民の積極的受入れに踏み切った。6月15日時点ですでに1,299人と当初の想定より多い。国費で毎週最大20人のペースで来日しているから、ウクライナの戦況によるが、今後も避難民数は増え続けるだろう。彼女たちは短期滞在ビザで入国し、在留資格を修了可能な「特定活動」に切り替える。この場合も「戦争・紛争など本国情勢を考慮した在留許可」であり、実質的に「補完的保護」に当たる。夫や父親をウクライナに残して来日している避難民の大半は難民認定申請をしないと思われるが、申請があった場合には大半が補完的保護対象者になるだろう。中には条約難民として認められる者も出るかもしれない。

今年になってミャンマー難民申請者の審査も進んでいるし、アフガン退避者の難民申請も増えよう。難民審査においてはまだ未公表だが、弾力的な解釈を認める「難民認定ガイドライン」の「先取り適用」がなされているようだし、出身国情報制度の改善も進んでいる。入管庁の弾力的な難民認定方針が続くなら、今年の難民認定と補完的保護の総数は2,000人を超すのではないか。これは40年前のインドシナ難民受入れを超えるペースだ。長年批判されてきた日本の「難民鎖国」はいよいよ終焉し始めたと言える。

この動きは、難民排除の進む欧米諸国とは反対の流れだ。UNHCRの報告によれば世界の難民や国内避難民の総数は1億人を超えた。その中で、欧米諸国ではウクライナ避難民を例外として、移民難民の排斥の動きを強めている。ウクライナ避難民を380万人受け入れたポーランドは、ベラルーシとの国境では中東からの難民・避難民を追い返し、400キロ近い国境にフェンスを作っている。英国は、英仏海峡を渡って不法入国した難民申請者(2021年には2万5,000人を超える)をアフリカのルワンダに送り込もうとしている。地中海のボートピープルは毎年4~5,000人がリビアに送り返されている。昨年270万人がメキシコ経由で押し寄せたアメリカでも、約130万人は入国を拒否され、難民申請すらできない。

その中で日本の積極的な難民受け入れ姿勢は注目を引く。もちろん、数十人の難民受け入れが続いた日本と、数十万人を受け入れてきた欧米諸国とは出発点が違う。ただ、「遠くの日本が私たちを受け入れてくれて、とてもうれしい」というウクライナ避難民の声は、大方の国際的評価に通ずるものがあるだろう。岸田内閣はリベラルな国際秩序と人権を守るという姿勢を旗幟鮮明にしているが、その姿勢が続き、また入管庁の前向きな難民認定政策が続くなら受け入れ数も増え、「難民鎖国」の汚名は次第に解消してゆくだろう。

今後は、難民認定及び補完的保護のための仕組みを法律と運用の両面において整備し、受け入れられた数千人の難民・避難民の住宅や就労足趾など定住支援、共生対策が課題になろう。今回のウクライナ避難民への「支援ブーム」を、世界各地からの難民や避難民に対する日本の官民共同の保護体制にグレードアップすることが求められる。