画像:shutterstock 裁判所
画像:shutterstock 裁判所

性的行為に抵抗しなかったと無罪判決 支援団体が「性犯罪被害者の心理を理解して」と抗議

女性に性的暴行を加え、けがをさせたとして起訴された東京都の男性が、富山地裁の裁判員裁判で無罪となった2022年5月の判決をめぐり、「被害女性の心情や行動を理解していない」などの批判の声が上がっている。全国の有志が「『性暴力のない社会』をめざす会」を発足させ、6月5日には性暴力の根絶を求めて富山市内でデモや署名活動を行った。

判決は「助けを求めず、逃げなかったのは不自然」と指摘

地元の北日本放送のオンラインニュースによると、事件は2020年11月に発生した。被害者の女性は、当時大学生だった男性らとの飲み会に参加し、その後、男性が宿泊していたホテルに4人で移動。部屋で話をしているうちに寝てしまい、男性に性的暴行を加えられ陰部にけがを負ったとされる。一緒だった他の2人は、女性が寝ている間に部屋を出て行ってしまったという。男性は「強制性交等致傷罪」に問われた。

被告側は「陰部に指を入れて性的行為をしたが、性交はしていない。性的行為には女性との同意があった」として無罪を主張した。

裁判員裁判では、どちらの証言が信用できるかが争点となったが、5月13日に富山地裁は被告の男性に無罪を言い渡した。判決では、女性が大声で助けを求めなかったことや逃げなかったことは不自然であり、女性の記憶の正確性にも疑問があるなど指摘。「被害者の供述は間違いなく信用できるものとは言えず、被害事実を認定するには合理的な疑いが残る」とした。

被告の男性は「罪に問われるようなことはしていない。性犯罪は許せないし、性被害者の支援は大切だが、被害者側の声に耳を傾けすぎるとこうなる」と述べたという。

「被害者は抵抗する」は時代錯誤

被害者の証言を完全に信用はできないとした判決について、被害者代理人や支援者たちからは「性被害者の心理や行動が全く理解されていない」との批判の声が上がっている。

判決を受け、性犯罪の被害者を支援していこうと、富山県内の女性支援団体などが全国から有志を募って「『性暴力のない社会』をめざす会」を発足させた。

地元のチューリップテレビのWebサイト(5月30日付)によると、同会は27日に記者会見を開き、「社会的な流れに逆行する時代錯誤の判決だと考えている」「『被害者は抵抗するものだ』というような誤解が、まだまかり通っていることは大変遺憾だ」など判決を批判。

メンバーの一人の女性は「被害者は、被害を受けたとき混乱の中にある。意識が飛ぶ人もいる。しっかり記憶があるということ自体、本来ない状況だと思う。そのあたりの(被害女性の)心理が全く理解されていない」と訴えた。

一方、富山地方検察庁は5月27日、「性的行為について同意がなかったとは認定できないという点をはじめ、明らかな事実誤認に基づく不当な判決」だとして、名古屋高等裁判所金沢支部に控訴した。

同会でも控訴審を支援していく予定で、6月5日には富山駅周辺で性暴力の撲滅を訴える「フラワーデモ」や署名活動を行った。署名は名古屋高裁金沢支部に提出するという。会ででは「海外では暴行や脅迫がなくても性犯罪が成立する国が多くあり、日本から性犯罪がなくなるまで地道に活動を続けたい」としている。