顔認識AI(イメージ) 画像:shutterstock
顔認識AI(イメージ) 画像:shutterstock

法規制なき顔検索エンジンがストーキングの道具に?

膨大なネットデータの中から顔を探し出すことのできる顔検索エンジンが極めて優秀なために、深刻なプライバシー侵害の恐れが指摘され始めている。テクノロジーと人権がせめぎ合う現在を米メディアが報じている。

顔検索エンジン『PimEyes』はまるで脅迫ビジネス?

ニューヨークタイムズの5月26日の記事によると、きわめて優秀な顔検索エンジン『PimEyes』は月29ドル99セントを支払えば誰でも使うことができ、写真をアップロードして、いくつかのチェック項目をクリアすれば、ものの数秒で写真と同じ人物をネットの中から探し出してくるそうだ。

同紙の記者たちの同意を得て、複数の検索をかけてみたところ、本人さえ見知らぬ過去の写真や、2019年にギリシャの空港で他人の背景に映り込んだぼやけた写真、2011年に音楽フェスで撮影されたものなど、驚くほど正確に本人たちの過去の写真が提示されたという。サングラスをしていてもマスクをしていても、写真は検索された。

掘り起こされてくるのは罪のない写真だけではない。ある女性は学費を稼ぐために2005年、ポルノのオーディションに出かけた。あまりに屈辱的な体験だったためその仕事にはつかず、そのことを忘れようと努力してきたが、検索をかけるとオーディションの時の写真が出てきたという。PimEyesには「写真を削除する」サービスがあるが、そのためには月89ドル99セントから299ドル99セント(検索範囲や取り下げ要求の範囲によって値段が違う)の追加料金を求められる。「これではまるで脅迫だ」と彼女は憤る。

PimEyesは、顔検索をできるのは「本人だけ」としているが、実際には簡単に他人の顔検索をかけられることから、ストーキング行為の道具にもなる。

開発会社は顔認識技術のソフト化を主張

同記事によると、検索エンジンを開発したのはポーランドの学生2人。会社の登記はいったん大西洋の島国セイシェルに移されたが、ポーランドの大学で教鞭をとっていた時に彼らの知遇を得た34歳のグルジア人学者が買い取って現在は登記をドバイに移しているという。

PimEyesのホームページを見ると、「人は誰しも、インターネットで自分自身を見つけ、プライバシーと肖像を守る権利があると確信している」ので、「普通の人が自分の顔をネット上で見つけて、肖像権を主張し、オンライン上の自分のプレゼンスを監視することのできる多目的ツールであるPimEyesを開発した」とある。

つまり、事件の捜査などのために政府や大企業が使う顔認識ソフトと違って、これは「顔認識技術の民主化」なのだと主張する。

だが、どんなにPimEyes が自らの意義を美化しようとしても、悪用される恐れが払拭されるわけではない。

「顔認識サイトは万人を警察かストーカーにできる」と題する記事で、ワシントンポストも警告を発している。

顔検索サービスに法規制は必要か

先行していた顔検索アプリClearview AI は、カナダ、オーストラリアとヨーロッパの一部の政府が、同社が200億の顔イメージを保管しているのは違法であるとして、市民の顔写真データの削除を命じた。Clearviewがデータベース型だったのに対し、PimEyesはデータを溜め込むことなく、ネットを検索する、いわばGoogle型検索エンジンのため、今のところ同じような法規制はかけられていない。

批判の声が高まる中で、PimEyesに何らかの規制がかけられるかどうかは定かでないが、仮にPimEyesがサービスを変更することがあっても、同様のサービスは間違いなくこの先も出てくる。ネットに顔写真を安易にあげないよう注意することはできても、街中の防犯カメラの映像など自分ではコントロールできない映像もある。10年後、20年後、予想もしない自分の姿が掘り起こされる未来を望む人はいるだろうか。