綾瀬駅での啓発キャンペーンの様子(令和3年12月撮影)/ 足立区
綾瀬駅での啓発キャンペーンの様子(令和3年12月撮影)/ 足立区

拉致問題啓発条例を制定した足立区 拉致被害者・蓮池薫さんの講演会動画を配信

東京都内で初となる「拉致問題等啓発推進条例」を制定した足立区は2022年6月3日、条例制定を記念として行われた拉致被害者の蓮池薫氏による講演会の模様を区公式動画チャンネルで配信した。13日まで公開される。

拉致事件とも関わりがある西新井で

条例は、拉致問題をはじめ北朝鮮当局による人権侵害問題について多くの区民に認識してもらうため、積極的な啓発に取り組むことが目的。2021年7月、議員提案で制定された。区は条例に基づき、区役所でのパネル展示や街頭キャンペーンなどを行っている。

足立区では1970年代、足立区西新井を拠点とした北朝鮮工作員が、実在する日本人になりすましてスパイ活動を展開していたとされる西新井事件が起きている。この工作員は、蓮池薫さん夫妻拉致事件の実行犯としても国際手配されている。

講演会は22年5月26日、条例制定を記念して西新井文化ホールで開催。約400人の区民らが参加した。

蓮池さんは1978年7月、新潟県柏崎市の海岸で交際中だった妻の祐木子さんと一緒にいたところ、北朝鮮工作員に拉致され、その後、北朝鮮で祐木子さんと結婚して暮らすことになった。しかし、2002年に日本と北朝鮮の間で行われた国交正常化交渉の中で、北朝鮮は拉致を認め、蓮池さんらは10月に帰国した。

家族との再会が「事件の解決」

蓮池さんは「北朝鮮に拉致されて、私は命以外のすべてを失った」と題した約1時間の講演で、北朝鮮が拉致を行った理由や背景のほか、24年間の北朝鮮での生活、日本に帰国した際の舞台裏などについて、実体験を踏まえて語った。

講演の冒頭、蓮池さんは北朝鮮で過ごした24年間について「自由がなかった。尋常ではない形で夢を奪われた」と振り返り、「北朝鮮は拉致には成功したが、拉致の目的はなんら果たせなかったし、拉致の事実も隠し通せなかった」として、北朝鮮の拉致は失敗だったと断言した。

帰国の半年前ごろから、党幹部から「これから日本の関係を改善する。日本代表団が来たら、会って『幸せに暮らしている』と言うように」と指示があったことを明かし、拉致されたのではなく、海で遭難したところを北朝鮮工作員に救出されたという話にする予定だったなどと裏舞台を紹介。帰国後、日本に残る決断をしたときは「北朝鮮に家族を残しており、本当に怖かった」と当時を振り返った。

また、「拉致被害者が家族と再会できて初めて拉致問題が解決する」と強調。政府には、拉致被害者の帰国を待っている家族に「北朝鮮とどのような交渉をしているのか示してほしい」と訴えた。