中国の新疆ウイグル自治区地区で、中国当局が少数民族のウイグル族が弾圧している証拠だとされる写真や文書が2022年5月24日、米国のNPO団体によって公開された。団体によると、公式データベースからハッキングされたものだという。これに対し、中国は公的文書の流出を認めておらず「嘘とうわさ」としている。
匿名の第三者がハッキングで入手
25日付の時事通信など各メディアの報道によると、資料は、匿名の第三者が同地区内の公式データベースをハッキングして入手。米国のNPO「共産主義犠牲者記念財団(VOC)」のドイツ人研究者アドリアン・ゼンツ氏に提供されたという。VOCは英BBCや仏紙ルモンドなど複数のメディアの協力で資料を検証したうえで公表した。
資料には党幹部の発言記録があり、同自治区の陳全国・共産党委員会書記(当時)は2017年の演説で、「海外からの帰国者は片っ端から捕らえろ」「拘束者が数歩でも逃げれば射殺せよ」などと指示。趙克志公安相は18年の演説で、習国家主席が収容所の増設を指示したことに言及していた。
警察から流出したという収容者の写真や収容理由などが書かれたリストもあり、中には、違法な演説を聞いたとして拘束された17歳や、別の収容者の親族だという理由で拘束されたとみられる16歳も含まれている。
また、収容所内部を撮影したとみられる写真もあり、頭を袋状の物で覆われ手錠をかけられた収容者が警棒を持った警察官によって拘束され、迷彩服を着て銃を構えた他の警察官に囲まれる様子が写されている。
国連人権高等弁務官の新疆視察前に
資料は、バチェレ国連人権高等弁務官の中国訪問中に公開された。バチェレ氏は新疆ウイグル自治区視察などを目的に23日から6日間の日程で中国を訪れていた。
しかし、ロイターなどの報道によると、米国務省のプライス報道官は24日の定例会見で「中国が新疆の人権状況を検証するのに必要な自由なアクセスを認めるとは思わない」と述べたうえで「こうした状況で訪中に同意したのは間違いだった」と、バチェレ氏の訪中を非難していた。
一方、中国の国営通信、新華社通信は25日、習近平国家主席がバチェレ氏とビデオ会議方式で会談したと報じた。それによると、会談では新疆ウイグル自治区への言及はなく、習主席は「中国の人権の発展は中国独自の状況に適合したものになる。人権にはさまざまな種類があるが、途上国では生存権と発展権が主たる人権だ」と述べたという。
また、時事通信によると、中国外務省の汪文斌報道官は、公開された資料について「新疆を中傷する反中国勢力による寄せ集めの資料」などとし、報道機関が「嘘とうわさを広めている」と非難した。
英国「完全かつ制限のない」視察、独「透明な調査」を要請
こうした中国の主張に対し、英国のトラス外相は、流出した資料の内容は「衝撃的」だと非難。新疆を訪問中のバチェレ氏が現地の状況を的確に把握できるよう「完全かつ制限のない」視察の許可を中国側に要請した。
産経新聞オンライン版(24日付)によると、ドイツのベーアボック外相も、中国の王毅外相とのオンライン会談で「透明な調査」を要求した。