ロシアの軍事侵略によるウクライナからの避難民について、全国の自治体では受け入れ表明が相次ぎ、支援の準備が進んでいる。一方、政府が「避難民」として扱っていることに対し、いったん「難民」として受け入れる必要があるのではないか、という意見もある。
震災経験踏まえ準備を進める自治体も
岸田文雄首相は2022年3月2日、国内に親族や知人がいる避難民から受け入れる方針を表明。これを受け、東京都や大阪府などでは受け入れの準備を進めていることを明らかにしている。
東京都の小池百合子知事は11日、国からの要請に備えて、避難民受け入れのため都営住宅を100戸確保したことを発表。最大700戸まで増やし、衣類なども提供するという。大阪府も避難民の生活を支えるため、ロシア語やウクライナ語が話せる「ボランティア通訳」の募集を行っている。
時事通信(3月12日付)によると、鹿児島県には既にウクライナから3人が避難している。避難の理由や年代、性別などは本人の意向で非公表だが、うち少なくとも1人はウクライナ人。県には事前に関係者から相談があり、住まいの相談や生活支援などに対応しているという。
東日本大震災で被災した経験のある岩手県宮古市も市内に避難民を受け入れる準備を進めている。宿泊施設の無償提供や住居の確保、食料品や生活物資の無償提供などを行う予定。市のホームページには「東日本大震災に際しては、国内はもとより世界各地の多くの方から、物心両面にわたる支援をいただき、復興の歩みを進めてきました。多くのウクライナ国民が、恐怖、不安、苦しみの中で日々を過ごしていることを思うと、心を痛めずにはいられません。国際社会の一員として、宮古市においても人道支援でできることを考え、実行していくことが大切です」と市民に協力を呼び掛けている。
「難民として認定すべき人もいる」との指摘も
今回、日本政府はウクライナ国民を「難民」ではなく「避難民」として扱っており、首相官邸の英文ホームページでも、「refugees(難民)」ではなく「evacuees(避難民)」と記されている。
国際条約で定義されている難民(条約難民)は基本的に自分たちの住んでいた国による迫害を受けている場合を想定している。今回はロシアによる侵略が原因となるため、政府は難民と避難民を厳格に区別しているとみられる。しかし、ウクライナからの出国者全員を「避難民」と扱うわけにはいかないのではないか、との指摘もある。
Webサイト「弁護士ドットコムニュース」の3月11日付記事では、難民問題に詳しい髙橋済弁護士の話を交えて、政府の対応の課題を指摘した。
高橋弁護士によると、今回のウクライナのケースでも、親ロシア派が実効支配していた東部地域から避難してきた住民は、条約難民に当てはまる可能性が高いという。また、ウクライナでは現在、国防のため18~60歳の男性の出国が認められておらず、戦争に参加したくないとして逃れてくる人々についても「国際基準では条約難民に当たりうる」そうだ。
こうしたことから、髙橋弁護士は「ウクライナから逃れてくる人々全員を条約難民とするのは難しいが、全員が避難民だというのも違う」と指摘。「まず、条約難民に当たる人を難民として保護し、そのうえで条約難民に当たらない人については避難民として保護するという手順を踏むのが、本当のあるべき姿なのではないか」と必要な人には難民認定すべきだと提言している。