画像:shutterstock 小学生の授業
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教師たちを悩ませる「学校で戦争をどう語るか」という課題

スマホに次々と衝撃的な映像が飛び込んでくる「ウクライナ危機」は、初めての「TikTok戦争」とも言われ、大人の目の届かないところで子どもたちが悲惨な映像や偽の情報に触れて恐怖や不安を感じる事態を招いている。とりわけ、ロシア・ウクライナと地続きのヨーロッパ各国では、「子どもに戦争をどう語るのか」について教師たちの戸惑いが広がっている。

「もし先生がウクライナ人だったら、残って国のために戦う?」

3月末のニューヨークタイムズ紙は、欧州各国の教師たちの声を集めている。

イギリスのある小学校では、「ロシアは大きな国なのに、プーチンはどうしてもっと土地が欲しいの?」「もし先生がウクライナ人だったら、残って国のために戦う?」といった問いを投げられた36歳の女性教師が、「難しい質問だけれど、本能的にみんなを守りたいと思うでしょうね。だから、きっと国のために戦うと思う」と答えた。

フランス・マルセイユのある学校では10歳の男の子が「身を隠したい」と言い、ポーランドのワルシャワでは18歳の少年が「徴兵されるかもしれない」と怯え、イタリアのミラノでは、16歳の少女が未来に不安を感じ、フランスのパリでは偽映像を見て「エッフェル塔が攻撃されたのか」と思ったりしている。

今の子どもたちにとって、1990年代のバルカン紛争やシリア紛争でさえ遠い昔の出来事に感じられる中で、ロシアによるウクライナ侵攻は、「自分にも影響が及ぶかもしれない」と感じる初めての戦争だ。

こうした中、教師たちは児童や生徒の疑問に答える形で、地理や歴史を教え、今起きていることを正しく把握できるよう心を砕いている。ただ、「事実を伝えること」と「安心を与えること」のバランスは微妙なもので、小さな児童を相手にするときは「安心感」に重きを置くと語る教師もいる。シチリア島のある教師は、ロシア軍が子どももいる病院を攻撃したことについて3年生が聞いてきたときは、あまりに過酷な現実を伝えることが良いとは思えず、「間違って攻撃された」という説明をした。そして「イタリアにもロシア人はいるの?」「戦争はここにもやってくるの?」という問いに、「イタリアにロシア人はいるけれど、彼らは悪い人ではないし、戦争をしに来ているのではない」と説明したという。

子どもに語る時に気をつけること

国連児童基金(UNICEF)は、ニュースに紛争や戦争が溢れると、子どもたちは恐怖、悲しみ、怒りや不安を感じることがあるとして、子どもたちが少しでも安心できるように会話の際に大人が気をつけることをリストアップしている。

1  子どもが何を知っているかを確認して、それに対してどう感じているかを聞く。

2  年齢に応じた言葉を選び、穏やかに語る。

3「悪者」などのレッテルを貼らずに、共感を持てるように語る。

4  勇気を持って人を助ける行動をしている人に注目する。

5  子どもの声の調子や呼吸、ボディランゲージにも注意し、「いつでもそばにいる」ことを伝えながら会話をまとめる。

6  継続して子どもの様子を見る。

7  時にニュースを切るなどして情報を加減する。

8  大人が自分の心身を健康に保つ。


https://www.unicef.org/parenting/how-talk-your-children-about-conflict-and-war

学校図書館ジャーナルや大学の資料集

児童や生徒の理解を助けるための資料集を提供しているのは、「School Library Journal(学校図書館ジャーナル)」。

https://www.slj.com/story/books-to-help-students-process-the-russian-invasion-of-ukraine

米ブラウン大学も、状況を理解するための手助けとなる地図や図表、政治風刺などを集めた資料集を公開している。

戦争が長引くなか、洪水のように溢れる悲惨なニュース映像やSNS情報に子どもたちが疲弊したり、恐怖に怯えたりすることのないように、教育現場だけでなく、家庭でも心を砕く必要が出てきている。

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