複数の女優への性暴力を報じられた俳優で映画監督の榊英雄氏について、女優の睡蓮みどりさんが2022年3月26日、榊監督からの性暴力被害を告発する文章を発表した。「業界が今回のようなことを『よくあること』で済ませてしまうのならば、一度壊れてしまえばいい」の一文には、映画関係者からの共感の声が寄せられている。
「#MeToo」に「声をあげていいんだ」と励まされる
榊監督は、週刊文春に「複数の女優に対し映画へのキャスティングを口実に性行為を強要した」などと報道され、一部の事実を認めて謝罪。公開間近だった監督作品が上映禁止となった。
睡蓮さんが文章を発表したのは、図書新聞で連載中の映画評論「シネマの吐息」欄。「映画界における性暴力被害の当事者のひとりとして」と題し、榊監督から受けた性暴力を告発している。
睡蓮さんは「本来ならここは、おすすめ作品を中心に映画にまつわることを書く大切な場所だ」としたうえで、榊監督の作品に出演したときに受けた性暴力を告白した。
その後、榊監督のことが匿名で映画界の裏話風に報道されたことがあり、当時を「こんな風になってしまうなら、このことを誰かに話すのは嫌だと思った。とても悔しく、恥ずかしかった」「色々な気持ちが藻のように絡まって身体の中に留まっていた。とにかく自分を責めるばかりだった」などと振り返った。しかし、「#MeToo」運動と出会ったときに、「声をあげていいんだ」と知り、うれしくなったという。
最後に「業界が今回のようなことを『よくあること』で済ませてしまうのならば、一度壊れてしまえばいいとも思う。自身の居場所がなくなったとしても、それでもやはりいい方向へと変えていきたい」と映画界への思いを語った。
睡蓮さんは7年前のことだが思い出すと消耗し、「ネットなどでも度々、氏の写真を目にすることがあり本当に辛かった。名前だけでも同様」だとし、文中でも榊監督をSと置き換えている。性被害は思い出すとフラッシュバックが起こりやすく、被害者にとっては過去の傷ではなく現在進行形で与え続けられる苦痛となる。
「恥ずかしさと憤りが止まない」と映画監督らも
睡蓮さんは、図書新聞の発売に合わせ、改めてTwitterで思いを発信した。これに対し、多くの人から共感と励ましの声が寄せられている。
映画監督の金子雅和さんはTwitterで「こんな他者への敬意や配慮のない卑劣な犯罪者がまかり通ってきた業界ならば、勇気をもって文中に書いて下さったように、『一度壊れてしまえばいいとも思う』。『よくあること』で済ませられるはずがない。その業界の片隅にいる者として、恥ずかしさと憤りが止まない」と発信。
映画解説者の中井圭さんも「性被害を訴えた人がこの世界で生きづらくなるなら、自覚的あるいは無自覚でも加害性を業界全体が共有していることになる。そんなことはあってはならない。このタイミングで徹底的に議論をし同様のことが二度と起こらないように、この嵐がやむのを待てば加害者の勝ち、にならないよう、基準を変えたい」とTwitterで訴えた。
榊監督の性加害報道については、3月18日に是枝裕和ら映画監督有志6人が声明を発表した。
声明では「映画監督は個々の能力や性格に関わらず、他者を演出するという性質上、そこには潜在的な暴力性を孕み、強い権力を背景にした加害を容易に可能にする立場にあることを強く自覚しなくてはなりません」と指摘。
さらに撮影現場や映画館の運営における加害行為は「以前から繰り返されてきた」としたうえで、「私たちには、自らが見過ごしてきた悪しき慣習を断ち切り、全ての俳優、スタッフが安全に映画に関わることのできる場を作る責任があります」として、今後、改善に取り組む考えを表明した。
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