ロシア軍のウクライナ侵略が続く中、世界的に知られるロシアのボリショイバレエ団の人気イタリア人ダンサーが2022年3月7日、SNSを通じて退団することを表明した。外国人ダンサーのほとんどは既に帰国したといい、戦火の影響は芸術の分野にも広がっている。(写真はイメージ)
「暴力には常に反対」とインスタグラムに
退団を表明したのは、最高位のダンサー「プリンシパル」を務めるイタリア人のジャコポ・ティッシさん。8日付の時事通信の報道によると、7日に自身のインスタグラムに「正当化できる戦争はない。どんな暴力にも常に反対していく」とつづり、退団することを明らかにした。
同バレエ団のソリストでブラジル人のダビジ・モタ・ソアレスさんも、インスタグラムに「何も起きていないかのように振る舞うことはできない」と投稿。退団する意思を表明したうえで、ウクライナにいる友人らに向けて、「私の心は、彼らと共にある」とウクライナを支持する考えを示した。
ボリショイバレエ団の拠点であるボリショイ劇場では、6日に音楽監督兼首席指揮者のトゥガン・ソヒエフ氏が辞任を発表している。6日のロイター通信によると、ロシア人のソヒエ氏はフランスのトゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団の音楽監督も務めていたが、フランスで侵攻に対する見解を明らかにするよう迫られ、両楽団の職を辞することを決めたという。
ロシアに残る選択をした日本国籍のダンサーも
ウクライナ侵略を機にロシアを離れる外国人が増える中、ボリショイバレエ団に残る日本人もいる。
9日のフジテレビは、ボリショイバレエ団に在籍する20代の日本人ダンサー、千野円句(ちの・まるく)さんのインタビューを放映。千野さんは「バレエを続けたい。政治的な理由でやめたくない」とバレエ団に残る覚悟を語った。
千野さんによると、団員約200人のうち外国人は6人ほどだったが、千野さん以外の外国人は7日頃には既に全員が帰国したという。その理由について、千野さんは「自分の国に帰れるうちに帰りましょう、みたいな感覚ではないか」と話し、「外国のバレエ団で、ロシア人が辞めていったという話も聞いているし、そういう形で自分のやりたいことがやれなくなるのが一番悔しいと思う」と、戦争によって活動の場が制限されることを嘆いた。
千野さんは父親がロシア人で、母親はロシアで長年活躍した日本人バレリーナ。モスクワ生まれで、幼少期に日本で暮らしたこともある。
11歳でボリショイ劇場付属の「モスクワ国立アカデミー舞踊学校」に入学し、ジュニア・コンクールで優勝するなど、10代から注目を集めていた。2016年に日本国籍を選択した。
3月10日にロシアは北方領土を「経済特区」指定し、翌3月11日、北方領土でミサイル演習を行うなど、急速に日ロ関係の緊張が高まった。在ロシア日本大使館からはロシアからの出国ルートが提示されるなど、日本人の出国を促すムードのなか、毎日が苦しい選択となるにちがいない。