国会は2022年2月1日の衆院本会議で、新疆ウイグル自治区やチベット、南モンゴル、香港などでの人権状況に懸念を表明する決議を賛成多数で採択した。しかし、「中国」「非難」の文字のない決議に多くの批判の声が上がっている。
「中国に忖度した」との批判も
決議は中国への名指しを避けつつ、「国際社会から、新疆ウイグル、チベット、南モンゴル、香港等における、信教の自由への侵害や、強制収監をはじめとする深刻な人権状況への懸念が示されている」と指摘。「深刻な人権状況に象徴される力による現状の変更を国際社会に対する脅威と認識するとともに、深刻な人権状況について、国際社会が納得するような形で説明責任を果たすよう、強く求める」としている。
今回の決議は「説明責任を果たす」ことを求めながら肝心の主語がないなど、意味の通じない文章となったことに批判も多い。実際、れいわ新選組は「人権侵害を人権状況と言い換え、非難すべき国の名前すら入っていない。生ぬるい」などとして反対に回った。賛成に回った野党からも文面に対する不満の声が上がり、共産党は本会議前の議院運営員会で「中国政府による深刻な人権侵害に対する非難決議とすることを明確にすべきだ」と意見を述べた。
「中国」や「非難」の文字が盛り込まなかったのは、中国との関係を重視する一部の議員や政党に配慮した結果とされ、2月2日付産経新聞の「主張」では「中国政府との関係を重視する公明の意向を自民が受け入れたのが大きい」と指摘し、「弾圧に苦しむ人々にもっと寄り添うべきだったのに、弾圧の張本人である中国政府に忖度(そんたく)したのは情けない」と批判した。
人権侵害制裁法の制定を求める声も
「骨抜き」との批判もある対中決議に対し、The Tokyo Postの菅野志桜里編集長は「対中非難決議のはずが、『中国政府』も『非難』も出てこないのはなぜ…と言いたいところだけれど、出さないよりまし。そして、今回のように国会側が深刻な人権状況を指摘した場合、人権侵害制裁法があれば、政府に調査公表義務をかけられる」とTwitterに投稿。「決議を(一応)クリアした今、次は制裁法を具体化してほしい」と、超党派の国会議員らでつくる議連が制定を目指す人権侵害制裁法の実現を求めた。
人権侵害制裁法は、重大な国際人権侵害に関与した外国の当局者に入国拒否や資産凍結などの制裁を科すための法律で、超党派の法案概要では、国会は政府に対し、人権侵害に関する調査と報告を要求できる。菅野編集長は、国会議員時代、議連の共同会長も務めていた。
Twitter上では決議に対して、このほかにも「特定の民族の絶滅を目的とした虐殺が起きている状態で人権侵害とさえ言えないのは情けない」「これは対中人権非難決議じゃないのか。中国という名が入っていないなど何のための決議だ」といった批判が相次いだ。国民民主党の玉木雄一郎代表も「日本はこの決議にとどまらず、『人権侵害』状況を改善するため、人権侵害制裁法や人権デューディリジェンス法案など国内法の整備を速やかに進めるべきです」と発信した。