難民の保護・支援活動に取り組んでいる国連機関、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が難民たちの実情やUNHCRの役割を紹介するノンフィクション絵本の日本語版「紛争・迫害の犠牲になる難民の子どもたち」が2022年1月21日、合同出版から発売された。
難民の子供の絵と文を紹介
UNHCRは1950年に設立された難民や国内避難民、無国籍者などを国際的に保護・支援するための国連機関。世界約135カ国で活動し、1954年と1981年にノーベル平和賞を受賞した。本部はスイスのジュネーブにある。
出版された本は、難民とはどういう人たちで、なぜ故郷から逃げなければならないのかなど難民となる理由や避難先での暮らし、国際社会に保護を求める理由などについて、写真を交えて紹介。難民の子供たちに体験を文章と絵で表現してもらっており、「ノンフィクション絵本」と名付けた。
紹介されているのは、シリア、スーダン、中央アフリカの難民たちの現状で、子どもたちの絵や文からは、戦争や紛争、残虐行為が子どもたちの心や生活に、いかに深刻な影響を与えるのかが伝わってくる。また、難民と移民の違いや難民が生まれる原因となる世界情勢、国際法上から見た難民問題など基本的な知識も分かりやすく説明している。
「夢も希望も消えてしまう」と不安を訴える少年
本書で紹介されている16歳のシリア人少年、ムハンマド君は2011年から続いているシリア内戦から逃れるために、レバノンへ脱出した。
外務省によると、シリア内戦は民主化を求める反政府デモに過激派武装勢力が参加することで起きた。シリア政府と反政府勢力が武力衝突した後、イスラム過激派勢力が勢力を拡大。ロシアや米国、周辺国も関与することで、事態は複雑化した。
国土全体に戦闘が拡大したため、約40万人以上が死亡し、2021年11月時点で約570万人以上の難民が周辺国に流出したとされる。
ムハンマド君は小学校6年生から学校へ通えなくなったといい、「戦争はぼくの将来、夢をずたずたにした。このまま夢が叶わないんじゃないか、夢も将来への希望も消えてしまわないか、心配でたまらない」などと、学校にいけないまま時間が過ぎていくことへの焦りや不安を訴えている。
翻訳者の櫛田理絵さんは、早稲田大学在学中、人権NGOアムネスティ・インターナショナルでボランティア翻訳に携わった経験がある。
出版社では「『この子はどんな気持ちでこの絵を描いたんだろう?』と想像したり、話し合ったりしながら、ぜひ子供たちの絵を見てほしい」と呼びかけている。
「紛争・迫害の犠牲になる難民の子どもたち」(著・国連難民高等弁務官事務所)は全80ページで、本体価格2800円。全国の書店のほか、Amazonや楽天ブックスなどで販売している。