2021年12月28日、ロシア最高裁により解散を命じられた人権団体「メモリアル」。団体代表のヤン・ラチンスキー氏にフォーカスする。
ロシアの人権団体「メモリアル」代表
ロシア最高裁は2021年12月28日、ロシアで最も歴史ある人権団体「メモリアル」に解散を命じた。「メモリアル」は、スターリン時代の粛清をはじめとするソ連とロシアの暗黒史を掘り起こし、最近ではプーチン政権によって拘束された「政治犯」のリストを公表し、政治犯の支援活動も行っていた。解散命令に対し、欧米各国は「いまこそロシアに『メモリアル』のような組織が必要」であり、判決は不当なものだと非難している。
その「メモリアル」の代表を務めるのがヤン・ラチンスキー氏(63)。創設者の一人であるアルセニー・ロジンスキー氏の死を受けて2018年に2代目代表に就任した。
メモリアル設立翌日から参加した
大学での専攻は数学とプログラミングだったが、「メモリアル」設立直後からその活動に参加。以来、人権活動家として「カティンの森の虐殺」(ポーランド人戦争捕虜が1940年ソ連軍に殺害されたが、ソ連は長らくナチスドイツの犯行だと主張していた。被害者は20,000人以上にのぼる)の真相究明などに注力してきた。
インタビューによると、祖母がソビエト政府に対抗した社会革命党党員として収容所に入れられた過去もあったことから、ソ連政府に対して苦々しい思いを抱いていたが、学生時代は特に政治活動をするわけではなかった。しかし、ゴルバチョフ時代にペレストロイカ(改革)とグラスノスチ(情報公開)が始まり、ノーベル平和賞受賞者アンドレイ・サハロフ氏らによって1988年に「メモリアル」が設立されると、翌日飛び込んだという。
「歴史が埋もれたままになるわけがない」
判決後、ロシアメディア「MEDUZA」の取材に、ラチンスキー氏はこう語っている。「私たちにはロシア国内だけでも60もの関連組織があり、独自に粛々と活動を続けていく。さらに『メモリアル』に加えて、多くの人々がソ連時代の圧政の歴史を検証している。歴史が埋もれたままになるわけがない」。
さらに、「解散命令は予期しないものだったし、不愉快ではあったけれど、そもそも政府からの愛を期待したことなど一度もない。その意味で特別なことは何もない。これまでと同じことをやっていく」と語った。
代表就任当初から、ラチンスキー氏はこうも語っていた。「『メモリアル』を法的に閉鎖することは可能だろう。しかし、人々が望むことを禁じるのは、それよりも遥かに難しい」。
解散させられた「メモリアル」とラチンスキー氏は今後どのような活動をしていくのか。要注目だ。