〈第4回〉長野智子✕菅野志桜里「政治とジェンダー」対談
ジャーナリスト長野智子さんと、菅野志桜里編集長が「政治とジェンダー」をテーマに対談を行った。長野さんは「クオータ制実現に向けての勉強会」事務局長を務め、政治のジェンダーギャップ解消を目指している。元衆議院議員として国政に携わってきた菅野と、どのような意見交換と合意形成ができるのか?
〈第1回〉女性議員の理想と現実、それでも女性議員を増やしたい理由
〈第2回〉参院選が女性候補大幅増でも喜べない?女性立候補者を消費する自民党
〈第3回〉企業も日本も多様性を取り入れなければ終わる 時限的クオータ制導入を
強制力ある時限的クオータ制を導入できれば女性議員は増えるのか? 女性議員が増えない理由はそれだけではない、という第4回。女性が引いてしまう「永田町あるある」をどう解消するか。
◆長野智子:ジャーナリスト、キャスター、国連UNHCR協会報道ディレクター
◆菅野志桜里:The Tokyo Post編集長、弁護士、国際人道プラットフォーム理事
議員の椅子は、男性にとっては「ふわふわのソファ」
菅野志桜里(以下、菅野): そういう時限的なクオータ制みたいないわゆる法制度の話と別に、民間ですごい活躍の場がいっぱいあるのに、何でそんなリスクを取って政治家やるの問題というのはすごくあるじゃないですか。
長野智子(以下、長野): 女性国会議員の人は、皆さん「お薦めできない」と(笑)。大変過ぎて。
菅野: 政治家って良さそうな人材を見つけると、すぐ「政治家になりなよ」とか言うじゃないですか。
長野: 言う言う。
菅野: よくそんな無責任なことが言えるなって結構いつも思っていて、私はすごくすてきな人ほど「政治家になったら」なんて口が裂けても言えないわけなのね。
長野: それ、女性の国会議員の方、みんな言いますよね。
菅野: やっぱり。
長野: 男性の議員って結構「やろうよやろうよ」って言いますよね。
菅野: 居心地いいからでしょう。
長野: 絶対そうだと思う。
菅野: 男性の政治家として今そこに座っているということは居心地がいいから、「ここいいよ、このソファふわふわだよ」みたいな感じだけど、私たちからすると「いや、この椅子トゲトゲだよ」みたいな感じだから、そんな「どうぞどうぞ座りなよ」とかいうふうにやっぱりならない。だから、制度で増やそうとしても、そのトゲトゲ椅子問題というのを何とかしないといけないと思うんですね。
長野: それは女性国会議員が増えたらトゲトゲがなくなっていくのか、トゲトゲをなくしてから迎え入れるのかって、またニワトリか卵かで……
政治家のプライバシー公開や暴露が候補者のハードルに
菅野: そうなんですよ。私は、トゲトゲにもいろんなトゲがあると思って。私の中のポイントなのは、女性議員であると、「私生活を見せてほしいという圧」が男性議員の10倍ぐらい強いという問題があると思うんですね。メディアの人も無意識なんだと思うんだけれども、しかもあるいは良かれと思って、それこそキッチンでオンライン仕事をしている絵が欲しいみたいな。それは総理になると突然家で(の姿を公開)、というのと同じで。岸田さんもやっていましたよね。総理の総裁選になると私生活をさらすことを求められたりとか。
長野: 男性議員は大臣クラス、それも総理くらいだけど、女性議員は何かとありますね。
菅野: そうそう、男性にも時にそういうプレッシャーがポイント、ポイントでかかるんだけれども、女性の候補者や女性議員というのは、常にそのプレッシャーにさらされ続けたりとか、あるいは逆に女性議員としてのつらさを訴えることを求められたりとか、すごくステレオタイプを求められるので、私はそれがすごいチクチクして、座り心地悪いなって思っていたんですよね。
長野: でも、それって「なかなか難しいですね」で済ませられないというか、そこを解決しないとやっぱりみんな手を挙げてくれないですよね。
菅野: そうだと思います。仮に時限的なクオータ制をいれて「いやいや、ちょっと女性に来てもらわないと、うち、政党交付金なくなっちゃうので求む」とか言っても、いい人は結局来ないという状況は十分あるので、そっちも手当てをしなきゃいけないだろうなって切実に思っていて。そこの突破口として、予備選って結構可能性ありなんじゃないかなって思うんですよね。政治の世界って、政治家もメディアもなんですけど、人間ドラマを求めるじゃないですか。別に人間ドラマは決して必ずしも悪いことばかりではないんだけれども、どうしても人間ドラマが属人的な生活とか、あるいはこの人とこの人の仲がいいとか、仲が悪いとか、積年のライバルであるとか、そういう政治の世界、永田町の世界特有の人間ドラマで盛り上げようとするカルチャーってありませんか。
長野: あー政局的なストーリー。別に必要ないんだけどね。
菅野: ですよね? 私も、「これ必要なくない?」ってもはや思っていて。
長野: 必要ない。私なんか本当に全然必要ないタイプなんですよ。でも、やっぱり数字が来るのかな。政治にあまり関心のない人には観やすいのかも。
菅野: そうかな。政治に関心がある人しか喜ばないんじゃない? 政治家とか政治部の記者とか、あとは何の用事か分からないけど議員会館にいる人々とか。だって永田町地獄耳的な記事とかって、永田町の人しか面白くないじゃないですか。面白いの? 一般の人、そんなの求めてる?
(編集: 一般の人が「やっぱり政治家って」って言いたいという…。)
長野: そっち方面はすごくありますよね。ドロドロしてるね、とか。優秀な女性で国会議員だけど、写真を撮られたりとか。政策とかではなくて、「やっぱり政治家って」という野次馬的な関心。
菅野: そのニーズはあるのか、ニーズはあるんだ。
政治家の人間ドラマを予備選挙で提供する
長野: 多分むしろそっちだと。本当に政治に関心のある人は、多分、あまり関心ないと思うんですよ。政局とかハニートラップ的スキャンダルとか。
菅野: あれ、定期的に出てくるやつですよね、アルゴリズムみたいに。だから、やっぱりドラマを人間は求めてしまうので、そのドラマの質を変えてほしくて、予備選のドラマって面白いと思ったんですよ。それこそオカシオ=コルテスが議員になっていったのも、民主党内の予備選挙で、白人のベテランの男性現職民主党議員を予備選でひっくり返して、座を射止めたわけじゃないですか。そのドラマってもちろんネットフリックスとかですごい格好良くまとまっていたりとかするんだけれども、そっちのドラマにしてほしくてね。
長野: うん、すごくいいと思う。予備選って可能なんですか。こんなに国会開いていないんだからやったらいいのに。
菅野: どこかの政党が、うちの政党は、例えば衆議院の小選挙区に立てる候補について、現職も含めて全部予備選やりますというのをやったら、一時的にメディアのミニハックはできると思うし……
長野: すごくいいと思う。
菅野: あるいは、「黄金の3年間」って永田町ワードは全然好きじゃないけれども、ただどうやら選挙が先らしいと。そんな中で、野党が乱立している分裂状態でどうにもなりませんよねということを嘆いている人はいっぱいいるわけですよね。だったらこの3年間で、全ての選挙区で勝ち上がり予備選挙をやって野党統一候補をつくっていきますとか。そういうドラマだと面白いし、しかも有意義じゃない。そこにはすごい人間ドラマがあると思うんですよ。現職の議員が、突然出てきたどこの人かも分からない新人に追われていくとか、でもやっぱりさすがの実力で1回戦は打ち負かすとか。
長野: 今の日本って、選挙期間がすごく短くて、結構たくさんの人が「え、選挙あったの?」という状態らしいの。だいぶそういうのもなくなる。
菅野: そうなんですよ。だから選挙って大事だと思うんですけど、選挙の前に予備選挙をすることによって、多分結果として選挙の投票率は上がると思うんですよ。なぜならその候補者を自分がつくっているから。
長野: いいじゃないですか。それっておっしゃったんですか、国会で。
菅野: 予備選挙をやろうということはずっと言っていて、割といろんな場所で言っていたんです。女性の話を聞かれるときにも、女性議員を増やすためには予備選挙だと。それをやれば実際実力のある女性は勝っていけるし、とにかくまず現職が落ちることによって空席ができるし、かつ、そういう永田町の井戸端会議じゃない全然別の政治ドラマができるからって言っていたんだけど、もちろん全然どこもやらなくて。私の住まいは武蔵野市なんですけれども、菅(直人)さんと長島(昭久)さん(がいる選挙区)なのね。私が愛知から移ってきて東京に来たときに、もし可能なら、私はそこに予備選挙で、自分が出られるかどうかを市民に決めてもらえたらいいなと思ったこともあったんですよ。結局出なかった衆議院選挙なんですけど、それこそ野党統一候補をその選挙区の予備選で決めるみたいな。でもそれは無理でした。
長野: 何で無理なの。
菅野: 野党内協議の問題かなあ。やっぱり現職の野党議員がいるところに、別の野党候補がチャレンジするというのは、かなりハードルが高いという。
長野: やめてください、それはちょっとみたいな。
日本の有権者の選択と野党の在り方が変わってきた
菅野: それなりに正義感の強い小政党にいても、そこは難しかったんですよね。
長野: でも、最近の国民民主党は、ちょっと与党みたいに見えてきたんですけど。
菅野: その話でいうと、いま野党は悩みどころですよね。政権交代を目的にするのか、その前に自公の連立をくずして政権の枠組みを変えることを目的にするのかという、どっちがいいのって。
長野: なかなか苦しいところですよね。野党としてひとつの選択ではあるけど。私個人としてはやっぱり野党って与党に対峙して政権選択できるみたいな、提案も必要だけど、同調ではなく健全な批判と他の選択肢の提示をしてほしいと思っているタイプだから。権力に対してきちんと真っ向勝負で批判して、駄目なところを駄目出ししてというふうに対立していってほしいんです。ああなっちゃうと、じゃ与党でいいじゃないというか。
菅野: ただ、その対立軸で政権交代をやったときに、政権運営能力はなかったんだというふうに世の中は見ているじゃない。そう考えていくと、結構この10年で有権者もいろいろ学んだりとか考えたりとか、選ぶ基準を変えてみたりとか、日本の有権者が変わっていった10年なんじゃないかなと思っているんです。
長野智子
上智大卒後、フジTV入社。その後夫の米国赴任に伴い、NY大大学院で学ぶ。2000年よりキャスターとして「ザ・スクープ」「朝まで生テレビ!」「ザ・スクープスペシャル」「報道ステーション」「サンデーステーション」などを担当。現在は国内外の取材、国連UNHCR協会報道ディレクターなど幅広く活躍中。