ロシアによるウクライナ侵攻でロシア軍によって掌握されたウクライナ南東部のザポリージャ原子力発電所について、国際原子力機関(IAEA)は2022年9月6日、現地で行った調査の報告書を公表した。IAEAは砲撃によって核燃料や放射性廃棄物の貯蔵施設が入る建物なども損傷していると指摘し、原発周辺に「安全区域」を設定するよう提言した。
「重大事故を引き起こす」と懸念を表明
7日付ロイター日本語版によると、報告書でIAEAは、核燃料貯蔵用施設や放射性廃棄物の保管施設、警報システムが入る建物などに損傷を発見したとし、原発を安全に運用するために不可欠な外部からの電力供給が数回にわたって遮断されたと指摘した。
そのうえで、攻撃は原子力の安全に対する継続的な脅威であり、重大事故を引き起こす可能性があるとして懸念を表明。周辺での砲撃を直ちに停止するよう勧告し、早急に安全区域を原発周辺に設定するよう提案した。
同原発への攻撃については、ロシア、ウクライナ双方が相手側によるものだと非難しあっているが、報告書ではどちら側の攻撃だとも断定していない。
また、発電所の運営にはウクライナ人の技術者があたっているが、「ロシア軍の管理下で常に高いストレスにさらされている」とし、「原子力の安全性に影響を与えるヒューマンエラーの増加につながる可能性がある」と労働環境の改善を求めた。
双方が「相手が攻撃」と非難
ザポリージャ原発への対応をめぐっては、6日に開かれた国連の安全保障理事会にIAEAのグロッシ事務局長がオンラインで参加。安全区域の設定を求めたうえで、「われわれは今すぐ当事者と協議する用意がある」とウクライナとロシアの双方に呼びかけた。
NHKオンライン版(7日付)によると、会合では欧米各国から、ザポリージャ原発からロシア軍が撤退するよう求める意見が相次いだが、ロシアのネベンジャ国連大使は、原発への砲撃を行っているのはウクライナ側だと改めて非難。「ロシア軍が施設の安全を守っている」などと従来の主張を繰り返した。
一方、ウクライナの国営通信ウクルインフォルムによると、ゼレンスキー大統領はIAEAの報告を受けて6日に動画メッセージを発表。「IAEAが原発敷地を非軍事化させ、その完全な管理をウクライナに戻す必要がある」としたうえで、「ロシアが世界を放射線事故の瀬戸際に追いやったのであれば、世界は、テロ国家ロシアにテロをやめさせるような手段を持たなければならない」などと訴えた。