長野智子✕菅野志桜里「政治とジェンダー」対談 ©The Tokyo Post
長野智子✕菅野志桜里「政治とジェンダー」対談 ©The Tokyo Post

女性議員の理想と現実、それでも女性議員を増やしたい理由〈長野智子✕菅野志桜里〉

〈第1回〉長野智子✕菅野志桜里「政治とジェンダー」対談

第二次岸田内閣発表直後の8月10日、ジャーナリスト長野智子さんと、菅野志桜里編集長が「政治とジェンダー」をテーマに対談を行った。長野さんは「クオータ制実現に向けての勉強会」事務局長を務め、政治のジェンダーギャップ解消を目指している。元衆議院議員として国政に携わってきた菅野と、どのような意見交換と合意形成ができるのか?

◆長野智子:ジャーナリスト、キャスター、国連UNHCR協会報道ディレクター

◆菅野志桜里:The Tokyo Post編集長、弁護士、国際人道プラットフォーム理事

菅野志桜里(以下、菅野):長野さんとずっとお話したいと思っていました。今日は念願かなって嬉しいです。

長野智子(以下、長野) 菅野さんが議員をお辞めになったこと、とても残念に思っていました。他のジャーナリスト仲間たちとも貴重な人材が失われて残念といって。

菅野  なんか・・・申し訳ない(笑)

長野: 今日はゆっくりお話できるということで楽しみにしていました。

女性議員は政策を選べない…そもそもパイが足りていますか?

長野智子✕菅野志桜里「政治とジェンダー」対談 ©The Tokyo Post
長野智子✕菅野志桜里「政治とジェンダー」対談 ©The Tokyo Post

菅野  今回の組閣では、女性が……永岡さんと高市さんの2名、どう思いましたか。

長野  私はその2人を見て、なるほどねって。あまり変える気持ちがないんだな、岸田さんは。と思ったのが一点と、それを伝えているテレビでコメンテーターの田崎史郎さんが今朝、「岸田さんも最初は選挙も目前に控えているから、見栄えのいい感じでと重要ポストに女性を持ってきたけども、今回はきちんと党をまとめて仕事をやっていきたいからこのメンバーなんです」という言い方をしたんですよ。何、見栄えってと思って、ベテラン政治記者も、その表現に何の問題意識も持っていないし、悪いとも思っていない。当たり前のこととして真顔で解説している。見栄えって女性国会議員に失礼ですよね。

菅野  それに「こらこら」といさめる人もいなかったですか。

長野  いませんでしたね、スタジオでは。

菅野  その発言って結局、仕事、つまり政策をやっていくのは男性議員だということですよね。私自身、議員だったとき、女性議員はやっぱり女性政策に閉じ込められやすいと感じてました。そこを意識的に破りたいと思って、憲法のことや皇室のことや外交のことをやってきた。本当は経済ももっとちゃんとやらなきゃいけないなと思いながら卒業してしまったんですけれども。この女性議員が女性政策に閉じ込められることによって、実際あまたある閣僚ポストで、もうこのテーマだったらこの女性がなるべきなのに何でならないのというところまでまだ行き着けていないような気もするんですよね。

長野  なるほどね。うんうん、分かりますね。この対談は3時間コースかな?

菅野  3時間コースですね(笑)。第二次岸田内閣は、女性閣僚がたった2名で、党の4役もオール男性で。たかが政治されど政治だから、この国の政治の最終的な意思決定機関にこれだけ女性が入らないということを嘆く気持ちも、変えなきゃいけないという気持ちもあるんです。ただ、女性の側にももっとできることがあるんじゃないかという問題意識があって、そこを聞きたいなと思っていたんです。

長野  私にですか。中にいたからこそ分かってくることの方が聞きたいです。

菅野  例えば女性議員が女性政策に閉じ込められる。でも一方、ちょっと言葉を選ぶんですけど、楽なポジションでもあるんですよね。

長野  それは女性議員にとっても。

菅野  (女性議員に)とってもということ。女性議員が女性政策を語る場面では批判を受けないし。

長野  そうですよね。女性の味方という政策を出して、女性というカテゴリーで終わるから。

菅野  そうなんですよ。だからそこからもう一歩前に出るということを自分自身も微力ながらやろうとしたし、もっとほかの女性議員も目に見える形でそういうことをやってほしいなって当時も思っていたし、今も思っているんですけど、そこを求めるのは難しいのかな。

長野  というか、もともとの(女性の)パイが少な過ぎるというのもありますよね。衆議院でいうと9.7%になっちゃって、やっぱり人数が1割以下だとそれこそ特別な存在としてカテゴライズされてしまうというか。菅野さんがおっしゃるように、ジェンダーに閉じ込められないで、当たり前のように経済政策や外交を、というのは理想なんだけれども、やはりそもそものパイが少な過ぎると思うんです。

ビジネスの世界では、ようやく商社なども動き始めました。たとえば丸紅もそうですけど、女性管理職を増やすために総合職の採用を2024年までに4割、5割まで増やすということを2021年に発表しましたね。まずは総合職というパイを増やすことから始めていって、その中から管理職、意思決定権がある層に女性を持ってくるという、今その段階です。

そもそも女性議員の数が今国会には少な過ぎる。それこそ菅野さんみたいに何でもばっとできるならいいけど、実際に衆議院の女性議員たちは、ジェンダー以外の政策について、みんな応えられる感じなんですか。

菅野  たしかに、テーマごとに専門分野を持った女性議員をきちっと配置できるだけのパイがない状態ですよね。それはそうだと思う。

有権者にわかりやすい「女性候補は子育て・介護」パッキング

長野智子✕菅野志桜里「政治とジェンダー」対談 ©The Tokyo Post
長野智子✕菅野志桜里「政治とジェンダー」対談 ©The Tokyo Post

長野  みんな十分な政策通で、ジェンダー以外のことでも経済でも外交でも対応できるにも関わらずジェンダーに押し込められちゃっているのか、それとも、そもそものパイが少ないからそもそも応えられる人が少ないのかな。

菅野  たとえば選挙では候補者をジェンダーに押し込めちゃうみたいなこと、多いですよね。今回、国連職員とかシンクタンク出身とか、いわゆる政策通の女性たちも参議院選挙に出ていたと思うけども、「女性候補」という以上にその中身が伝わったかどうか・・・。

私も議員時代すごく苦しかったのは、選挙応援するときに、よく知らない候補者のところに行って、結局何が瞬時に最大売り込めるかといったら、女性議員だったら女性を国会に送りましょう、若者だったら若い人を国会に送りましょう、それこそちょっと妙齢の男性だったら、しょうがないからいぶし銀の魅力ですみたいな感じで、その人の本質を知った上で推薦するんじゃなくて、属性で売り込むということがままありました。それである時から、知らない人を選挙応援するのやめてしまったんだけど。今の選挙の文化の中では残念ながら、例えばそういうジェンダーPRが効率的な方法になっちゃうというのが問題として一つありますよね。

長野  これは国会とか政党の責任なのか、有権者側の意識の問題なのか、ということがあるから、難しいですよね。例えば、国連の方が女性候補者として立って、外交・安全保障を選挙カーで語ったときに、有権者の集まった皆さんたちが「え?」って、このお姉さんは何を難しいことを言っているんだ、もうちょっと子育てとか福祉とかやってよみたいなモードになっちゃうようなところもあるんでしょうね。

菅野  そして、やっぱり求めているものに応えていくというモードにね、多くの場合なっていくんですよね。選挙って、自分がやった経験からすると、「自分が何を求められているのか」ということにものすごく敏感になるし、これを正確に捉えるアンテナみたいなものが内蔵されていくんですよね。

長野  でも、それもまた大事なことですよね。

菅野  そこもすごく大事なことなんです。何をこの人たちは求めているんだろうか。自分は何を求められているんだろうか。ただ、そこもバランスで、やっぱり求められているものにどんどん自分を合わせていくと、それこそ女性議員は女性政策をやってほしいみたいな、自分たちの代表者として生活者の視点で子育て、介護問題に取り組んでほしいという、そのニーズというのは無視できないものがある。だからそのほかのプロフェッショナルなバックグラウンドを持っていても、女性であるということによって、どうしてもテーマが自他共にシフトしていくというか、そういう問題はあるかもしれないですね。

外交・経済・安全保障議論の場に女性がいないことが嫌

長野  高市早苗さんなんかはそこからちょっと抜けているところがありません?

菅野  ありますよね。

長野  例えば(女性)候補者としてそういうふうに当選したとしても、女性政策以外の専門分野にシフトしていくというのもまた難しいんですか、国会では。

菅野  もともとスキルがあるとか、しかも(議員に)なってからでもちゃんと研鑽を積めばできると思います。例えば私なんかは、もともと外交政策のバックグラウンドがあるわけじゃないんだけれども、外交って票にならないという思い込みの中で、本気で外交に取り組んでいる議員って案外少ないんですよね。厚労委員会は希望者がいっぱいだけど、外務委員会とかって結構空き空きみたいな。だけど、私は外交ってすごく大事だと思っていたし、結果外交は票になるということも私は感じていたので、バッと外交のほうに入っていって。

長野  やっぱり票になるというのは必ずついてくるんですね。

菅野  もうちょっと正確に言うと、私はもう次の選挙のことは考えていなかったので、票になるかならないか問題は私自身にとっては全然関係のないことだったんだけれども、ただ仲間の議員には結構言っていました、外交って絶対票になるよって。しかも今、野党議員で票を取ろうと思ったら、外交をちゃんと語ったり、質問したりすれば、多分絶対票になると思うよということは言っていたんです。

長野  そうなると、え、本当、じゃやってみようかなみたいな。

菅野  なるんじゃないかなと思いますね。

長野  それはやっぱり国会ならではの会話ですね。私たちみたいな(報道の)仕事をしている人は、「外交は票につながらない」という話も聞いたことがありますけど、一般の有権者はそういう会話が普通にされているってあまり分からない、多分。

菅野  分からないですかね。

長野  委員会行ってみたら、外交、票になるんだ。じゃやってみようと。

菅野  そうそう。だから街頭演説でも、私は対中問題とか人権デューディリジェンスの話とか、経済安全保障の先駆けのときに結構そういう話をしていたんですけど、一緒に立った議員とちょっとやってみようよとか、外交・安全保障の話をしようよと。例えば国民民主党は国防のことをちゃんと考えていますということをちゃんと話そうよと。人権侵害制裁法も賛成していますとか話してみようよと言って、話してみたら「結構反応いいじゃん」みたいな。

その後、質問に来てくれる1対1の質問タイムみたいなところでも、「野党が国防を話してくれるのは安心した」とか、「その話ってなかなか街頭で聞けないので良かった」とか、政治家って街の反応にもすごいセンサーが働くから、そのときに一緒にいた議員も、あ、これは反応良かったみたいな、やっぱりちゃんと外交・安全保障を語るって結構大事だし、求められているね。と。

長野  なるほど。私、「クオータ制を実現するための勉強会」というのを2021年からやっているんですけれども、何で女性の国会議員を増やしたいかというと、いわゆる経済とか外交・安全保障にたくさん女性の国会議員に入ってほしいからなんですよ。

菅野  そうか、そこに思いがあるんですね。

長野  もちろん生活ベースのことも大切ですが、外交や国防といった国の大きな方向性や政策を考えるときに、9割男性の同質的な組織が決めてしまうのはどうなのかと。もっと多様な価値観が大きなところに反映されてほしいという思いで、まずは女性の国会議員を増やしたいと思ってスタートしたことなんですよ。それにはパイを増やさなきゃいけないかなと思って……

菅野  やっているということですよね。

長野:  そうなんです。

長野智子

上智大卒後、フジTV入社。その後夫の米国赴任に伴い、NY大大学院で学ぶ。2000年よりキャスターとして「ザ・スクープ」「朝まで生テレビ!」「ザ・スクープスペシャル」「報道ステーション」「サンデーステーション」などを担当。現在は国内外の取材、国連UNHCR協会報道ディレクターなど幅広く活躍中。