武蔵野大学は2022年7月12日、工学部建築デザイン学科の金政秀教授や学生らの研究グループが、電力使用量データをAIなどで分析し、単身の高齢者を見守るシステムを開発。特許を取得したと発表した。
電力使用量からAIが異変を察知
新たに開発されたシステムは、電力使用量の推移をもとに高齢者の見守りをすることから「みまワット」と名付けられた。単身高齢者家庭の電力使用量データを、AIの機械学習やExcelモデルで分析。熱中症などの体調の異変や生活の昼夜逆転、長時間の不在など異常な変化が起きていないかを推測する。
なんらかの異常があると判断された場合、管理者のもとにアラートが送られ、状況確認をするほか、必要に応じ、離れて暮らす家族への連絡、東京都住宅供給公社や警察への通報などで単身高齢者の安全を確認する。
今後、大学ではシステムを利用した見守りサービスを展開する事業者を募集。東京都との連携を図り、電力供給会社と協力することで、都営住宅を中心にシステムの普及を進めていく。
1年半にわたり20世帯からデータを取得
今回のシステム開発は、金教授と同学科の学生らが20年度から進めてきた研究成果をもとにしている。金教授らは東京都の「研究者による事業提案制度」に基づいて、「都営住宅の単身高齢者を対象としたAIを用いた電力量データ分析による見守り」をテーマにした研究を行ってきた。
研究では、都営住宅に住む単身高齢者20世帯に、エアコンの稼働状況や室温、扉開閉などを検知する機器を設置。そのほか、学生らが1~2週間ごとに各世帯を訪問して、日誌を配付・回収するなどして、単身高齢者の生活様式に特化したデータを収集した。訪問は約1年半にわたり、訪問回数は延べ1,023回に達したという。
一般家庭の日常生活のデータを長期間にわたって収集した例は、スイスで8カ月間、5世帯を対象に実施した例があるが、高齢者のみを対象に1年半にわたって20世帯のデータを収集したのは世界的でも例がないとしている。
家電製品の使用状況や各種センサーのデータ、本人のバイタルデータなどを、機器を通じて取得し、見守りを行うサービスは、さまざまな企業から提供されているが、「みまワット」は収集した実際の高齢者の生活様式のデータを活用し、電力使用量のデータだけでAIなどが状況を推測する。
このため、システムの設置に特に工事は必要なく、システムに対応したパソコンがあれば、すぐに導入できる。1システムで1,000人程度の見守りが可能だという。
単身独身者家庭の増加や熱中症やコロナ感染などのリスクなどから、需要は高そうだ。