安倍晋三元首相が奈良市で街頭演説中に銃撃され死亡した事件の山上徹也容疑者は動機について「旧統一教会に母親が多額の献金をしたために破産した」ことを恨み、安倍氏を教団関係者とみなしての犯行だと供述していると報道されている。寄付金の強制などによる被害者の救済に取り組んでいる弁護士らは、改めて旧統一教会を批判するとともに、政治家にも団体と関係を持たないよう訴えた。
母親による多額の献金で家庭が崩壊
統一教会は1950年代に設立された韓国系の宗教団体で、現在は世界平和統一家庭連合と名称を変更している。信者に壺や印鑑などを高額で買わせるなどの「霊感商法」が社会問題となり、元信者から訴えられたり、特定商取引法違反容疑で信者が逮捕されたりするなどのトラブルや事件も多発している。一方で、統一教会は「反共産主義」を掲げていたこともあって、日本の一部の保守政治家と関係があると指摘されている。
安倍元首相を襲撃した容疑者の母親も多額の献金をして破産したため、家庭が崩壊したとされ、容疑者は同連合を恨んでいたという。安倍元首相を狙った理由については「安倍元首相が統一教会と関係があったから」などと供述しているとされる。
同連合は報道を受けて、11日に記者会見を開き、容疑者の母親が会員であり、破産したことも把握していたことを認めた。そのうえで、母親に高額な献金を要求した記録は残っていないとし、安倍元首相との関係についても「友好団体が主催する行事にメッセージが送られてきたことがある」としたものの、「会員として登録されたことはなく、顧問になったこともない」と説明した。
弁護士は「霊感商法被害に政治家は手を打ってこなかった」と批判
世界平和統一家庭連合の会見を受けて、霊感商法の問題に取り組む「全国霊感商法対策弁護士連絡会」が12日、東京都内で記者会見した。
連絡会代表世話人の山口広弁護士は、襲撃事件は許されることではないとしたうえで、「統一教会の信者の家族はつらく苦しい思いをしている」と述べ、「容疑者の母親が自己破産したのは明らかに過度な献金のためなのに、人ごとのようだった」と同連合の説明を批判した。また、政治家と同連合の関係について、政治家は選挙で支援を受けたり、関連イベントにメッセージを送ったりしてきたと指摘し、「これまで反社会的団体にエールを送るようなことはやめてほしいと政治家に何度も訴えてきた。今後は関係を慎重に考えてほしい」と訴えた。
メディアなどで積極的に霊感商法の被害について訴えてきた紀藤正樹弁護士も「統一教会をめぐって50年以上続く被害があり、その中で起きた事件だと理解してほしい」と発言。「政治家は、反社会的な団体との付き合い方について考えてもらいたい」と重ねて訴えた。
今回の事件を契機として、政治家と宗教団体の相互依存関係を改めて指摘する情報も上がり始め、カルトが及ぼす深刻な問題が顕在化した。犯行の動機などの調査がさらに進めば、新たな背景が浮かび上がる可能性もある。