インターネット上で中傷された後に2020年5月に自ら命を絶ったプロレスラーの木村花さん=当時(22)=の母、響子さんが2022年4月26日、刑法の侮辱罪厳罰化を審議する衆院法務委員会に参考人として出席し、意見陳述した。響子さんは「言論の自由に見合った責任をともなわせるべきだ」と厳罰化の必要性を訴えた。(写真はイメージ)
刑法で最も刑罰が軽い侮辱罪
亡くなった木村花さんは、出演したテレビの内容をめぐり、SNS上などで執拗な中傷を受けていた。花さんの死後、響子さんはSNSでの中傷をなくそうと、NPO法人RememberHanaを立ち上げ、侮辱罪の厳罰化を求めるなどの活動をしている。
SNSでの中傷が刑事事件として立件される場合、侮辱罪が適用されることが多いが、侮辱罪は現行法の中でも最も刑罰が軽く、30日未満の拘留か1万円未満の科料となっている。花さんのケースでも、「死ね」などと投稿した2人の男が略式起訴されたが、科料はわずか9,000円だった。
SNSでの中傷が社会問題となるなか、「刑罰が軽すぎる」との批判を受けた政府は、法定刑の上限を「1年以下の懲役もしくは禁錮、30万円以下の罰金」へと引き上げる刑法の改正案を国会に提出した。
26日の意見陳述で響子さんは、SNS上の中傷で被害者は普通の生活ができないほど心が壊されていると訴え、「(発信者に)言論の自由に見合った責任をともなわせるべきだ」と改めて厳罰化を求めた。
(衆議院インターネット審議中継 木村響子(参考人 特定非営利活動法人Remember HANA代表理事)陳述)
厳罰化に反対の声も
SNSでの中傷に対し、厳罰化した侮辱罪を適用することには、反対の声もある。立憲民主党は相手を批判する発言も侮辱罪になる可能性があるとし、厳罰化が「言論の自由を強く委縮させる」と指摘。また、侮辱罪は「公然性」が要件となっているため、ダイレクトメッセージや電子メール、LINEなどで行われる少人数での誹謗中傷や、いじめに対応できないとして、「加害目的誹謗等罪」を創設する刑法改正案を対案として国会に提出した。
立憲民主党によると、加害目的誹謗等罪は「人の内面における人格権」を保護法益とし、人格を傷つける言葉が処罰対象となる。また、「加害の目的」を要件としており、加害を目的としない論評や、「やめてほしい」と言われて、すぐにやめたときなどは罪に問われない。
日本弁護士会も3月17日に「侮辱罪の法定刑の引上げに関する意見書」を公表。厳罰化に反対する姿勢を示した。
意見書では「法定刑を引き上げ、懲役刑を導入することは、正当な論評を萎縮させ、表現の自由を脅かすもの」と厳罰化を批判。インターネット上の誹謗中傷への対策として的確ではないとして、対策として「プロバイダ責任制限法を改正して発信者情報開示の要件を緩和し、損害賠償額を適正化するなど、民事上の救済手段の一層の充実を図るべき」だと主張している。