ミャンマーでクーデターが起きてから14ヶ月、今やミャンマーの医療施設は医師や看護師にとって、「世界で最も危険な場所」と呼ばれる場所になっている。満足な治療やワクチン接種ができず、その結果、医療崩壊は今後さらに深刻な事態となりかねない。
「不服従運動」参加の医師を弾圧…政治的目的と略奪目的
4月19日のニューヨークタイムズ紙によると、クーデターに反発して「不服従運動」に参加する医師が多いことから、ミャンマーの軍事政権の弾圧の矛先が病院に向かっているという。
人権擁護団体「Assistance Association for Political Prisoners(政治犯救援連合)」によると、昨年2月のクーデター以来、140人の医者が反政府デモに参加した疑いで逮捕され、そのうち89人が今も拘束されたままだという。ニューヨークに拠点を置くNPO「Physicians for Human Rights(人権のための医師団)」によると、少なくとも30人の医師が殺害されており、「ミャンマーは医療従事者にとって世界で最も危険な国のひとつ」になっている。
医療者を狙う兵士たちにとって、裕福な医者の自宅は格好の略奪の場になってもいる。もともと市民から物を奪うことで悪名高いミャンマーの兵士は、裕福な医者の家から現金、宝石、あるいは車などを持ち去っていくという。ある病院では、「閉鎖を免れたければ5,000ドル(約63万円)支払えと兵士に要求されたという証言もある。
https://www.nytimes.com/2022/04/19/world/asia/myanmars-coup-doctors.html#:~:text=The%20country%20is%20also%20now,coup%2C%20a%20rights%20group%20says.
この1年、医療者への攻撃は世界最悪だった
PHR(人権のための医師団)は今年1月に発表したレポートで、ミャンマーの医療危機を詳しく伝えていた。わかっているだけでも、415件の医療従事者と施設を狙った攻撃があり、286人の医療従事者が逮捕あるいは拘束された。医療施設への攻撃は128件にのぼり、30人が殺害された。
昨年2月のクーデター以降、軍事政権に反発する医療従事者の不服従運動を抑えるための弾圧に加えて、新型コロナウイルスの感染第3波、軍政に抵抗する市民の武力闘争、これらが絡み合って、ミャンマーの医療崩壊は深刻な危機を迎えようとしている。
UNICEF(国連児童基金)によれば、ミャンマー全体で100万人近い子供の予防接種が行われておらず、麻疹などの感染症の恐れが高まっている。失明を招く恐れのあるビタミンA不足も深刻だという。
https://www.unicef.org/appeals/myanmar
影響は隣国に及ぶ恐れもある
ミャンマーでの医療崩壊は、一国の問題にとどまらない危険もある。
公衆衛生や医療政策を専門とするミャンマー人の医師ユ・ナンダー・アウンは、ロンドン経済大学のブログで、紛争による医療崩壊が感染症の危険を高める例を挙げている。シリア内戦では子供たちへのワクチン接種ができなくなったためにポリオが広がり、14年間ポリオの発生がなかった隣国イラクにまで広がった。内戦が続いたコンゴ民主共和国でもエボラ出血熱が2020年6月まで2年にわたって蔓延し、隣国ウガンダにまで広がった。
https://blogs.lse.ac.uk/globalhealth/2021/06/23/the-post-coup-health-crisis-in-myanmar-is-not-a-local-issue-it-is-a-ticking-time-bomb-for-the-region/
ウクライナ報道の影に隠れて見えなくなりがちだが、ミャンマーの危機は続いている。