農林水産省は2022年4月18日、来日したウクライナ避難民が連れてきた犬や猫のペットについて、狂犬病予防法に基づく検疫対応を一部見直し、特例措置を適用すると発表した。本来、入国前に一定の手続きが済んでいなければ、180日間、動物検疫所で係留検査を受けることになっているが、条件付きで飼い主との同行を認める。
180日間の係留を条件付きで免除
農林水産省によると、犬や猫を連れて日本に入国する場合、狂犬病ワクチンの2回接種と、その後の抗体検査から180日以上の待機、マイクロチップでの個体識別などが必要となる。出国前にワクチン接種と待機を行い、政府が発行する証明書類があれば、検疫期間が短縮されるが、証明書類がなければ犬や猫は180日間、動物検疫所で係留されることになる。この間の餌代や管理費用は飼い主が負担することになっており、1日あたり最大で3000円になるという。
今回適用される特例措置では、ウクライナ避難民が連れてきた犬や猫を対象に、2回のワクチン接種歴があり、血液検査で基準値以上の抗体価が確認できれば、マイクロチップによる個体識別や1日2回の健康観察、動物検査所への週1回の報告などを条件に、飼い主との同行を認める。
同省によると、これまで特例措置は災害救助犬などが対象となっていたが、ウクライナ情勢を考慮し、適用範囲を拡大した。これまで3月26日~4月9日の間にウクライナから5頭の犬が入国し、証明書類などがないため動物検疫所で係留された。
「公衆衛生の向上も重要」との指摘も
ウクライナ避難民のペットについては、避難民が係留期間中の飼育費用として約54万円を請求されたと、テレビ朝日が報道。避難民は「もしお金を支払えなければ、世話をすることができない」と言われたとして、「こんな金額を支払うのは難しい。殺処分されるかもしれない」などと訴えていたという。
オンライン署名サイト「Change.org(チェンジ・ドット・オーグ)」でも、4月16日に農水省にウクライナからの避難ペットに特例措置を設け、国に対し、検疫費用を免除するよう求めるキャンペーンが立ち上がった。
キャンペーンでは「避難民に『日本に来て良かった』と思ってもらいたい。避難されてこられた方と、そのかけがえのない伴侶動物に安心と安全を提供してこそ本当の受け入れだと感じます」と訴え、4月19日現在で約4000人が賛同している。
今回の措置について、獣医師の石井万寿美さんは4月19日のヤフーニュースに記事を投稿。「1950年以前、日本国内では多くの犬が狂犬病と診断され、人も狂犬病に感染し死亡していた」としたうえで、「狂犬病予防法が施行され、犬の登録、予防注射、野犬などの抑留が徹底されるようになり、わずか7年で狂犬病を撲滅して、世界では数少ない狂犬病の清浄国になった」と過去の経緯を説明。「人道的立場から動物検疫の特別ルールを設けても、公衆衛生の向上と公共の福祉の増進を守ることは重要」だと、人道的措置と狂犬病対策の両立の重要性を指摘した。