ロシアによるウクライナ侵略が続く中、ウクライナ東部の都市、マリウポリで戦闘を続けているウクライナ軍のアゾフ大隊が2022年4月11日、SNSに「ロシア軍が有毒な物質を使った」などと投稿した。各メディアが一斉に報じており、中には猛毒のサリンの使用を指摘する報道もある。しかし、13日午後の時点でロシア軍の化学兵器使用は確認されていない。(画像:shutterstock 2022年3月ロシアに破壊されたウクライナの首都キーウの建物(c)Oleksii Synelnyko)
ドローンから有毒物質を投下との報道も
NHKの12日午前の報道によると、ウクライナ軍のアゾフ大隊がSNSに「ロシア軍がマリウポリでウクライナ軍の兵士と市民に対し有毒な物質を使い、複数の人が呼吸困難の症状を示している」などと投稿した。
また、ANN(テレビ朝日)の報道によると、在トルコ・ウクライナ大使館が、有毒物質はドローンから投下されたと発表。ロシア軍が化学兵器を使用した可能性があるという。また、マリウポリの市長はAP通信の取材に対し「街の通りには遺体が、じゅうたんのように敷き詰められている」と惨状を訴え、全体の死者数は2万人を超える可能性があるとしている。
ロシアは1997年に発効した化学兵器禁止条約に基づいて、化学兵器はすべて廃棄したと主張しているが、欧米諸国の間では、近くウクライナ国内で化学兵器が使われるのではないかという懸念が高まっていた。
実際、過去にロシアがシリア内戦に介入した際、ロシアの支援を受けた政府軍がサリンガスなどの化学兵器を使用したとされる。
「事実であれば深く憂慮」と欧米各国は確認を急ぐ
ウクライナからのSNSの発信や現地報道について、米国防総省のカービー報道官は11日、「ロシア軍がウクライナのマリウポリで化学兵器の可能性があるものを使用したとするソーシャルメディア上の報告を承知しているが、現時点では確認できず、引き続き、状況を注視する」とする声明を発表。そのうえで、「報告がもし事実であれば深く憂慮すべきことだ」と懸念を示した。
また、英国のトラス外相はツイッターに「われわれは詳細の確認を急いでいる」と投稿。「こうした兵器の使用は紛争を無慈悲に激化させていく。われわれはプーチンとその政権の責任を追及していく」とした。
バイデン米大統領はこれまで、ロシアがウクライナに対して化学兵器を使用した場合、「相応の対応をとる」と述べて警告を発しており、化学兵器の使用が明確になった場合、欧米各国がさらに厳しい制裁措置を講じることは必至だ。
一方、日本の松野博一官房長官は、12日の閣議後の記者会見で、ロシア軍の化学兵器の使用の可能性について問われ、「報道は承知しているが、他方で、化学兵器の攻撃は確認されていないとの報道も承知しており、引き続き、現地情勢を注視していく必要がある」と情報の確認が必要だとの考えを示した。 そのうえで「生物化学兵器の使用は、いかなる場所、主体、状況でも容認されない。4月7日のG7外相声明でも、生物化学兵器のいかなる使用も受け入れられず、深刻な結果をもたらすことになると警告している。引き続き国際社会と連携しながら対応していきたい」と述べた。
画像:shutterstock 2022年3月ロシアに破壊されたウクライナの首都キーウの建物(c)Oleksii Synelnyko