5月に就任する韓国の尹錫悦(ユン・ソギョル)次期大統領にとって、中国や北朝鮮との関係と並んで悩ましいのが、韓国の出生率の低さとそれに伴う人口減少の問題だ。一方、 尹次期大統領は「反フェミニズム」で大統領選を勝利したといわれている。韓国の未来は明るいのだろうか?(写真はイメージです。 画像:shutterstock /2018年韓国ソウルのMETOOデモ)
韓国の合計特殊出生率は統計開始以来最低の0.81%
韓国の合計特殊出生率は、前の年の0.84からさらに下がって0.81となった。韓国聯合通信によると、これは1970年に統計がとられ始めて以来、最も低い数字で、4年連続で1%を切った。韓国はOECD(経済開発協力機構)加盟38カ国の中で唯一1%以下の出生率が続く国で(OECDの平均値は1.61)、韓国統計局は下落はこのまま続き、2024年には0.7まで落ちるだろうと予測している。
不況が長引き、住宅価格の高騰が続く韓国では、若者が結婚を諦めたり、出産を先延ばしにする傾向が続いており、死者数が出生数を上回っていることから、昨年人口は57,300人減少した。出生数が減れば、労働人口も減少し、さらなる経済不振が予測される。
https://en.yna.co.kr/view/AEN20220223004000320
韓国の『コリア・ヘラルド』紙は、人口減少と社会の高齢化が進めば、社会保障費が増大し、企業にとってはマーケットの縮小と生産性の低下といった悪循環がさらに進むと警告する。人手不足から防衛上の懸念も深まると指摘する。
これに対し、尹次期大統領は、妊娠や出産を奨励する新たな策を打ち出さざるを得ないし、何より、韓国の若者が子供を持とうという機運を高める方策を打ち出さなければならないと論じる。そのためにはソウルとその近郊への一極集中を是正する必要があり、政府は、国のほぼ中央に世宗(セジョン)市という新しい都市を作り、世宗議事堂や議会図書館を建設し、議会事務局や政府行政機関などを分散移転する事業を進めている。
http://www.koreaherald.com/view.php?ud=20220309000107
反フェミニズムで選挙戦を勝ち抜いた
しかし、女性が子供を産んで育てようという気持ちになる環境を整える意欲が次期大統領にあるのかどうかは微妙なところだ。というのも、尹氏は「反フェミニズム」で大統領選挙を制したと目されているからだ。
英『ガーディアン』紙は、「アンチ・フェミニストが次期大統領に選ばれたことで、ジェンダー平等の希望は足踏み状態へ」という記事の中で、「尹氏は若い男性の支持を固めるために、韓国のジェンダーの分断の火に油を注いだ」と書いた。
尹氏はそもそも出生率が低いのは「フェミニズムのせいだ」として、行政機関である女性家族部の廃止を公約として掲げていた。他にも、「不当な性暴力被害の訴え」への罰則強化を掲げており、性犯罪の被害者が訴え出ることをさらに難しくするという批判がある。選挙の時の出口調査によると、20代の有権者の中では、女性の34%が尹氏支持だったのに対し、男性の59%、30代男性では53%が尹氏支持だった。
尹氏の勝利の後、韓国の女性団体「Korea Women’s Associations United」は、次期大統領が「時代遅れで嘘にまみれたヘイト扇動でジェンダー対立を煽って、多くの人々を失望させた」として、次期政権は性の平等を実現する責任を果たすべきであると求めている。
「ユン・ソギョルほどアンチ・フェミニズムに乗じた候補はいない」と書いたのは、米『タイム』誌。選挙期間中、尹氏は女性家族部が男性を「潜在的性犯罪者」のように扱い、フェミニズムが「男女間の健康的な関係を阻害」して出生率を下げていると言い、韓国に「構造的な性差別はない」と発言して反発を招いていた。
https://time.com/6156537/south-korea-president-yoon-suk-yeol-sexism/
産む性が大切にされない社会では、次の世代を育む機運が盛り上がるべくもないだろう。韓国の出生率下落に歯止めがかかる見通しは立ちそうもない。
画像:shutterstock (2018年韓国ソウルのMETOOデモ)